幽霊な僕と幽霊嫌いな君と

神寺雅文

第一談 奇人変人でも美人8

 そんな事があったので、それから数時間はずっと心ここに有らずが続き、平和ボケも甚だしい家猫の様に机を枕に惰眠を貪った。
 夏休み目前で俺が“生きていよう”が“死んでいよう”が、明日から期末試験が誰も望んでいないのに大々的に催されるので、本日の授業は半日で後は自宅で各々自主勉しろって事になった。それを教師達の目論見からえらくかけ離れた表情をする不真面目生徒の木更津からたった今聞かされた。
「今日はゲーセン行ってカラオケ行ってボーリング行って、」
 どうやら自主勉するつもりは毛頭無い様で、こいつのスクールバックの中身を見たら教師達はどんな表情をするだろうな。なんせ教材は皆無で入っているのは、香水と整髪料やファション雑誌多数であり、オマケに学生の本分は童心なりって刺繍がされた裏地に教師は言葉を無くすだろう。
「お前、勉強する気な――」「ノッノ~ン、剣ちゃん今日はブレーコーだぜ? その為の半日だ、つまらない冗談はよしてくれ」「……ああ、そうだな」
 カタカナ語を間違った発音で口にする木更津のバカさ加減には愛敬すら感じ、俺は唇を塞いできた香水臭い人指し指を溜息と共に振り払い、自分も不良の端くれここで勉強したがる学生では無かったから薄いカバンを持ち立ち上がる。
 それに気分を紛らわせたくてしょうがなかった。彬音天子、木更津、黒フード女、そして鈴宮司澪に立て続けに本日死亡宣告されたんだぜ。そりゃ木更津と一緒に勉学から逃避する為に昇降口へと歩きだす。
「安心しろ、今日はお前の為に黒髪の女性を三人も誘ったぜ! これでお前も命拾いできるっしょ」「黒髪だ? もしかしてあの占いの事か? なんでお前がそこまで気にするんだよ」「何故って、みすみす親友を死なせる訳にはいかないからな! 俺に出来る事は全力でやるぜ」
 こいつ……本当にイケメンだなおい。ただ、完全にあんな占い妄言をあのコラムだけで信じてやがるな? どうやったらこれでもかって胡散臭いおばさんの占いを素直に聞き入れられるんだよ。それならすでに死に掛けた俺自身もそれを信じないと木更津の気使いが無駄になる。
「はあ……」
 だから少し心が揺さぶられて捨てられた子犬の様な視線を太陽光に負けない眩しい笑顔をする親友に向けた。
「なに、心配すんなって! 我らが占い師テンテンが剣市にアドバイスしたいみたいだし、あと何故かオカケンの部長も剣市を気にしてたぜ?」「テンテン……」
 彬音か。あいつの噂が本当なら何かアドバイスを貰った方が言いのかな? そー言えば黒髪で朗らかな女の子だったな。ちょっとトッキー(ときめきの略)した自分が恥ずかしいのだが――
「オカケンだと……?」
 しかも部長。すれ違う生徒が殆どいなくなった階段で怪訝な表情をこれからの予定を考え浮かれる女ったらしに投げつける。
「そうなんだよ、いままで謎のベールに包まれていたオカルト研究部・通称オカケンの部長がお前の事を聞いてきたんだよ」「なんて?」
 掌に震えが走る。このタイミングでとんでもなく危ない奴が俺に近づこうとしている恐怖が悪寒をもたらしているんだ。「死んだかって」「……」
 絶対あいつだ。いやむしろ、あいつしか思い当たらない。あの黒フードの毒電波女に違いない。鈴宮司澪に次ぐ我が校二番目にデンジャーな集団・オカルト研究部の部長に相応しい女だ奴は。
 そのオカケン部長の木更津への発言とオカルト研究部の部長って言う名称が、これ以上ないってほどに不気味な風体を想像させる女はあいつか、学園一変な女の鈴宮司しかいないんだ。これで恐怖しない生徒はこの学園に一人として存在しない。
「俺、やっぱ死ぬのかな」「おいおい、剣市らしくないじゃんか。もしかして、なんかあったのか?」「聞いてくれよ、実は――」
 相変わらず人の心を読むのが上手い木更津に助け船を出そうとする。
「澪ちゃーん、待ってよー」
 が、いよいよ不安になった俺が木更津に泣きつこうとしたら、階段の終点である昇降口に繋がる廊下からそんな声が聞えて来た。
「遅い。呼び出したのはツキからだろ、何をしていたんだ」「だってこの本重いんだも~ん、きゃっ」
 踊り場と廊下の壁で出来た死角の直ぐ近くで、大量の紙質の束が散らばる音が聞こえドテーンと肉厚な音が短い悲鳴と共にその後に続いた。
「何だこ……んは? 植物の……に花の図鑑。これがどうし……」「澪ちゃんが探してる【~~バナ】がついに見つかったんだよ!」
 転んだ本人だろうか。ほんわかしてちょっとドジそうな声色の声が興奮気味にする。それに対してのクールボイスはノイズが混ざり聞き取れなかった。
 が、誰の声だかはすでに分っていた俺達は息を潜めて事の著しい進行を早急に願っていた。
「な、んだと、死者の魂を呼び戻す~~花があったのか……?」「お、落ち着いてよ澪ちゃん確かにこの本に書いてあるんだよ。死者の血から出来た種子には人を生き返させる力があるんだって」
 お互い念願の思いが叶った様に何とも信じがたい迷信を清涼感溢れる弾んだ口調で話す二人。
「おい、剣あいつらやばいっしょ……違う場所から帰ろうぜ」
