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エルトベーレ

4-4 生徒会長

オレは促されるままに、会長の向かいの黒いソファに腰掛ける。
この様子からすると、オレに用があるのは会長なんだろう。用件はわかる。美珠先輩のことだ。
「初めまして、かな。久連山真珠です」
上品な所作で、彼女は小さく会釈した。オレも慌ててそれに返して名乗る。
「倉田佑馬です。あの、オレに用っていうのは……」
「妹のことです」
やはりか。会長も知ってたんだ。
「事情は聞いているのでしょう? 紗沙は来てくれないから、君に話しておこうと思ってね。あの子の動機を」
先輩……。何してるんだよ。


「直接的な原因は、六月末にある、生徒会役員選挙」
「生徒会役員選挙……?」
それとこれと、何の関係が?
事情を飲み込めていないと、奈菜先輩が補足してくれた。
「今期の役員は夏休み前の文化祭が終わったら任期が終わるから、六月中に次期の役員を選ぶんだよ。生徒会役員になるには条件があってね、そこに、成績優秀っていうのもあるってわけ」
「成績優秀って、明確な基準があるんですか?」
「直近の定期考査で学年十位以内。これが規定です」
うわ、思ったよりキツいな……。美珠先輩の前回の順位じゃ全然足りない。……それで、か。


「美珠先輩は、生徒会役員になりたかったんですか?」
オレのその問いに、会長は表情を落として、重々しく口を開いた。
「……美珠は、ずっと私の後を追ってきたの。この学校を選んだのもそう。あの時は本当に受かると思ってなかったけど、入ってからも努力はしてるみたいだし、本人なりに頑張ったのね」
その話を聞いただけで、オレはすべてを察した。
美珠先輩も、生徒会長になりたかったんだ。姉のように、立派な生徒会長に。
「妹っていうのは、何だかんだで後ろをついて来るからねぇ。うちの妹は、少々反抗的だけど」
なんて、奈菜先輩がおどけたように笑う。
まぁあの先輩だし、あんまり仲は良くないんだろう。
「優秀な姉の後ろをずっと追いかけてきたけど、とうとう追いつけない壁が見つかってしまった。それが、今回の生徒会役員選挙……」
「そんな感じなのかしらね。本当のところは、本人にしかわからないけれど」
そういう彼女の寂しい表情は、オレの考えを確信に変えた。
「あ、そうだ、倉田くん。一つ、お願いがあるの」
会長はおもむろに、手近にあったメモ用紙とボールペンに手を伸ばし、何かを書き記した。
「もし、妹が無実だとわかったら、最初に教えて」
彼女の瞳は本気だった。
これだけの状況証拠があったとしても、やはり妹。信じてあげたいのが姉のさがなのだろう。
「わかりました」
会長から受け取ったメモ用紙には、彼女の連絡先が記されていた。
「聞きたいことがあれば、いつでも連絡していいからね」
そういう会長の横で、奈菜先輩が茶々を入れる。
「変なことは聞いちゃダメだよ?」
「聞きませんよっ」
会長も苦笑いしてるじゃないか。ただでさえオレは、制服泥棒に間違えられかけた一件があるんだから。


とはいえ、これで彼女の動機はわかった。もっともな動機だ。あとはトリックさえわかれば……。



昼休みが終わる前に、真白に空の弁当箱を返すと、今日は一緒に帰れないと言われてしまった。
本格的に何か調べてるらしい。今回の真白はなぜか有能だし、オレは口出ししないで任せてみることにした。
「何か手伝ってほしいことがあったら、何でも言ってくれよ? あと、危ないことするなよ? それから……」
「もう、佑馬くん。どんだけ私のこと心配なの? 私だって、子どもじゃないんだからっ」
その一言には、なぜだかショックを受けた。
「いや、子どもじゃん……」
「そ、そういうことじゃなくって! ……ばか」
よかった。いつも通り、かわいい真白だ。

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