初めての恋

神寺雅文

解き明かされる過去09

「どうしたの?」「クラス替えが終わってから一度だけ、ラインが来たことがあるんです。今までに出会ったことがないバカで愉快な男と友達になれたって。そういえば、たーくんもバカって言っときながなら友達ってその人のこと評価してました。男の人の友情ってわかりませんね」
 破顔してえくぼまで作って笑う優香さんに、すこしだけドッキとしてしまったのは本来の彼女が垣間見れたからである。
「そっか、あなたでしたかその大切なお友達は。たーくん、いつも肝心なことを言わないんです」
 優香さんが何らかの問題を自己解決させたのがその一言で分かった。
「なんか失礼なこと言われてる気もするけど、たぶん僕でいいと思う」「でも、たーくんの大切なお友達だからこそ、私は忠告します」
 夜風が吹き前髪を抑えた優香さんが人差し指を立てる。
「生半可な気持ちでたーくんと寺嶋君の問題に首を突っ込むと、痛い目みます」
 だから、早々にサッカー部から距離を取ってくださいと続けた。
「いや、それは出来ない。僕は拓哉にもう一度会いたいんだ」「会いたいって、入院しているだけですよね? 大げさじゃないですか?」「入院だけで音信不通になると思うあの拓哉が? 優香さんが相手だから話すけども――」
 拓哉が長期入院と言って休みになったGW問題を、優香さんに打ち明けるか正直迷っていた。でも、このまま孤軍奮闘していても一向にサッカー部の内情は知ることはできないし、優香さんの拓哉への特別な想いを薄々感じた僕は全て打ち明けることにした。
「そんな……たーくんにそんなことがあったなんて……、知りませんでした」「だから、優香さんに手伝ってもらいたいんだ。どんなことがあの二人の間に起きたか教えてほしいんだ」
 白色の照明に照らし出された優香さんの表情に憂いの色が浮かぶ。
「でも、たーくんが部活を辞めた理由を知る人は誰もいないのは本当です。肝心なことはいつも一人で決めてたから」「膝を悪くしたって言ってたよ」
 僕が唯一知る情報はそれだけである。
「どっちの膝ですか?」
 拓哉の性別は男、って答えるような気持で告げた情報に思いのほか力強い言葉が返ってきた。何だったら胸倉を掴まれてもおかしくない剣幕で詰め寄られている。
「右ひざだって」「まさか……」
 実は拓哉のことを女の子だとでも思っていたのか。そう突っ込みたくなるほど、優香さんの瞳から光が消えて頭を垂れてしまった。
「実は、寺嶋くんも膝を怪我したんです、去年の秋に」「まさか、拓哉が関係あるの?」「はい」
 吹けば消えてしまいそうな蝋燭の炎に似た、儚い声が夜空に消えていく。一軍全員が屋内練習場に戻ったことにより、洗濯機が乱暴にわめく音だけが騒々しい五月の中旬の夜。優香さんがポツリポツリと二人の過去を語り始めた。

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