初めての恋

神寺雅文

解き明かされる過去02

「委員会で拓哉のこと良く知る女の子に会ったことがあるんだよ、確か幼馴染とかなんとか言ってたような気がする。あと、サッカー部のマネージャだって話だ。もしかしたら、そっちの問題も解決できるかもな」
 光明である。塞がれた未来に、希望の光が差し込んだ。
 普段からそのカリスマ的存在感でクラスをまとめる上げる会長が、僕にも絶対的な神に見える。一カ月でクラスメイトの名前はおろか出身中学、趣味、誕生日までただの日常生活の中で聞き出してきただけのことはある。
「俺が個人情報漏えいさせたところで、誰が怒るっていうんだ。困っている友達を助けず、何が会長か。あとで福ちゃんにもかま掛けとくから、あとは雅、お前のやる気次第だぜ?」
 友達が助けてくれると言っているのだ、誰が拒むと言うか。なにより、拓哉に助けられてばかりいた僕が、ここで動かずしていつ動くと言うのだ。誰よりも、拓哉に助けられてきたのは僕じゃないか。春香とあんな楽しいデート出来たのは誰のお陰た。
 真田拓哉。バカでチャラくてどうしようもないアホがいたからだ。
「やるに決まってる。何が出来るか分からないけど、今度は僕が拓哉に恩返しする番だ」「あたしも手伝うわ!」
 当然奈緒が挙手をする。
「いや、ここは僕だけでやらせてほしい」「なんでよ! あたしだって――」「男と男の友情だ。ここは黙って見ててくれないか?」
 想い人に迷惑かけた上に、出向かれては拓哉も出るに出られなくなってしまう。言いたいこともやりたいことも、好きな子がいては何もできなくなるのが男って生き物だ。きっと、奈緒がいてはできないことがあるはずだ。
 しかも、いつかは奴らと対峙することにある。向こうは複数の男だ。何をしでかすかわかったもんではない。
 だから、予想通りに手伝うことを志願してきた奈緒を、僕は拳で制して久しく見せていなかった本気の眼ってのを奈緒と春香の前でした。
「……、なによ。こんな時だけカッコつけちゃって、昔からちっとも変ってないんだから」「うん、友達思いの雅君ってやっぱり素敵だね」
 ボソッと独白を吐いた奈緒に春香がすかさず肯定の言葉を返す。たまにはいいところを見せたって罰は当たらないだろう。
 二人を他所に一人で覚悟決める。
 僕に何が出来るか分からない。でも、会長が記した「二年A組、小畑おばたゆう」の名に今は希望を託すのみだ。拓哉が体を張り春香の想いを守ってくれたんだ。今度は僕が拓哉にあんな表情をさせた原因を突き止めてぶっ壊してやるんだ。できれば修復したあいつらの関係を。きっと拓哉の仲間ならいい奴らに違いないのだから。
 心にこみ上げる熱い想い。これは、恋心のとは違う。ダチのためだからこそ発することが出来る無条件に沸き上がる友情の炎だ。普段昼行燈よろしく生きてきたが、ここぞと言うときは重い腰を上げる人間なのだ僕って男は。
 善は急げ、僕はその日の昼休みに一人で件のクラスへと足を運び、初対面の女の子の名前を呼んだ。

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