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エルトベーレ

断章:真実

中央病院に着くと、彼は待合室に降りてきた。
わたしはその姿を見て、愕然とした。彼は院内着に身を包んでいたのだ。
それじゃあ、入院してるのって……先輩? 大病を患って、時間がないって……まさか……。


「やあ、斎藤さん。来てくれてありがとう」
「あの……」
「詳しい話は部屋に着いてからにしよう。さ、ついてきて」
彼の案内で辿りついた病室には、“北沢傑”のプレート。やはり、先輩は入院してたんだ。


「本、買ってきてくれた?」
「あ、はい。これ……」
わたしは買ってきた詩集を手渡した。
「ありがとう」
先輩の笑顔はいつもより力がない。それでも、彼は笑顔でいる。わたしは、どんな顔すればいいんだろう。


「驚いたかい? 本当は僕も、君をここに招待するつもりはなかったんだよ」
「じゃあ、どうして……?」
「どうしても君に会いたくなったから、じゃダメかな?」
どうして……。どうして、わたしなの? こんなわたしを選んでくれたのは、どうしてなの……?
「先輩……いつ退院できるんですか?」
聞いちゃいけなかったかもしれない。でも彼は、やはり笑顔で返すんだ。
「退院できないよ。僕はずっとここにいるのさ。この身体が冷たくなるまでね」
「そんな……」


彼は真剣な顔つきになり、わたしの目をじっと覗きこむ。
「僕と約束してほしいことがある」
「……何でしょう」
「一つ目は、僕のように投書をしてきた人のお願いを、できる限り聞いてあげてほしい。二つ目は、この部屋にいる間は悲しい顔をしないこと。できれば笑ってほしいな。そして三つ目は、今日以降、この部屋には来ないこと。理由がなぜかはわかるね?」
先輩は、元々わたしをここに呼ぶつもりはなかったと言っていた。わたしがここに通うようになれば、先輩に心残りができてしまう。そういうことなのだろう。
「わかりました。約束します」
「ありがとう。初めて君を見たときから、君のことはなんだか放っておけなくてね。先は長くないってわかってたけど、だからこそ、その前に君を助け出してあげたかったんだ」
「ありがとうございました。本当に」
わたしはそっと、自分の手で彼の手を包む。
「温かいな。君の手は」
先輩はわたしから視線を外し、窓の外を眺めながら、珍しく力のない声を出した。
「本当はね、君にもう一言贈りたいんだけど。やめておくよ」
「……どうしてですか?」
「どんな言葉だとしても、返ってくる君の答えを聞きたくないからさ」
振り返った彼の目は潤みを帯びていて、それを見ていると、なぜか胸がきゅっと締め付けられるような気がした。
「……そうですか」



その一か月後、先輩はこの世を去った。
わたしは約束通り、図書委員の仕事をしつつ、投書の悩みを聞いてあげていた。


でも、これで終わらなかった。


「傑が死んだのはお前のせいだ!」
「なんで傑は死んで、お前はのうのうと生きてやがる!」
「お前に幸せになる資格なんかない!」
待っていたのは、より酷くなるわたしへの嫌がらせ。


「紗沙、俺と付き合わないか? そうすれば、俺は見逃してやるよ」
そう言ってきたのは、クラスメートの堀本蒼羽。こいつは北沢先輩と同じ部活だった。
「誰が、あんたなんかと……」
すると彼は、強引にわたしの身体を掴み、床に押し倒す。
どうしてこうなっちゃったんだろう……。わたしは、ただ……。


「そこっ、何してるのっ!」
「ちっ、めんどくせぇのが来たか……」
先生を引き連れた小柄な少女が、わたしの元へ駆けよってくる。それを見た堀本は、そそくさと去っていった。
「大丈夫? 紗沙」
「ありがとう……奈菜」


彼女が守ってくれるから、わたしは一人でも大丈夫。
これからもわたしは、先輩との約束を守ります……!

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