本の購入希望書に悩みを書かないでください。

エルトベーレ

5-1 次期役員選挙

自分で言うのもなんだが、オレは成績優秀なんだ。学年順位は三位。男子ではトップなんだ。
何が言いたいかと言えば、規則上の資格はある。そういうわけだ。
だが、資質としてはどうだ? オレはそれだけの人物なのか?


“副会長に、立候補してもらえないかな?”


会長の言葉が頭の中をぐるぐると回っている。
生徒会に入れば、図書委員会の仕事を続けていくことはできない。そしたら、先輩を一人にしてしまう。
しかし、生徒会は正式に目安箱を設けている。オレが生徒会に入り、精力的に活動すれば、結果として先輩の苦労は減るかもしれない。
そして何より、生徒会に入る、奈菜先輩の下で活動するのも、悪くないと思い始めているのだ。


斎藤奈菜先輩。
オレにとって彼女は、一番掴みどころがない。……あ、胸の話じゃないぞ?


紗沙先輩の考えは、ある程度わかるようになってきた。受け入れられるかは別問題ではあるが。
彼女の行動理念もわかった。彼女の過去も知ってしまった。
だからこそ、オレは彼女を支えてあげたいと思う。


だけど、奈菜先輩の行動理念は何だ? あの人は一見すると、ふざけていて何も考えていないように見える。いつも明るく、楽しそうで、ただ今を楽しみたいだけなのかもしれない。
かと思えば、かなり頭はキレる。おそらく、オレや紗沙先輩以上に。さすがに生徒会副会長をやっているだけある。


オレはあの人が怖い。
かつて紗沙先輩から感じた、見透かされているという感覚。それ以上のものを感じる。
生徒会に入れば、もっとあの人を知ることができる。
あの人から信頼される人になりたい。
そう思わせる何かが、あの人にはある。これを、カリスマ性と言うのかもしれない。



六月二週目。今週末が、次期生徒会役員の立候補の期限だ。
会長に言われたことは、誰にも相談していない。オレ自身のことだ。オレ自身で考えて決めたい。


「先輩は、生徒会に立候補しないんですか?」
たぶん先輩も、成績はいいはずだ。なんの根拠もない勘だけど。
「嫌よ。奈菜と一緒とか」
そこが嫌なのか……。
「先輩から見て、奈菜先輩はどんな人なんですか?」
「何? 松岡さんに何か不満あるの?」
オレが奈菜先輩を狙っていると思ったらしく、見るからに嫌そうな顔をする。
「そういうことじゃないですよ。ただ、この前も手伝ってもらいましたし……」
「この前、先生に答案を見せてもらえたのは、奈菜のおかげなの。どんな手を使ったんだか……。それから、人が絶対見られたくものを勝手に持ち出すような子よ」
うわぁ……日記のこと根に持ってる。
「先輩基準で、奈菜先輩って、頭良いですか?」
オレが無神経にもそんなことを言うと、先輩は向かいに座るオレの足を蹴りつけた。机の上では、明らかに不機嫌な様子になっている。
……なるほど。この姉妹の確執はここ、か。
「……ええ、良いわよ。こと悪知恵に関しては天下一品だわ」
「先輩もなかなかだと思いますけどね……」
「へぇ……佑馬くん、最近言うようになったじゃない。人の過去を勝手に覗き見て、わたしのことをわかった気になってるでしょ」
あ……先輩、ちょっと本気で怒ってるかも。やりすぎたかな。
「すみません、調子に乗りました」
オレが勢いよく頭を下げると、うっかり机に額をぶつけてしまった。
ちょっと痛くて患部を擦っていると、先輩はくすっと笑って、それからどこか寂しそうな顔をした。
「……佑馬くん、相談してくれないのね」
「……え?」
そうか。奈菜先輩から聞いててもおかしくないか。いくら仲が悪いって言っても、奈菜先輩から一方的に情報を流すかもしれない。
「先輩、知ってたんですか?」
先輩は無言で頷く。
「……すみません。でも、オレはもう決めましたから」
「じゃあ、最後にこれだけ言わせて」
ここで先輩は言葉をためて、見たこともない、精一杯の笑顔を作って見せた。
「選挙、頑張ってね。君が表舞台に上がるのを、楽しみにしているわ」

「本の購入希望書に悩みを書かないでください。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く