初めての恋
解き明かされる過去28
五月二十三日月曜日、放課後。
「お話は雅君から聞いています。どうか、たーくんのこと、サッカー部のことよろしくお願いします」
僕と出会ったころの不機嫌な表情が嘘の様に、朗らかな笑みを優香さんが奈緒と春香に振りまく。嬌声交じりの声色で名を呼ばれてなんだか照れくさくなってしまう。
鼻の下が伸びていたのであろう、奈緒に肩パンをされたのは言うまでもない。
「なによ、みやび。こんな可愛い子といままで二人っきりで何してたの?」「何抜かすか。僕にそんな度胸ないの知ってるだろ? それに僕が好きなのは春香だ」「ふふ、分かってるってからかっただけよ」
例の如く入部理由は「社会勉強」と偽り、滞りなくサッカー部へ潜入出来た僕達三人は
優香さんに導かれ件の一軍グランドへ案内された。その道中で奈緒が怪訝な表情を僕に向けてきた。耳元で意地悪な事を言うもんだから、すかさず決まり文句で返した次第だ。
「噂通りに、仲がいいんですねお二人は」「そうなんです、私もなんだか妬けちゃうくらいに二人は仲良しです」
僕らのたわいもないやり取りを目の当たりにして優香さんが呑気にそんなことを言い、春香も言葉とは裏腹に微笑んでいる。
今日からは僕一人ではないのだ。俄然力が湧いてくる。三人集まれば何チャラって言うしね。
「おうおう、なんだなんだ? 男だけって聞いてたけど、そっちの女二人まで付いて来たのか?」
練習が始まってもキャッキャウフフしている僕たちの背後から、聞き覚えのある不愉快な声が飛んできた。振り返る必要もない。僕達三人から一斉に笑顔がサッと消した。
「寺嶋君、そんな言い方は辞めてください。三人は忙しいサッカー部の話を聞いて自分達からサッカー部に協力をしたいって買った出てくれたんだよ」「へ~協力ね~? 社会勉強って響きは良いが、どうせ俺達の情報を他校に漏らそうって魂胆じゃないのか?」
固まる僕らの代わりに優香さんが身振り手振りで寺嶋に事情を説明したが、素直に信じる人間ではないのは知っていた。言葉だけで人をここまで不愉快にさせられるとは、恐れ入るぜまったく。
「校長先生の承認もしっかりもらった。言われもない疑いをかけないでもらえないかな」「ほ~随分と強気だな~、高橋達からの指導が甘かった様だな」
にっと口角を上げた寺嶋が僕の肩に腕を回す。
「わりーけどリハビリ付き合ってもらえね? 一人じゃきつくてよマネージャーさん」「なら、私たちも手伝うわ」「女はすっこんでろ!」
言葉が刃物に具現化されていたら、奈緒の胴体が真っ二つになっていてもおかしくないほどの怒鳴り声である。耳元で叫ばれ鼓膜が破れそうになった。
「これは男同士の話しだ。優香、そいつらは任せたぞ。大事な時なのはお前なら十分わかるよな? 拓哉の大切な幼馴染ならなおさら」
言い方ってものがあるだろと食って掛かろうとした矢先、奈緒が潔く「そう、男同士の問題なら仕方ないわね」って呟き、おどおどする春香の手を引き優香さんに先導されて屋外グランドへ向かっていく。
意気揚々と三人で出向いた初日からラスボスと二人っきりか。嫌な予感しかしない。RPGで言うと始まりの村から速攻でレベル五十のドラゴンに遭遇したような気分だ。棍棒と布服だけでどうしろと言うのだ。せめて僧侶と格闘家はほしい。
「じゃあ、俺達も練習しような~。マネージャーなら最後までちゃんと付き合えよ」「そろそろ離せよ暑苦しい」「ダメだ、逃げそうだからなお前」
筋骨隆々とした体にがっちり肩を掴まれては逃げるもなにもない。幾ばくか左足を庇うように歩く寺嶋に連れてこられたのは、フットサルコートくらいの大きさの室内練習場であった。
「よし、お前そこに立ってボール取れ」「は?」――、少々威圧的に言葉を返してしまった。「ゴールの前に立てって言ってんだから、キーパーやれって言ってんだよ」
最初何を言っているのか理解できなかった。確かにゴールもあるしボールだってある。でも、こいつは足を庇って歩くほどの怪我を負っている負傷者である。そして、僕はサッカーなんてやったことがない人間だ。
もたもたする僕に足蹴りを食らわしてくるこいつの考えが一考に理解できない。
「めんどくせーな、ゴールにボールが入らない様に体でガードしろってことだよ!」
こちとらまだ準備も出来ていないと言うのに、振り向きざまに足元に転がっていたサッカーボールを僕めがけてなんの躊躇いもなしに一蹴した。
「ぐっ……てめー……」
鳩尾にボールがもろに直撃して息が出来なくなる。思わず膝から崩れ落ち呼吸を整えようとするも、追加弾が着弾したのはそう遅くわなかった。
