初めての恋

神寺雅文

解き明かされる過去67

 スタンドからの鳴りやまない我が校の校歌斉唱。そんなお祭りムードの中、ヒーローインタビューなるものが行われ拓哉がお立ち台へと昇った。
 伝統の一戦への意気込みから負傷して交代となった寺嶋の安否確認まで、おちゃらけながらもしっかりとしたトーンで質問に答える拓哉。リップサービスで「選手権もハットトリック決めますから、応援よろしく! なんてね! 生意気いいました~」と笑いを誘っている。TVカメラに対してピースを送ったり意味もなく髪をかき上げる仕草をして気取って見せたりしている。
 どこまでもいつもと変わらない拓哉の姿に、泣いている臨時マネージャが一人いたことを僕の胸だけにしまうことにした。茶化すと殴り飛ばされかねない。春香よりもこういうのに弱い子なのだ。
 だから、そんな幼馴染を人々の視線から守るために無駄にデカい体を物陰として貸している僕に拓哉が目で合図をした。下手くそなウインクだなって思ってもいたが、後片付けでベンチ内を走り回る優香さんを呼び寄せることにした。
「どしましたの雅君? あれ、奈緒さんどうしました?」「え、ええ、目にゴミが入っちゃっただけだよ」「そうなんですか?」
 急に呼ばれたと思ったら泣いている奈緒を見て困惑する優香さんをしり目に、拓哉に僕も目で合図を送る。
「あ~と、下手くそなウインクありがとう。ここで、大事な発表があります!」
 下手くそってお前な~。こっちだって急に「今から告るぞ」って合図されても困るっての。まあ、それはいいか。さっさと決めちまえよ、このロマンチストめ。
 ヒーローインタビューを取り仕切っていたどこかで見たことのある女性アナウンサーが固唾を呑んで拓哉に聞き返す。
「その、大切な発表ってなにかな?」「え~、やべ~マジ緊張するわ! こんなの試合でも味わったことない」「お前はバカだからな~」「普通試合も緊張するわ!」「答えなんて分かりきってんだろ! 男見せろ拓哉!」仲間たちからヤジが飛ぶ。ドッと笑いがおこり、拓哉が真剣な表情をするとさっき今でのお祭り騒ぎが嘘みたいに静まり返る。「俺は、サッカーしかできないバカでだらしない男だけど、サッカーよりも大事なモノを見つけました。もちろん、サッカーも大事だけど、俺にとっては誰よりも大切で、どんなものにも代えがたい超~大好きな女の子がいます!」
 さて、無粋な詮索なんていらない。何かを質問しようとする女性アナウンサーを押しのけ、もう一人のヒーローを無理やり登壇させる。

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