初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束38

 胸躍る春香との“二人っきり”での職場体験前日、僕らは学園の小会議室を訪れていた。
 よく考えれば分かることだが僕ら以外にも保育園を希望する生徒はいる訳で、今ここに集まっているのは総勢十一人の男女だ。内訳は男一人に女子十人である。
「もう一人いるんだけど今日は家庭の事情で欠席です」
 このグループを担当することになった四十半ばの女性教諭が名簿を見ながらそう言うと、ホワイトボードに三名ずつを一チームにした班を記していく。
「良かったねみやちゃん、同じ班だよ」
 初っ端から不安にさせるんじゃない。まさかここにきて別の班になったらどうしようと頭を抱えていたが、春香の微笑みを見ればホワイトボードを顧みずとも結果は分かった。
「あれ、まさかの男ダブり? ああ、もしかして拓哉が言ってたA組の子か」
 だが、春香に遅れて班分けを確認したところ、ただでさえ男が僕だけだと言うのに、同じ班に別の男の名前が書かれていた。女性らしい整った字面で「寺嶋てらじまとも」と。
「え、うそ……なんで? どうして“朋希”が?」「し、知り合いなの春香?」
 あの春香が男の名前を呼びすてにした? それだけでも耳を疑うのだが、春香の表情は名状し難い戸惑いとも喜びともとれる表情が展開されており、眼も疑ってしまった。
「う、ううん! 知らないよ! 勘違い! 字も二年A組所属も同じだけど、朋希が保育士目指すわけない。同姓同名の別人だよ」「いや、それ、同一人物だと思うけど? どんな関係?」「そんなわけないよ。ほら、先生が話し始めるよ? 静かにしよう」
 周囲では「一緒になれてよかった」や「小泉さんも保育士志望なんだ」や「卒業したら同じ短大だね! 頑張ろうね」など、とても賑やかに朗らかに将来の夢が保育士らしい人間性が出た会話が展開されている。
 多少の雑談は許される雰囲気――そもそも、明日から一週間同じ班になる人間同士の親睦を深める為にこの時間が設けられたと思うのだが、春香は余計な事をこれ以上詮索されたくないのかだんまりを決め込んだ。

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