 女子との会話の為に化粧品の情報まで仕入れるさすがの木更津さんも、苦々しい表情でこの手の話には冷めているのか耳打ちでどうにかここから脱出する方法を提案してきた。
「剛、先に行っててくれないか? 俺はやる事思い出したからさ」
 だが、そんな二人の人格を疑う様な危ない話に、まさかの俺が興味を惹かれてしまっていた。人間の趣味や嗜好などは、切っ掛けさえあれば直ぐに変わる事をこの時の俺が如実に表していた。
「は、何言い出すんだよ? なら俺も手伝うから要件言えよ」「すまん、女子を待たせる様な事は出来ないだろ? 剛は先に行け、後から合流するからよ」
 久しく俺に下の名前を呼ばていなかった木更津は、切れ長の双眸を見開き頬をほころばせ居住まいを正すが、俺はその胸を軽く小突いて立たせた。
「分った。絶対に来いよ? スッとぼかしたら親友止めるからな剣!」「それは嫌だな、待ってろ、必ず用事済ませたら行くからよ、俺たちは何時までも親友だ――」
 来た階段を逆走しながら手を上げる親友に俺も手を振り返してそれを見送った。この時、自分が言っていたセリフが俗に言う死亡フラグだとはもちろん、ネットサーフィンしない俺には見当もつかない言葉であった。
「誰か来たみたいだから続きは教室でね。まだやる事あるんだよね?」「ああ、今日はバカに振り回されて散々だったからな。~~花も大事だが、一応あのバカも級友、ほっとく事は出来ない」「澪ちゃん見た目よりずっと優しいもんね~困ってる人をほっとけない人情者は大変だ~」「からかうなよ……。私は自分の仕事をしているまでだ、ツキもいろいろ連れてくるある意味優しい子だろ――」「あ、ひっどおぉぉぉい――」
 なんだか楽しそうな会話が遠のいて行く。あいつも一介の女子高生の様な友達との会話が出来るんだな。なんだか安心したので、会話の節々に出てきた“何とか花”を探しに一人であそこに行くか。
 二人がいなくなった誰もいな昇降口で俺は左足に若干ながら違和感を感じていたが、変にテンションが高揚し究極の不思議電波女の鈴宮司に言われた事を簡単に破ってしまった。
 そう、俺は禁忌を犯し一人で放課後を過ごして、四人の宣言通りに死んだんだ――。
「仕方なかったんだよ……どうしても見つけたい物があったから……」
 長い長い走馬灯を経て、俺はようやく自分に訪れた悲劇を思い出した。
 昨日の放課後、俺は死んだんだ。確かにそれだけは覚えている。繋ぎとめた記憶の最後がどこかの崖から落ちる瞬間で真っ黒く塗りつぶされてんだよ。
「見つけたい物? 命より大切なモノなのか? それは一体何だ?」「……えっと」
 なんだっけ? 何を探しに……どこに行ったんだっけか? さっぱり思い出せない。
「なんでだ! 俺まだやりたい事あったのに、思いだせないモンの為に死んだのかよ!」 
 やっと真実に気が付き、己の結希生命体としての肉体がもうどこにもないのを、反対側の風景が透ける半透明の体を地面に崩して嘆いた。
「……」
 いくら鈴宮司が悪名名高い奇人でも、悲哀で泣き出した俺を責める事はしないで静かに見下ろしている。
「なぁ……、俺このまま死ぬのか? まだ十七年しか生きてないのに死んじまうのか? なぁ、鈴宮司助けてくれよ!  お前なら何とかできるだろ! 俺、まだ木更津と遊びたいんだよ!」「諦めろ。厳密にはお前はもう死んでいるんだ、後は消えるだけ。生命及び肉体の再生は禁忌だ」
 俺が解れ一つない膝辺りにすがり付こうとしたら足払いをされ、鈴の音を響かせ彼女は刀を抜いた。
「本当に残念だよ。お前も知るように、私には世間で言う幽霊が見える。そして」「えっ」「悪霊と化した人間の残りカスをこの世から排除する事が、私達送りおくりひとの仕事だ! 級友のお前とて例外では無い消えろ!」
 信じられなかった。クラスメイトが本気で、泣きべそかく俺を後光が射すように白色光を出す摸擬刀で斬り突けてきた。確固たる死亡原因を思い出した訳ではないけど、自分が幽霊になってから皮肉にもこいつの本当の姿が分った。こいつは本当にオカルト研究部が好きそうな奇行を心置きなく大義名分で出来る人種なんだ。世間は本当に何が起きるか分からないのだ。
「滅、滅、滅、悪即斬、成仏しろ」「ふざけんな! お前のは除霊でも浄霊でもなんでもないわ! 単なる虐殺だ」「人間に悪さする奴に、極楽浄土に行く資格など無い! 心置きなく地獄で悔やめ」「あれは偶然だ当たるなんて思わなかったんだよ。第一、未練があるからこの世界に幽霊になってまでもい続けようとすんだろよ。心置きあり過ぎて成仏できるかああああ」
 神々しい光を容赦なく出す摸擬刀やらお札を飛んで跳ねてなんとかかわし、マジ電波ちゃんを落ち着かせようとした。自分がこんな姿になった事でこいつの奇行の原因が分るなんてホント皮肉だよな。
 はははっ、俺はそんなお前と仲良くなりたかっただけなんだぜ? トラ助を抱かせたかっただけなんだぜ? お前が“望む何か”を渡して喜ばせたかっただけなんだぜ。

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