初めての恋

神寺雅文

交錯する恋心26

「……、かわいい」「そ、……そっかな?」「あ、いや……その……」
 脳を通す前にまた言葉が先に出てしまった。初めて春香と出会った時と同じ衝動に駆られて、僕はいま絶対に赤面している。思わず、思っていることを口走ってしまうほど、今の春香は可愛くて反則的に愛おしい存在だ。
「ごめん、本当に可愛いくてうっかり言葉に出しちゃった……」「そんなことないし、雅君だって……、かっこいいよ」
 嗚呼、天にもの昇りそうな気持だ。今なら空を飛べる気がする。
 バスは走り出し周囲には自分たちしかいない。日よけの屋根の下、僕らはお互いにお互いだけを見つめて照れくさそうにしている。見ようによっては、お互い白を基調としたコーディネートをしているため、恋人同士に見えるかもしれない。いや、見えてくれると嬉しい。
 住宅街の一角、朝の九時。まだ静寂に包まれているバス停。僕の心臓の鼓動が春香に聞こえてしまわないか心配でならない。小鳥さんよ、もっと元気よくさえずってくれてもかまわないんだぞ。
「ありがとう、もう緊張してどうにかなりそうだよ」「私も昨日からドキドキして寝れなくて」
 春香が小さくあくびをする。手で口を隠すその仕草だけでも、僕は卒倒しそうになる。僕だって眠れなかったさ、春香と出かけることを考えて。この服を見て春香は何と言ってくれるか想像するだけでベッドを転げ回っていた。
「それに、今日は二人だけなんだよね?」「そうだよ」「嫌じゃない? 奈緒もいなし、拓哉君だって――」「そんなことない! 僕は春香と二人でで、デート出来て幸せだ!」
 春香の言葉を遮りグイッと春香に一歩近づく。春香の頬に高揚の花が咲く。
「で、デート……」「あ……」
 思わぬ単語に春香がまた恥じらいを見せた。つられて僕までも自分が言った「デート」ってたかが単語に過剰な反応をしてしまう。
 いやでも、今日はデートでいいんだよな? 生まれて初めてデートするから分からないけど、高校生の男女が休日に二人だけで出かけることを「デート」と言わずなんとする? お出かけって言うか? 散歩っていうか? 徘徊って言うか?
「そうだね、今日、デートなんだね。雅君と……」「どうしたの? 目痛い?」「ううん、大丈夫。嬉しくてさ、こうして雅君とデート出来ることが」
 それってつまり? 脈ありってやつ? ああ! 僕では判断つかない! 今すぐ拓哉にこの反応をジャッチしてもらいたい! だが、今日は二人だけなのだ。ごちゃごちゃ考えず、今を楽しもう。
「今日は楽しもうね? 奈緒も拓哉君も楽しんでると思うし」「そうだね、夕方の合流まで僕達も楽しんじゃおう」
 今日は、誰も助けてくれる友人がいない。困っても助けを請うことも、フォローしてもらうこともできないのだ。それなら、せめて楽しまなくてはもったいない。問題が起きたらその時、考えよう。じゃないと、一日が終わるころには僕は一歳くらい老けてしまうだろう。
 行き先は木村喜一通りである。我が桜ノ宮市が誇る繁華街にして、日本の首都にも引けを取らない最先端をひた走る大都会で僕らは今からデートをするのだ。楽しくないわけがない。ましてや、相手が好きな子とである。今から心が躍り狂ってしまうのも仕方がいない。
 件の繁華街までは電車移動となり駅まで歩くことにした僕たちは、少しは縮まった距離感で駅へと歩き出す。

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