初めての恋

神寺雅文

解き明かされる過去49

「拓哉が帰って来たときに、恥じずかしくない様な強豪校であり続けようとしたんだ。「あいつがあの真田のライバルでエースストライカーなんだなすげー」って思われ続けたかったんだ。でも、もう無理なんだな」
 あれほど悪態に悪態を重ねてきた寺嶋が、愛する母親が余命宣告されもう親孝行が出来ないと告げられた子供の様な目をする。
「わりーな、土曜日が最後だ。それで俺の高校生としてサッカー人生は終わりだ」
 それに反して拓哉は爽やかスマイルを浮かべた。
「土曜ってまさか、出るつもりなのか?」「当たり前だろ。夢半ばにして四人いや、サッカー部とユーを裏切ることになってしまった俺が出来る最後の恩返しだ。秋までの時間は稼ぐつもりだ」
 先にも言ったがこの五月に行われる伝統の一戦は、もはや選手権の決勝戦と同じ意味を持つ。ここに勝たなければ選手権での優勝など夢のまた夢であるし、将来の道も不安定になってしまう。ましてや、悪評でも広まったら一大事である。少なくとも三年生の進路には響く。それに、エース代行といまは言われているが、寺嶋の怪我が公にでもなったら寺嶋の選手生命が危うい。
「無理だろそんなの! そもそもケガの具合は?」
 秋葉が至極真っ当な反論をする。が、拓哉は平然と答えた。
「ケガはしたが、一生出来ない訳じゃない。選手生命が短いだけで問題ない」
 それを聞き草野が今度は口を開く。
「監督だってなんていうか」
 おお、ここは僕の出番である。隙をついて胡坐をかいていたが挙手をする。
「そのことだけど、監督には許可取ってあるよ」「嘘だろ? 俺達でも選手権の決勝でしかお目にかかれない監督に臨時マネージャーであるお前が会えるわけないだろ」
 四人が顔を見合わせて困惑する。
 いやいや、マブダチだ。好きな女性のタイプも合致するほどの相性の良さだ。
「みんなももう知ってるだろ奈緒&春香を? 雅はその二人と特別仲良いし、話くらいは聞いたころあるだろ? その二人のファンクラブを作ったのは紛れもなくうちらの監督だ」「マジか?」「大マジ。それに、マネージャーになるのだって簡単じゃないんだぜ? ほら、昔あったって聞いたろ、他校に繋がりのある子がマネージャーになってスパイしてたって昔話。そのせいで今はそれなりに厳しいんだよ入部するのも」「なるほど、監督のマブダチだからここ最近“四人”も新規で入れたのか」
 と、言ったのは寺嶋である。僕は即聞き返した。
「四人? 男子一人と女子二人のはずだけど?」「いや、いたろあの地味な子」「あ~名前はわかんないけど眼鏡掛けた子か」
 もしかして道明って子か。いよいよきな臭くなってきた。
「えでも、拓哉のこととか結構聞かれたし、去年の秋のこととかも。熱心だなって少し話しちゃったぞ」「お前、言ったのか二人の怪我のこと?」
 草野が現役サッカー部で主力の三人から冷ややかな視線を向けられたじろぐ。
「だって、好みだったしほら、他の三人とは違い目立たないからまさか、裏があるとは思わないだろ」
 拓哉や寺嶋の怪我のことは僕ですら最近まで知らなかったのは、かん口令が布かれていたからである。他校にもれて良い情報ではないのは確かであるから。そもそも情報漏えいの前例もある。
「やばいな雅」「マジでどうする拓哉」
 いつも通りになったF組コンビが危険を察知してお互いの名を呼び合う。拓哉も何かピンときた様だ。春香が全部話したって言ったし、ここに来たのもきっと春香が連絡したからに違いない。「やばいってなにが?」
 寺嶋が僕らの発言に眉を顰める。と、それと同時に神出鬼没なあの笑い声が室内に木霊した。
「笑えん状況になったと思ったが、思いのほか大丈夫そうじゃね。こちらには奈緒&春香という女神様が付いてるからかの」「校長先生、冗談はいい加減にしてください。わざわざ私たちまで呼び出したのには意味があるんですよね」「雅君! 大丈夫?」
 校長を筆頭に奈緒、春香、優香さんと続いて四人が登場した。心なしか、拓哉の顔が強張ったのはどっちの女の子のせいだろうか。
 その視線の先を掻い潜りイの一番に僕の元に駆けつけてくれたのは春香である。ああ、抱かれたいなこの体にもう一度。なんてね。
 それよりも、奈緒が気になることを言っている。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品