「お話は雅君から聞いています。どうか、たーくんのこと、サッカー部のことよろしくお願いします」
僕と出会ったころの不機嫌な表情が嘘の様に、朗らかな笑みを優香さんが奈緒と春香に振りまく。嬌声交じりの声色で名を呼ばれてなんだか照れくさくなってしまう。
鼻の下が伸びていたのであろう、奈緒に肩パンをされたのは言うまでもない。
「なによ、みやび。こんな可愛い子といままで二人っきりで何してたの?」「何抜かすか。僕にそんな度胸ないの知ってるだろ? それに僕が好きなのは春香だ」「ふふ、分かってるってからかっただけよ」
例の如く入部理由は「社会勉強」と偽り、滞りなくサッカー部へ潜入出来た僕達三人は
優香さんに導かれ件の一軍グランドへ案内された。その道中で奈緒が怪訝な表情を僕に向けてきた。耳元で意地悪な事を言うもんだから、すかさず決まり文句で返した次第だ。
「噂通りに、仲がいいんですねお二人は」「そうなんです、私もなんだか妬けちゃうくらいに二人は仲良しです」
僕らのたわいもないやり取りを目の当たりにして優香さんが呑気にそんなことを言い、春香も言葉とは裏腹に微笑んでいる。
今日からは僕一人ではないのだ。俄然力が湧いてくる。三人集まれば何チャラって言うしね。
「おうおう、なんだなんだ? 男だけって聞いてたけど、そっちの女二人まで付いて来たのか?」
練習が始まってもキャッキャウフフしている僕たちの背後から、聞き覚えのある不愉快な声が飛んできた。振り返る必要もない。僕達三人から一斉に笑顔がサッと消した。
「寺嶋君、そんな言い方は辞めてください。三人は忙しいサッカー部の話を聞いて自分達からサッカー部に協力をしたいって買った出てくれたんだよ」「へ~協力ね~? 社会勉強って響きは良いが、どうせ俺達の情報を他校に漏らそうって魂胆じゃないのか?」
固まる僕らの代わりに優香さんが身振り手振りで寺嶋に事情を説明したが、素直に信じる人間ではないのは知っていた。言葉だけで人をここまで不愉快にさせられるとは、恐れ入るぜまったく。
「校長先生の承認もしっかりもらった。言われもない疑いをかけないでもらえないかな」「ほ~随分と強気だな~、高橋達からの指導が甘かった様だな」
にっと口角を上げた寺嶋が僕の肩に腕を回す。
「わりーけどリハビリ付き合ってもらえね? 一人じゃきつくてよマネージャーさん」「なら、私たちも手伝うわ」「女はすっこんでろ!」
言葉が刃物に具現化されていたら、奈緒の胴体が真っ二つになっていてもおかしくないほどの怒鳴り声である。耳元で叫ばれ鼓膜が破れそうになった。
「これは男同士の話しだ。優香、そいつらは任せたぞ。大事な時なのはお前なら十分わかるよな? 拓哉の大切な幼馴染ならなおさら」
言い方ってものがあるだろと食って掛かろうとした矢先、奈緒が潔く「そう、男同士の問題なら仕方ないわね」って呟き、おどおどする春香の手を引き優香さんに先導されて屋外グランドへ向かっていく。
意気揚々と三人で出向いた初日からラスボスと二人っきりか。嫌な予感しかしない。RPGで言うと始まりの村から速攻でレベル五十のドラゴンに遭遇したような気分だ。棍棒と布服だけでどうしろと言うのだ。せめて僧侶と格闘家はほしい。
「じゃあ、俺達も練習しような~。マネージャーなら最後までちゃんと付き合えよ」「そろそろ離せよ暑苦しい」「ダメだ、逃げそうだからなお前」
筋骨隆々とした体にがっちり肩を掴まれては逃げるもなにもない。幾ばくか左足を庇うように歩く寺嶋に連れてこられたのは、フットサルコートくらいの大きさの室内練習場であった。
「よし、お前そこに立ってボール取れ」「は?」――、少々威圧的に言葉を返してしまった。「ゴールの前に立てって言ってんだから、キーパーやれって言ってんだよ」
最初何を言っているのか理解できなかった。確かにゴールもあるしボールだってある。でも、こいつは足を庇って歩くほどの怪我を負っている負傷者である。そして、僕はサッカーなんてやったことがない人間だ。
もたもたする僕に足蹴りを食らわしてくるこいつの考えが一考に理解できない。
「めんどくせーな、ゴールにボールが入らない様に体でガードしろってことだよ!」
こちとらまだ準備も出来ていないと言うのに、振り向きざまに足元に転がっていたサッカーボールを僕めがけてなんの躊躇いもなしに一蹴した。
「ぐっ……てめー……」
鳩尾にボールがもろに直撃して息が出来なくなる。思わず膝から崩れ落ち呼吸を整えようとするも、追加弾が着弾したのはそう遅くわなかった。
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