【WHO】ワールド・ハイド・オンライン

霧ヶ峰

第12話


 鈍く光る銅の十字を携えて、夜の気配が近づきつつある道を歩く。
 歩く道は整備のせの字すらない獣道。
時折姿を見せる獣たちは、次々とその姿を砕けさせていった。


「やっとレベル10か……9から10になるまでに必要な経験値が随分多かったな………」
 頭に響く軽快なリズム音に思わずといった風に呟くミレニアム。

「おー……随分スキルレベルも上がったな」



【ミレニアム】

《種族》人間ヒューマン:lv10

《オープンスキル》[双剣術lv2][槍術lv9][闇魔法lv8][付与魔法lv10][回避術lv12][カウンター術lv7]
〈控え〉[サバイバルlv5]
《クローズドスキル》[敏捷度上昇lv10][筋力上昇lv10」[隠密lv12][鷹の目lv8][MP自動回復lv10][五感強化lv4]
〈控え〉
《ジョブスキル》[暗殺者lv7][コマンダーlv4]
〔SP30〕〔JP25〕

《称号》[ダブルジョブ][暗殺者]



「スキルの伸びは悪くないけど、ジョブスキルの方はスキルポイント使ってレベル上げた方が良いのかな?とりあえず残しとこっと。足りなくなったら嫌だし」
 ステータスを開いている間にも襲いかかってくるモンスターを片手間に処理してミレニアムはそう呟く。

「さて…と。そろそろこっちでやろうかな」
 十字槍と初期装備のダガー2本をアイテムボックスに片付けて、代わりに赤黒いふた振りの短刀を取り出す。

「ちょうどいいスキルないかな……っと。お!これなんかいいじゃ……ん?なんだこれ。しまっ!」
 SPスキルポイントで取得できるスキルの一覧を見ていたミレニアムは、[連撃]というオープンスキルを見つけて取得しようとしていたが、たった1つだけ取得するために必要なSPが20というスキルを見つけ、思わずその手を止めてそのスキルを取得してしまっていた。

「あー………しまったなぁ。説明すら読んでなかったのに」
 そうボヤきつつもステータスから先ほど取得したスキル[韋駄天]の詳細を調べる。



[韋駄天]オープンスキル
セーフティーエリアから離れる事で効果を発揮する。
敵の攻撃を回避する都度にSTRとDEXを1%増加。最大増加量はスキルlv×10。
攻撃を受けると増加量が無くなり、回避する都度に再び増加していく。

取得条件:lv10になるまで戦闘での被ダメージが一定以下。
*被ダメージが無い場合、スキルの効力が強化される。



「お?おぉ〜……スキルポイント20使うだけはあるなぁ。あれ?称号にも[韋駄天]がついてる。まぁこれは放っておいてもいいか」 
 ステータスを閉じてニヤッと笑うミレニアム。

「さてと。これのレベルを5にしたら帰ろうかな?」
 微かに蠢く双刀を携え、朝霧の森を奥へ奥へと進んでいくのだった。

















 双刀の扱いにも慣れてきた頃、ミレニアムは森の中で不思議とひらけた場所に出た。

「あれ?セーフティーエリアかな。いやでもセーフティーエリアに入ったっていう表示無かったし……あの石碑がキーなのか?」

[未開放のセーフティーエリアへの侵入を確認。エリア【朝霧の広場】開放クエストを開始します]

「え?え?」
 急にアラート音とともに表示されたパネルと音声に驚いていると、石碑の奥の方からガサガサと音を立てて小さな影がいくつも現れた。

[エリア【朝霧の広場】開放クエスト:侵攻する緑小鬼ゴブリンを開始します]
 という表示と10秒のカウントダウンが始まり、カウントが0になると同時にゴブリン達がこちらに気付いて声を上げ始めた。

