初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束10

「一つ、今現在で春香に関わることで思い出したこと全部教えなさい。出会いから別れまで。その間に誰に会ったのかも。深く関わった大人もよ」「急にいろいろ聞くなって、僕だってまだ整理しきれていないんだから」「ゆっくりでいい。みやびのタイミングでいいから、できる限りしっかりと思い出して。知りたいことがあるならあたしが出来る限り答えるから」
 なぜそこまで聞き出したいのか理解しがたいけど、奈緒が協力してくれるならこのチャンスを逃すわけにはいかない。寝起きで鈍る海馬をフル活動させ、記憶の奥底に眠る春香との思い出を蘇らせる。
「あの樹から一番近い部屋が春香の部屋で、春香も僕らが通っていた保育園の園児だった。確か、誰かから春香のことを連れ出してほしいって頼まれた気がする。それが誰だったのか分からない。奈緒は知ってるか?」「当時、あたしたちが通っていた保育園の先生よ。みやびも大好きだった人。思い出せない?」「ああ、無理だ。何も思い出せない」
 絶対誰かに言われたんだ。「玄関開いてるから」って。でも、誰に言われたのか、その人がどんな先生でどんな顔をしてるのか。全然、まったくと言っていいほど記憶にない。
「あ、そういえば、春香のお母さんって保育士なんだよね? 僕らの先生だったって春香から聞いたけど?」「そうよ。素敵な保育士さんだったわ」「そうなんだ……、ダメだまったく思い出せない」
 春香の思い出話と僕が見た夢、そして奈緒が教えてくれた真実。どれもが全部ホントの事だと思うんだけど、僕の頭の中に春香のお母さんの痕跡がまったくない。春香のことも忘れたほどだ、春香ママのことも忘れてしまうのは無理ないが、これほどまでに何も思い出せないとは、自分のことなのに信じられない。
「春香から聞いてたわ、みやびが春香ママを忘れてしまっていること。まあ、無理もないわよ、春香のことも忘れるくらいだからね。少しずつ思い出せばいいんじゃない? 春香だって思い出してもらって嬉しかったって言ってたし」「でもさ、おかしいじゃんか。全然覚えてないんだぜ? こう、何か意図的なものを感じるくらい、記憶の一部が欠落してる。奈緒とのことなら思い出せるのに」「春香が引っ越した時の事はどう?」「う~ん、さっぱり。いついなくなったのかもわからない」
 ベッドに腰を下ろし頭を搔きむしる。奈緒は勉強机の椅子を引っ張り出してそれに腰を下ろす。

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