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エルトベーレ

5-2 奈菜先輩の命令

選挙が終わったある日の放課後の生徒会室。
オレは次期生徒会長に見事当選した、斎藤奈菜先輩に呼び出されていた。


「佑馬君、立候補してくれなかったんだね」
そう言いながらも、奈菜先輩は笑顔を絶やさない。
「すみません……」
紗沙先輩にはああ言われたけど、オレは結局、今のままいることを選んだのだった。
「まぁいいけど。ね、お願い聞いてもらえることになってたよね?」
そういえば、そんなことになっていたような気もする。
「……何すればいいですか?」
出馬しろ、ということに使われなくてよかった。そこはまだ良心的だな。
「もうすぐ文化祭の準備で忙しくなるのよ。だから、生徒会の仕事を手伝ってほしいの」
「わかりました」
それくらいならいいか。文化祭実行委員会があるとはいえ、それをり仕切っているのは生徒会だからな。
「もちろん、紗沙もだよ」
「え……」
「当然でしょ? いなくなったときは、色々迷惑かけられたしねぇ」
オレはこの後に告げられる言葉を予想して、早くも憂鬱な気分になっていた。
「紗沙には、佑馬君から言っといてね」
ああ……やっぱり。



「はあ? 何でわたしがそんなことしなきゃいけないわけ?」
司書室に戻って紗沙先輩に報告すると、案の定、彼女は機嫌を悪くした。
「佑馬くんも、何でそんなの聞き入れたわけ? わたしとあいつと、どっちが大事なのよ」
そんな二股したみたいに言わないでくれよ……。そもそもオレは別に彼女がいるし。
「まぁいいじゃないですか。そんなに大変な仕事は回さないって言ってましたし」
「はぁ……、わかったわよ」



最終下校時刻になり、図書室の戸締りをすると、廊下の向こうから見知った顔が駆け寄ってきた。
「佑馬くん! はいっ」
彼女が差し出したのは、透明な袋に入ったクッキー。受け取れば、美味しそうな香りが袋から漏れ出てくる。
「部活で作ったの。よかったら、食べて?」
「ありがとう、真白」
そういえば真白は調理部だったな。今日は部活だったのか。いつもは部活がなくても、オレの委員会の仕事が終わるまで残ってくれているからな。今度お礼しないといけないな。


「調理部は文化祭、なんかやるのか?」
駅までの道はいつも一緒だ。彼女はオレの横を、同じ歩幅で歩く。今はもう自然に手も繋げるようになった。
「うん。スイーツ喫茶をやるんだって」
「へぇ、面白そうだな。メイド姿になったりする?」
文化祭の喫茶店といえば、メイドと女装は基本だな。オレのクラスは“休憩所”とかいうやる気のカケラもない企画をやるらしいが。
「し、しないよっ。……佑馬くん、そういうのが好きなの?」
「別に、真白がするなら見てみたいってだけ」
「じゃあ今度、個人的に着てあげようか?」
なんて、不敵な笑みを見せる。最近の真白、どんどん可愛くなっていっている気がする。いや、大胆になってきているのか。それほどオレに心を許してくれているということなのかもしれない。
「じゃあ今度、個人的にスク水を着てくれ」
「ばか、佑馬くんのえっち」
ちょっと拗ねたように見せても、そのほんのり染まった顔は、すぐにでも綻んでしまいそうだ。



電車は逆方向なので、駅で別れることになる。
彼女の温もりの余韻に浸りつつ、空いた車両の席に座ると、ケータイが震えた。
奈菜先輩からだった。
『明日の朝、生徒会室に来て。頼みたいことの説明をするから』
彼女にしては珍しく、淡々としていた。いつもなら絵文字や顔文字の一つや二つを入れてくるのに。仕事のメールだとこんな感じなのだろうか。
オレはそれに形式ばった返事をして、ケータイをカバンに放り込む。



家に帰って見れば、新着メールが三件も来ていた。
一つは真白から。一つは奈菜先輩。もう一つは真珠会長からだった。
って、なんで三人も同時に送ってくんだよ。怖えよ。


あ、もう一件増えた。これは母さんからだった。
『見つけないでください』
いつもは“探さないでください”ってくるところが、テイストが変わったな。
どういうことだよ。かくれんぼでもしてるのか? とりあえず、今日も帰れないってことだろう。
それじゃあ、一通りメールに目を通して順番に返事していくか。それだけでだいぶ時間が潰れそうだ。

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