初めての恋
解き明かされる過去25
「どうしたの春香? 忘れ物でもしちゃった?」「ううん、ちょっと名残惜しくて」
自宅から徒歩三分の場所にある公園に、名残惜しいとは思ったことがない僕。当たり前と言えば当たり前だ。ここは通学路の前である。今まで飽きるほど眺めてきた。
でも、春香は初めて来たこの公園をえらく気に入ったみたいで後ろ髪をめちゃくちゃ引かれている。初恋のあの子と良く遊んだ場所なんだ。って言ったら信じてしまうほど遠い目をしている。
「奈緒はさ、春香と一緒に来たみたいだけどなんでだ? 春香も春香でこの公園知ってたし」「この公園は桜ノ宮市でも有名だからね。それに、今日は土曜日よ? お昼から一緒に遊んでただけよ」「二人は周りが怪しむほど仲良いもんな」「ええ、そういうことにしておいて」
まだ公園の入り口で体ごと振り替えって巨樹を見つめる春香。艶めく黒髪が風で靡き、キラキラと斜陽で輝くのがとても綺麗であり、僕はその後ろ姿に見惚れ奈緒は奈緒で何か思うことがあるのか言葉を無くしている。
思い出の地に似た公園、春香が言っていた少年少女は今頃何をしているのであろうか。春香もそんなことを考えて物思いにふけているのかも知れない。あえて急かすこともないだろう。町内チャイムが夕焼け小焼けを奏でるまでの短い間、春香はじっと昔から変わらない巨樹に想いを馳せていたのであった。
五月二十二日土曜日、午前十時。
「お~い、仙人さあああああん! どこにいますか?」
これは僕のある人物を呼ぶ声である。
「おじいちゃ~ん、どこですか?」
こっちのは春香がその人物を呼ぶ声である。
「校長せんせ~い! いませんか~」
で、これが奈緒である。え、あの人校長なの?
「なに、二人とも知らなかったの?」「私はそもそも会ったことないよ」「まさか、あの人が校長の訳ないだろ? 世も末ってやつだよ」
じゃあ、なんであの仙人を探すんだって奈緒が呆れた表情で問うてきたので、
「仙人の力で書類とか、田中監督はじめサッカー部の心を操ってもらおうかと」「ば~か」
もちろん、マインドコントロールは冗談ではある。そんなあからさまに人を蔑む目は控えて頂きたい。書類は現に本物が次の日に準備されていたのだから、仙人に何かしら力のある人だってのは気が付いていたさ。ホントだぞ。
「まったく、どこまで本気なのか分かったもんじゃないわね。で、校長先生に会ったらどうするのよ」「何って、事情を話して力になってもらうだけだよ」
簡単な事である。あの空気が抜けたような笑い声を出す仙人に、難しい話をしたって時間の無駄だ。ああいう人には嘘偽りなく、本当のことをズバっと言えばいいだけだ。
「じゃあ、試しに言ってみなさいよ? どうお願いするの?」
女子陸上部やら、女子バスケ部やらがランニングをするグランドの前で、奈緒は呆れた様に肩を竦めた。その背後に運動部特有の通気性の良いユニホームを着た女子達が颯爽と駆けていくのを見つつ、僕は元気に言い放つ。
「僕の大好きな拓哉を助けてください! ってね」「よかろう! ふぉふぉふぉふぉふぉふぉ、今日は奈緒&春香も一緒かの~ええのええの~」
奈緒が特大のため息を吐きかけた時には、その背後に仙人が立っていた。いつもの気の抜ける笑い声を放ち、奈緒と春香の間に移動してご満悦の笑みを浮かべている。
自宅から徒歩三分の場所にある公園に、名残惜しいとは思ったことがない僕。当たり前と言えば当たり前だ。ここは通学路の前である。今まで飽きるほど眺めてきた。
でも、春香は初めて来たこの公園をえらく気に入ったみたいで後ろ髪をめちゃくちゃ引かれている。初恋のあの子と良く遊んだ場所なんだ。って言ったら信じてしまうほど遠い目をしている。
「奈緒はさ、春香と一緒に来たみたいだけどなんでだ? 春香も春香でこの公園知ってたし」「この公園は桜ノ宮市でも有名だからね。それに、今日は土曜日よ? お昼から一緒に遊んでただけよ」「二人は周りが怪しむほど仲良いもんな」「ええ、そういうことにしておいて」
まだ公園の入り口で体ごと振り替えって巨樹を見つめる春香。艶めく黒髪が風で靡き、キラキラと斜陽で輝くのがとても綺麗であり、僕はその後ろ姿に見惚れ奈緒は奈緒で何か思うことがあるのか言葉を無くしている。
思い出の地に似た公園、春香が言っていた少年少女は今頃何をしているのであろうか。春香もそんなことを考えて物思いにふけているのかも知れない。あえて急かすこともないだろう。町内チャイムが夕焼け小焼けを奏でるまでの短い間、春香はじっと昔から変わらない巨樹に想いを馳せていたのであった。
五月二十二日土曜日、午前十時。
「お~い、仙人さあああああん! どこにいますか?」
これは僕のある人物を呼ぶ声である。
「おじいちゃ~ん、どこですか?」
こっちのは春香がその人物を呼ぶ声である。
「校長せんせ~い! いませんか~」
で、これが奈緒である。え、あの人校長なの?
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じゃあ、なんであの仙人を探すんだって奈緒が呆れた表情で問うてきたので、
「仙人の力で書類とか、田中監督はじめサッカー部の心を操ってもらおうかと」「ば~か」
もちろん、マインドコントロールは冗談ではある。そんなあからさまに人を蔑む目は控えて頂きたい。書類は現に本物が次の日に準備されていたのだから、仙人に何かしら力のある人だってのは気が付いていたさ。ホントだぞ。
「まったく、どこまで本気なのか分かったもんじゃないわね。で、校長先生に会ったらどうするのよ」「何って、事情を話して力になってもらうだけだよ」
簡単な事である。あの空気が抜けたような笑い声を出す仙人に、難しい話をしたって時間の無駄だ。ああいう人には嘘偽りなく、本当のことをズバっと言えばいいだけだ。
「じゃあ、試しに言ってみなさいよ? どうお願いするの?」
女子陸上部やら、女子バスケ部やらがランニングをするグランドの前で、奈緒は呆れた様に肩を竦めた。その背後に運動部特有の通気性の良いユニホームを着た女子達が颯爽と駆けていくのを見つつ、僕は元気に言い放つ。
「僕の大好きな拓哉を助けてください! ってね」「よかろう! ふぉふぉふぉふぉふぉふぉ、今日は奈緒&春香も一緒かの~ええのええの~」
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