初めての恋

神寺雅文

解き明かされる過去26

「こんな可愛い子に呼ばれては出てこずにはいられないってもんじゃ。のう、雅君」
 この人にも奈緒と春香の噂は届いていたのか。品定めをするように二人を交互に見て満足そうに眼を細めている。下心丸見えだ。
「そのために連れてきたとも言えますからね」
 男ってのは時に無駄に心を通わせる。もしかしたら、ただ単に趣味が似ているだけかもしれないが、僕の思惑は見事に的中したのだ。要は、好みが一緒なのだ。
「ちょっと、みやびどう言うことよ? 奈緒&春香って何?」「ふぉふぉふぉふぉ、我が学園始まって以来の美少女コンビの呼び名じゃよ。因みに命名したのはわしじゃでほれ、会員№1もわしじゃ」
 得意げに仙人服の胸元から黄金に光り輝くカードを取り出したと思ったら「奈緒&春香ファンクラブ」ってそこには印刻されていた。
「なんですかこれ、知らないんですけど? 春香は?」「こんなの初めてみた……」
 あからさまに引いている当事者たち。確かに自分の知らないところでファンクラブなるものが設立されていたら引くし、そのクラブの記念すべき最初の会員がこの学園の最高責任者だったらことさら血の気を引かせるであろう。
「ふぉふぉっふぉふぉ、ご褒美じゃ、ご褒美じゃ、いいのいいの、雅君はいつもこんな甘美な褒美をもらっているのかね」
 それを見てもなおのこと興奮する仙人――校長先生はとても頭が悪そうである。だからこそ、僕はこの人が好きである。好きであるからこそ、親指を突き付けて満面の笑みで返すのだ。
「校長先生も協力してくれたら、いつでもご褒美もらえますよ?」「ふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉっふぉふぉふぉふぉ!」「見てくださいよこの二人の顔、ごみ虫を見る目ですよこれ?」「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 齢七十歳と言ったところであろう。白髪頭であり、白鬚が地面まで到達した校長先生が興奮に興奮を重ねて悶絶している。
 僕は決して悪くない、校長先生が勝手に聖職者の風上にも置けない発言をしているのだ。奈緒の強烈な嫌悪感が籠るまなざしも、春香の引き攣った頬と一歩どころか二歩も距離を取る事態を招いたのもこの人自身の問題だ。
 僕は何も言わず校長先生が満足するまでとっぷりと時間を使った。
「ふぉふぉふぉふぉ、これは失礼した。要件はなんとなく察しているつもりじゃ。わしに何をしてほしいのじゃね?」
 満足した校長先生が場の空気を切り替える為に咳払いをした。やっとまともな雰囲気を感じた女子二人も僕の隣に戻ってきた。まだ少し怯えたような目をする春香に僕は笑って見せてから本題に入る。
「拓哉を道明学園との練習試合にスタメンで出してくれませんか?」「本気かね?」
 蝋燭の火が突風で消える様に、校長の顔から笑みが消えた。白い眉に下に隠れる双眸に今までのふざけた光はない。幾多の教育現場で生きてきた生え抜きの聖職者の目をしている。

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