姫騎士とペットなオレ

エルトベーレ

第7話 紺碧の竜

「カティア、姉様に見つかっちゃった! 悪いけど、国境まで急ぐよ!」
「かしこまりました、お嬢様」
カティアは主人の命を落ち着いて聞き届け、すぐさま支度を始めた。


オレたちは宿を出て、街を抜けようと、森の入り口まで駆けだす。
「待て!」
やはり、お姉さんは追いかけてきた。
「待てと言ってるだろうが」
突然視界ががくっと下がる。お姉さんがグレーテの肩を掴んだせいで、グレーテはその場に尻餅をついたのだ。


グレーテが恐る恐る振り返ると、お姉さんは彼女を睨み付けるようにして見下ろしていた。
「……わかった。そんな目で見るな。もう止めはしない」
すると、お姉さんはしゃがみこんでグレーテと目線を合わせ、ぎゅっと抱き寄せた。
「この先は手ごわいモンスターも多い。……どうか、無事でいてくれ」
「姉様……」
何だかんだ言っても姉妹、か。お姉さんが連れ戻しに来たのも、ひとえに妹が心配だったからなのかもしれない。


お姉さんに見送られながら、オレたちはまた森の中へと入っていった。
この森はあまり人の手が加わっていないのか、鬱蒼としている。
「姉様はああ言ってくれたけど、お父様が許してくれるわけないわ。きっともう国中にお触れを出しているでしょう」
「エルナ様、国境を抜ければ父王様もそう手は出せません。急ぎましょう」
「ええ」
父王様って……、やっぱりグレーテはお姫様だったのか。


オレはグレーテの肩に乗せられ、どんどんと森を進んでいく。
その途中、あるものが目に入り、オレは彼女の肩から飛び降りた。
「あっ、コットン! どこ行くの?」
「放っておきましょう。野生に帰りたくなったのでしょう」
「もう、カティアのバカ」
グレーテはカティアを叱りつけて、オレを追いかけてきてくれる。


オレの向かった先にあったのは、大きな洞窟。オレは躊躇いなくその中へ入っていった。
『誰だ? 我が巣に踏み入る命知らずは』
洞窟の奥から響く轟音。


『お願いがあって来たんだ。どうか、聞いてほしい』
やがて、紺碧の鱗に覆われた、大きな翼を持ったドラゴンがその姿を現した。さっき、ドラゴンがこの洞窟に入っていったのが目に入ったのだ。
『クラビーごときが、我に何の用だ?』
『オレはただのクラビーじゃない。魔術体質……らしいんだ』
『ほう、魔術体質か』
どうやら、魔術体質というのはこの世界でも希少種にあたり、それなりに畏敬を集めるもののようだ。ただ、魔術体質というもの自体が何なのかはわからないのだが。


『オレにできることがあれば、何でもする。だから、オレの仲間の力になってほしい!』
『我に何を望むというのだ?』
『国境の外まで連れて行ってほしいんだ』
『ふむ……。よかろう』
よし、交渉成立だ。こんなにうまくいっていいんだろうか。


『オレには何を望むんだ?』
『魔術体質ということは、その身に魔力を宿すのだろう? その魔力、少しばかりもらえないか?』
『あげられるものなのか?』
『うむ。よいな?』
『わかった。あの、ただ、死なない程度にお願いします』
『善処しよう』
それ、聞き入れないのと一緒だよ……。


紺碧の竜は、オレをその手に掴む。すると、オレの身体が輝き出し、力が流れていくのがわかる。これ、魔力を吸い取られてる……のか?
『お前、なかなか上質な魔力を……いや、それにしてもこの量は……』


しばらくして気を失いそうになったところで、紺碧の竜はオレを放してくれた。解放されると、オレを包んでいた輝きも消え失せた。
『期待以上の代物だった。感謝しよう。して、お前の仲間とやらは?』
『もうすぐ来ると思うけど……』
そんな思いが届いたのか、場に似つかわしくないかわいらしい声が洞窟内に反響する。
「コットンー? ここにいるのー?」
『あの人間がお前の仲間か?』
『仲間というか、ご主人様かな。それともう一人、彼女の家来がいるはずだ』


紺碧の竜は再びオレを掴み上げ、声のする方へ歩みだす。
「エルナ様、お下がりください!」
カティアがグレーテを庇うように前に出るが、紺碧の竜はその彼女の前に、そっとオレを差し出した。
「コットンを……? 助けてくれたの?」
そういうわけではないが、細かいことはいいだろう。グレーテの方も、この竜が敵ではないことをわかってくれたらしい。


『我の名はアズール。お前に我が鱗の一つをやろう』
え……別にいらないんだけど……。
『この鱗に魔力を流し込めば、我がお前の元に駆けつけよう。使えるのは一度きりだ。よく考えて使え』
超ありがてぇ……!
『ありがとう。あ、これとは別に、国境の外までは連れてってくれるんだよな?』
『無論だ』


オレはグレーテの背を押してアズールの手に乗せ、続けてカティアも乗せる。
「えっ、ちょっと、コットン?!」
二人は困惑しているようだけれども、オレの誘導通りにしてくれた。
『では、行こうか』
アズールはオレたちをその背に乗せてくれ、洞窟の入り口からから飛び立つ。
「わっ、すごい! カティア、飛んでるよ!?」
「エルナ様……私、高いところはどうも……」
「コットン、飛ばされないように、しっかり掴まっててね」
風に流されそうになったオレを、グレーテは懐に抱きかかえてくれた。


さあ、ここからは優雅に、空の旅の始まりだ!

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