本の購入希望書に悩みを書かないでください。

エルトベーレ

4-1 不正行為

いつも通りの司書室。しかし今日は、ご機嫌な様子の真白もいる。
「ふふふ、ありがとね〜、佑馬くん」
どうやらちゃんと赤点は回避したらしい。
「よかったな、真白」
頭を撫でてやると、嬉しそうに微笑んでいる。


ふと先輩の方へ視線を向けると、彼女はいつになく険しい顔つきで一枚の紙面とにらみ合っていた。あの用紙は例にもよって、本の購入希望書だ。
「先輩、どうかしたんですか?」
「いや、何でも……」
と言いかけて一旦 口をつぐみ、再び話し始めた。
一人で抱え込まず、オレを頼ってくれようとしてくれたんだ。嬉しい。
「……ごめんなさい、ちゃんと話すわ」
先輩が見せてくれた紙に書かれていたのは、“カンニングを疑われています。助けてください。二年A組 久連山美珠”という文字。
クラスも名前も載せるってことは、相当困っているんだろう。
「この人、知ってるんですか?」
久連山くれやま美珠みすずは生徒会長である久連山真珠ますずの妹よ」
え、生徒会長の妹である人が、どうしてカンニングを疑われるようなことを……?
「とにかく、直接会って話を聞きましょう」
先輩はケータイで彼女を呼び出す。


「でも、カンニングってできるもんなの?」
「まぁ、色々やりようはあるだろ。ネイルアートに見せかけて爪に書いとくとか、消しゴムの裏に書いとくとか。あとは、協力者がいるとか」
「なるほど……」
「……するなよ?」
「しないよっ!」
真白とそんなことを言っている間に、彼女はやってきた。


背の高く、上品な出で立ちの少女。彼女が久連山美珠先輩か。
「紗沙ちゃん、見てくれたんですね!」
「美珠。早速だけど、事情を説明してくれる?」
「はい」


美珠先輩は昨日、先生に呼び出され、今回のテストで不正行為がなかったかどうか聞かれたそうだ。
解答が明らかに不自然で、そう思わざるを得ない。自ら申し出るか、不正行為がなかったと証明するか、そのどちらかがなければ一週間後に相応の措置を取る、とのこと。


「一応聞くけれど、不正行為はしていないのね?」
「してません。当然です」
紗沙先輩の問いに、美珠先輩は即答した。
「わかったわ。できる限りわたし達も考えてみるけど、間に合わなかったらごめん」
「ありがとう……! 紗沙ちゃん」
彼女は丁寧にお辞儀をして、司書室を出ていった。


さて、これはどうしたもんかな……。彼女の話を聞いているだけでも、いくつか思うことはあった。が、先輩はどう思っただろうか。
今回の案件は先輩の友人が依頼者だ。オレが下手に動くべきでもないような気がする。
しかし、先輩は悲しげに呟いた。
「……彼女はおそらく……クロね」
「……先輩も、そう思いましたか」
「えっ? ど、どうしてわかるんですか!?」
真白は気づかなかったらしい。よく考えれば、誰でも違和感に気づけるはずだ。
「学校側も明確な証拠がないのにカンニングだとは断定できない。だから自白もなしに成績をどうこうはできないはずだ。だから、一週間後に取られる措置というのはおそらく……」
「再テスト……でしょうね。不正がないなら堂々と再テストを受ければいいはず。そもそも彼女は、わたし達に依頼する必要はないはずなのよ」
「じゃあ、もしかして久連山先輩の依頼っていうのは……」
……真白もようやく気づいたか。
「そう、不正行為をしていないと、偽りの証明をしてほしいのよ」
「そんな……」
しかし、そう決めつけてかかるわけにもいかない。だからこそ、先輩はああいった返事をしたのだろう。


「佑馬くんは松岡さんと調査をして。わたしは別行動をとるわ。上級生や教員に対しては、わたしの方が顔が利くしね」
「わかりました。じゃあ、そうですね……朝の時間に、情報共有の時間を取りましょうか」
朝なら比較的利用者は少ない。図書委員の仕事をしながらでも、話し合いができるだろう。
「それでいいわ。彼女の潔白を証明するか、彼女に自白させるか、どちらの方向で進めるのかも、二人に任せるわ」
「……わかりました」
先輩だって心苦しいだろうに、任せてくれるのか。
「真白もそれでいいか?」
「うん。私にできることがあれば、何でも言ってね」
「ありがとう、真白」
頭を撫でてやると、満足そうにしている。本当にかわいいな。


ここで最終下校時刻になってしまい、今日はもう調査はできない。
期限である来週の月曜まで、残された時間はあと五日。そのうち学校で調査を行えるのは三日しかない。
時間を無駄にしないように、ある程度検討をつけて行動しないとな……。


「真白、早速この後、時間あるか?」
「うん!」

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