『ダンジョンの守護者「オーガさんちのオーガニック料理だ!!」』

チョーカー

賢者さんたちとの再会


 「あやうく、不運バットラックと踊ダンスっちまうところだったぜ」



 障害物に溢れる森林コースをウィリー走行と連続ジャンプで攻略していくオーガさんの運転スタイル。

 後部座席タンデムシートに座る亮に地獄を見せた。



 そんなこんなで町である。

 亮は、この世界に来て初めてダンジョンから出た。

 どうも中世ヨーロッパ風の世界だと、かつて知り合った賢者さんが聞いていたが……

 バイク――――いや、鉄騎馬みたいな乗り物があるなら――――



 『実はスチームパンク的な世界でした!』



 みたいな落ちがあっても驚かない心持だった。

 しかし――――それでも亮は驚いた。



 町の中心を通る道は、オーガさんの鉄騎馬と同じタイプの乗り物を何台か見かけた。

 他にも馬車らしき乗り物。 未来の自動車のイメージみたいに宙に浮かぶ乗り物。

 それらは荷物を担いだ男が、自分の足で追い越していく。

 たぶん、飛脚的な職業の人だろう……



 「混沌カオスだ」



 驚かせたのは乗り物だけではない。

 確かに建物は中世ヨーロッパ風の建築物が多い。

 他には酷くカラフルな建物もある。 

 異世界と言うより、まるで近代美術モダンアートの世界に迷い込んでしまったかのように錯覚してしまう。

 ピンク色の建物に赤色のラインが波打つよう書かれ、その上に緑色で×が書かれていたり……



 「あの、この世界の町ってこんな感じなのですか? ここが何かの特区みたいになっているとかじゃなくて……」



 思わず、オーガさんに質問した亮だったが、返事は――――



 「さぁ? 人間の町は、ここにしか来た事がない。でも、ここが妙な感じがするのは私も同じだ」



 そのまま、2人は駐車場らしき場所でバイクを置き、徒歩で町を進む。

 すると――――



  「あっ! チートくん! 生きてた!?」



 何か聞き覚えのある声。

 声の方角を見ると、亮に迫り来る白い影。



 「なっ!」と驚きと共に構える亮。

 だが、しかし――――



 「き、消えた!?」



 感じたの浮遊感のみ。

 超低空タックル。 そう判断できたのは倒れた後だった。



 「よかった! 良かったよぉ! 食べられちゃって二度と会えないと思っていたよぉぉ!」



 両足にしがみ付き、叫ぶ女性。

 まるで「これは自分の物だ」と主張するかのように亮を足に頬を擦り付けているのは――――



 「ちょ、ちょっと賢者さん! 止めてください。こんな町中で!」



 そう賢者だった。



 「どうする? 殺気がなかったから放っておいたが……とりあえず殴殺しておくか?」



 隣からピリついた口調のオーガさん。



 「殺さない。お願いだから殺さないであげて! たぶん、この人。錯乱しているだけだから!」



 ざわざわと周囲の通行人も足を止めてざわめき始める。

 注目を浴びすぎている。俺だけなら兎も角、オーガさんの正体がバレるのは不味い!

 そう判断した亮は、「賢者さん、離してください」と賢者の頭部を押して離れようとする。



 「この人、こんなに腕力あったのかよ」



 万力のような腕力で固定されて、ピクリとも動かない。



 「どうする? やっぱり――――」

 「いや、暴力はなしでお願いします」



 「わかった。でも、わかってほしい。私の忍耐力が試されているのだ」

 そう言って、オーガさんは天を仰いだ。



 (いや、なんかキャラが変わってますよ、オーガさん!?)



 しかし、依然として賢者さんは頬擦りを止めない。

 なぜか、わからないが、このままでは本当にオーガさんが暴れ始めそうだ。

 よく見たら、小刻みに震えている。



 どうする? どうやって脱出する? この状況から……



 そんな時だった。



 「すまない。通してくれ」



 野次馬を押しのけて現れたのはピンクのおじさん。



 「すいません! 助けてください! リーダーさん!」



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 あの後、あっさりと賢者を引き剥がしたリーダー。



「意図的に状態異常を起こす魔法を酒に施していたみたいだ。本当に呆れたやつだ」



 そのまま瓶を取り出すと、彼女の口に琥珀色を流し込んだ。

 どうやら、状態異常を治すアイテムのようだ。



 「暫く、落ち着かせれば元に戻る。しかし、ここでは人目につきすぎるな。移動してもいいか?」



 亮たちの返事を待たず、リーダーは賢者を肩に担ぎ、そのまま歩き始めた。

 余計に目立つのでは? と疑問も浮かんだが、意外と周囲の人たちは無関心だった。

 亮とオーガさんが連れて来られたのは、賢者が飲んでいた店。

 つまり、冒険者ギルドの目前だった。

 オーガさんにとって敵地の真ん前のはずだが、彼女に動揺の様子はない。

 それどころか、パンケーキらしきスイーツを幾つも注文して、楽しんでいた。



 「ん? なにかついてるか?」



 「頬についてるよ」とオーガさんの頬についていた食べかすを取る。

 「おぉ! ありがとうよ」とオーガさん。



 そんな様子に正気を取り戻した賢者さんは、ショックを受けたかのような青い顔をしていた。

 もしかしたら、状態異常の副作用かもしれない。

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