「うわ。こっちにきてもコイツら狩らないといけないのか」
 現れたゴブリンは10匹。どれも薄汚れた布のようなものを身にまとい、半ばから折れている剣や大きめの骨、なぜかお鍋の蓋などを装備しており、どう見ても脅威にはなり得なかった。中には濁った水晶のついた杖や弓を持った個体もいたが、その場で魔法や矢を撃たずにこちらに近づいてくるのだ。統制も何もなかった。

「とりあえず………[投擲]っ!」
 ギャアギャアと声を上げるゴブリンたちに向かって十字槍を投げる。狙う先は杖を持った個体。そのゴブリンがどんなものを使うにしてもとりあえず遠距離攻撃が出来そうなため真っ先に攻める。

 ミレニアムの元からの投擲能力とスキルの補正を受けた槍は杖を持ったゴブリンに向かって真っ直ぐ飛んでいき、途中2匹ほど巻き添えにして杖を持っているゴブリンへ突き刺さり、そのゴブリンを光に変える。
 途中に巻き添えを食らったゴブリンの体力も半分を切り、一度の攻撃で体力の半分を失った時に発生する状態異常の昏倒になって倒れていた。

「残り7匹!」
 ニヤリと笑って突撃するミレニアムが残りのゴブリンを殲滅し終わるのにそれほど時間はかからなかった。


「終わりー!やっぱりこの武器卑怯だな。チート使ってるみたいでいたたまれない気持ちになる」
 ゴブリンの群れを全て倒したミレニアムは血糊を払うように双刀を払い、鞘へとしまう。ゲームだから血糊はつかないのだが、ついついそんなことをしてしまう。

「あれ?クリア通知こないのか?」
 ゴブリン10匹全てがアイテムと経験値となったが、緊急クエスト?が始まった時のようにパネルが表示されずにすでに20秒ほど経った。
 バグではないかと疑い始めた頃、バキバキメキメキと木々の倒れる音が響いてきた。

「え?ゴブリンだけじゃないの!?」
「グルゥアアアァァァ!!!」
「うっそぉ!?」

 木々をなぎ倒しながら姿を現したのは、ゴブリンと同じ色の体色でゴブリンを数倍大きくして、筋肉ムキムキのマッチョにしたような姿の明らかにゴブリンとは別のモンスターだった。

[被ダメージが一定以下であることを確認。特別ステージ【ゴブリンを率いる者】を開始します]

「ガァアアアァァァ!!!」
「カウントダウンなし!?」
 パネルが表示された瞬間にムキムキゴブリンが身の丈ほどの棍棒を担いで走ってきた。  


 50メートルほどの距離をかなりの速さで駆けてきたムキムキゴブリンの振り下ろす棍棒に、ミレニアムは片方の刀で合わせ打つ。
 さすがゴブリンの上位種なだけはあるのか、刀から伝わってくる衝撃はこの森で遭遇したモンスターの中でトップクラスのものだった。

「グラァアアアアア!!!!!」
「まだまだぁ!」

 しかし、武器の性能差というものは悲しくも確実に存在していた。
 打ち合えば打ち合うほどにムキムキゴブリンホブゴブリンのHPはどんどんと減少していく。
 このまま打ち合うだけで終わるのかなとミレニアムが思っていたその時、ホブゴブリンが大きく飛び退き、棍棒を投げ捨てて先ほどまでの叫び声とは全く違う咆哮を上げた。

「うわ!?第2形態!?」
 驚きの声を上げるミレニアムと対峙するホブゴブリンは真っ赤なオーラを放ち、数倍に膨れ上がった筋肉がその風貌を豹変させている。
 先ほどまでは緑の筋肉ムキムキマッチョだったのが、緑のキングコングになったようなものだ。

「ワァオ。劇的ビフォーアフター……」
 ホブゴブリンが筋肉にものを言わせて一撃ごとに小さなクレーターを作っている。
クレーターを作るパンチを軽々と避けながらミレニアムは着々とダメージを与えていく。





「ガ、ガァ……」
 1割残っていたHPは筋肉の壁で防御力が上がっても変わらずに減り続け、結局ミレニアムにダメージを与えることなくホブゴブリンとの戦いは幕を閉じた。

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