初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束34

「う~ん、なんだろ嫌な感じはしないかな? でも、この匂いの中にずっといたら変な気分になりそうだから換気するわよ?」「どうぞどうぞ、好きなだけ換気してくれ。あ、ごみ箱にゴミ入ったままだから捨ててくるわ」「そんなにティッシュ使って風邪でも引いたの? いよいよ来週なのに休むとかありえないからね?」「飲み物零して拭いただけだよ」
 映画館のポップコーンよろしく、山盛りにティッシュが積まれたゴミ箱をもって一旦一階へ退避。我ながら強烈な生臭さを放つゴミ箱を菅野家で一番デカい燃えるゴミ専用のゴミ箱に突っ込んで男子高校生の夢と希望の無残な残りカスを処理した。
 ときたま知らないうちに空になっているゴミ箱を見ると、翌日は母さんの顔が見られないのはきっとやましい気持ちがあるからだろう。その時の母親の心境とはどんなものなのか。息子は一生
 知ることはないのだろう。今のところ自制する気もないが。
 ま、今はそんなことどうでもいいか。母さんだって男の子を出産した時からいつかは息子が果てて生み出した青春の涙を片すことを覚悟していたはず。とりあえず、奈緒にバレなかっただけ幸運とするべきだ。
「で、話って何よ?」
 僕が部屋に戻りゴミ箱を所定の位置に戻すと、ベッドに座っていた奈緒が先に話を振ってきた。
「最近どう? あんまり一緒にいることなくなったから気になって」「なに? 春香と一緒にいるだけじゃ満足できなくて、あたしにも構ってほしいの? 贅沢だね〜あたしたちの幼馴染様は。ん〜たしかに、最近この匂い嗅いでないわね」
 屈託のない笑みを見ると冗談なのだろう。クスクス笑って人のベッドに横になりやがった。枕に顔を埋めるな、臭いぞ。
「春香のことまだ許せないのか? 奈緒らしくないじゃないか?」「そう? あたしって根に持つタイプよ? 過去とかずっと引きずる乙女な性格だし」「またまた〜、奈緒の大事な熊さんのぬいぐるみ汚したときはすぐ許してくれたじゃんか」「そんなのいつの話よ、あのあとすぐに新しいのなけなしのお小遣いで買ってくれたのは誰かな? 今回の話と昔の話は次元が違うのよ」
 人のベッドで縦横無尽にゴロゴロする奈緒。少しは男の部屋、無防備な姿、チラチラ見えるヘソを気にしてもいいと思うのだがね。

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