姫騎士とペットなオレ

エルトベーレ

第15話 父王様

「お父様が?!」
「まだこの宿は突き止められていません。どういたしましょう」


グレーテを連れ戻しに、わざわざ王自ら来るなんて……。
でも、連れてかれたらグレーテは望まぬ結婚をさせられてしまう。
なら、迷ってる場合じゃない。……ごめん、レイミィ。


オレは自分の内なるチカラに強く念じる。
“元の姿に戻してくれ!”


すると、オレの身体はほのかに光り出し、徐々に視界が高くなっていく。
自分の身体を見回してみても、人間の手、足、肌。そして、中学の制服。


目の前のグレーテとカティアは、あまりのことに口を半開きにして固まってしまっている。
というか、グレーテよりオレの方が身長低かったんだな。もしかして、グレーテってオレより年上……?


「あなた……コットンなの?」
グレーテが、かすれるような声を絞りだした。
「うん。やっと元に戻れたんだ」
「やっぱり人間だったのね! うれしい……!」
グレーテはオレに飛びつき、抱きしめてくれる。オレは彼女の予想外の反応に、受け止めきれずにベッドに倒れこんでしまった。


ふと視界に映る、レイミィの姿。
もうオレには、彼女の声は聞こえない。彼女は鳴き声一つ上げず、ただじっとこっちを見つめていた。


オレは覚悟を決めて切り出すことにした。
「グレーテ。もし君さえ良ければ、オレと結婚してくれないか?」
「うん! もちろんいいよ!」
即答された。もっと迷うとかないのか? 言っといてなんだけど、本当にオレでいいのか?


そこへ、長らく放心状態だったカティアが我に返ったのか、口を挟んだ。
「エルナ様! よくお考えください! 本当に良いのですか?」
「うん。いいの。……カティア、お父様を呼んで。わたしが直接話をつけるわ」


グレーテが起き上がり、オレから離れたところで、オレはレイミィに手を伸ばす。
彼女は躊躇いながらも、ゆっくりとオレの方へ歩み寄ってくれた。


「レイミィ」
名前を呼んでみる。
元々人間だったオレと違って、彼女は人間の言葉はわからないと言っていた。
言葉は届かなくても、思いは届くと信じたい。


オレのそばまで来てくれた彼女を、オレはそっと抱き上げる。彼女も抵抗はしない。
それどころか、彼女は以前と同じように、オレに身体をすり寄せてきた。


「レイミィ……ごめん」
オレはたまらず彼女を抱きしめた。
胸がつぶれるような思い。涙が出そうだった。
身勝手なオレは、グレーテを選んでしまったにも関わらず、キミを手放したくない。
……本当に、ごめん。


やがて、カティアが一人の老練な男を伴って宿に戻ってきた。
頑丈そうな鎧を身にまとい、威厳ある立ち居振る舞い。間違いない、この男が父王様だ。


「お父様。わたしを連れ戻しに来たんですね?」
「バカ娘が。お前が失踪したとあって、先方はひどく腹を立てている。危うく同盟まで解消されるところだったのだぞ?」
やはり政略結婚の話は本当だった。第一声にその言葉が出るなんて、この男はグレーテを娘として大切に思ってはいないんだろうか。


「その件ですが、お断りいたします。わたしは、この方と結婚します」
と、グレーテは隣に座っていたオレの腕にすがりつく。
「何だと……? なら同盟はどうするのだ? 同盟を破棄されればこの国は終わりだぞ?」
「わたしは……お父様の駒じゃありません。政治の道具にしないでください」
グレーテの言葉に父王様は何も言い返せず、お互いに睨みあう。


「……お父様、本当にわたしを愛しているのですか?」
この言葉は、父王様をひどく動揺させた。
「そうか……そうだな。これではそう思われても仕方なかったな……。おい、お前。エルナを不幸にさせたらどうなるか、わかっているんだろうな?」
父王様は鋭いまなざしをオレに向けて言い放つ。その手は腰に提げた剣に添えられていた。
「絶対幸せにします。約束します」
って言わないと、たぶんオレここで死ぬじゃん。


「……ふん、好きにしろ」
父王様は荒々しく席を立ち、カティアを振り切って部屋から出ていった。


「許してもらえた……のかな」
「たぶん……」


グレーテがこちらを見つめてくるので、オレも彼女の方を向く。すると、彼女はふっと微笑んで顔を寄せ、瑞々しいくちびるを、オレのものに重ねた。
「ふふっ、大好きだよ」


オレの腕の中のレイミィの目は、悲しみに濡れているように見えた。

「姫騎士とペットなオレ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く