初めての恋

神寺雅文

解き明かされる過去06

 簡単にその日は夕暮れを迎え、確たる収穫もないまま帰宅させられた。
 だが、散々と散ったボールを集めることである程度、サッカー部の活動場所、どこで誰がどのような練習をしているか把握することが出来たのは、苦労の甲斐があった。筋肉痛になったのも少しは浮かばれる。
 部員数が二百を超えるサッカー部には一軍、二軍、三軍が存在する。その中で、僕の目当てである寺嶋率いるあのグループは、意外にも一軍に在籍していた。
 それは拓哉が一軍にいた事を証明しているものであり、友としては鼻が高いのであるがあのような行動をした人間達がレギュラーであるのが腑に落ちない。我が学園で一、二を争う将来有望株であるサッカー部にあのような輩がいることも、その部に欠かせないメンバーであることも僕は納得できないでいた。
「あれ、お前なんでうちのウエア着てここにいんの?」「あ、マジだ? なに、どういうつもり?」「まさか、憂さ晴らしに嫌がらせでもしに来たんじゃないだろうな?」
 紅白戦が始めると言うことでその準備に駆り出され、せっせと準備をしている僕の前に、寺嶋以外の三人が不敵な笑みを浮かべ現れたのは、入部してから三日目のことであった。
「違います。詳しいことは田中監督に聞いてください。どうせ、僕の話しなんて信じないでしょ」「嫌われたもんだね~」「まあ、あんだけのことはしたんだ、当然だろな」「で、どうだったんだあの後? 楽しくおデートできたのかな?」
 不意に千春さんが言った言葉が脳裏を過る。が、奈緒の「暴力はあんたらしくない」って言葉も過り愛想笑いを浮かべ、そそくさとその場を離れることにした。
「寺嶋にも報告だな」「楽しくなりそうだな」「なんのつもりか知らないけど、こき使ってやろうぜ」
 心の底から反吐が出るほど、嫌な奴らである。自分たちの声がどれだけの声量でどれだけ他人に不快な思いをさせてるのか、その筋肉が詰まる頭で考えたこともないのだろう。誠に不愉快でたまらない。
 生まれた場所も育った環境も身を置いてきた境遇も違うのだから、出会って間もない僕らが分かり合えること事態が、目隠しした状態で針に糸を通すことよりも遥かに難しい。そう痛感させられたのは、彼らの白熱する試合と妙技にまさか自分が簡単に魅了されるとは思わなかったからである。
 その後に、夕暮れも近づき女子マネージャーは治安の問題で早々に帰宅を命じられ、残された唯一の男子マネージャーもやることがなくなり一軍専用のグランドを右往左往しているところを寺嶋以外の三人――高橋、草野、秋葉に取っ捕まった。
「よ~、暇ならこれ洗っといてくれよ~」「もしかしたら、将来クリーニング屋になるかもしれないしな~」「いいね~将来がまだ決まってない人間はいろんな無駄なことを経験出来て」
 悪態と共に渡されたのは、一軍メンバーのそれこそさっきまで来ていた汗まみれ、泥まみれの練習着であった。
「本来は、自分たちで洗うことがルールなんだけど、入部した理由が理由だからな」「まさか、女子にこんだけの量を洗えともいえないし」「男になら頼めるってことだ、まあ~頑張れよ」
 ゲラゲラと下品に笑い飛ばし三人は室内練習場に消えていく。
 夕刻も迫り、薄暗くなりつつある屋外練習場の外に、洗濯場が設置されているのは初日に把握していたし、洗濯任務を担っているのが三軍の一年であることも知っていた。だから、やつらはもともと自分たちで洗濯するつもりなんて毛頭もなく、性別云々抜かす必要もない、
 これは単なる嫌がらせである。
 しかし、三軍の一年生が一軍の洗濯物を取りに来て、なぜか大量の練習着に囲まれる僕から不思議そうな顔をして洗濯物を預かると申し出てきたが、当然断った。決まりだからと何も知らない一年生が困惑して洗濯籠を持ち出そうとしたが「高橋、草野、秋葉に目付けられるよ」って言ったら何も言わず頭を下げて二軍のグランドへ向かっていった。

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