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エルトベーレ

3-3 懐古

「やっぱりか……オレもそんな気がしてたよ」
図書室で会ったとき、オレは彼女に会ったことがあるような気がしていた。それはたぶん隣のクラスだからだろうと思っていたけど、そうじゃなかったんだ。
「じゃあ……!」
「でも、ごめん。どこで会ったか思い出せないんだ」
「ふふっ、それじゃあ……」
と、真白は机の引き出しから取り出したものを、すっとかける。
群青色の縁のメガネ。その姿を見て、オレは思い出した。
「あ……もしかして、同じ中学だったっけ?」
「そうだよ! ずっと、会いたかったよ……。だって、卒業アルバムにも載ってないんだもん」
そうだったのか……。


オレは中学一年の冬に転校した。あのときは、父さんの転勤で仕方がなかったんだ。それでこの春、またこの街に戻ってくることになったわけなのだが。


彼女はその中学一年の頃に同じ学校に通っていたはずだ。クラスメートではなかったと思うけど。そして、彼女は……。
「だから、また佑馬くんに助けてもらっちゃったね」
あの頃とは違って、こんなに素敵な笑顔ができるようになっていたのか。
「……オレが転校してから、またいじめられたりしなかった?」
「ううん。大丈夫だよ。佑馬くんが勇気をくれたから、私は大丈夫だったの」
「そっか……。よかったよ」


オレが彼女に出会った場所は、そう、学校の屋上だった。
オレは悪ふざけのつもりで来たのだが、彼女は違った。彼女は柵の向こうへ飛び立ちに来ていたのだ。
それから何度か彼女と話をして、一緒に過ごすようになったけど、結局最後までお互いに名乗らなかったような気がする。それでも彼女はどうやってか、オレの名前を知ったのだろう。


「佑馬くんがいなかったら、今の私はいないの。だから、これからも……ずっと、一緒に……」
そんなとき、誰かが階段を上がってくる音が響く。
「真白~? 友だち来てるの~?」
彼女の母だろう。真白は恨めしそうに顔を曇らせ、開いたドアを睨み付けた。
「あら!」
驚きと同時にからかうような視線がオレを捉える。
「あ、お邪魔してます……」
「真白ってば、もう彼氏できたの~?」
「う、うるさいっ、勝手に入ってこないでよぉ!」
照れたようにして、真白は彼女の母を部屋から追い出した。


「で、真白……勉強は?」
「あ、その……」
結局この日、テスト勉強は全然捗らなかった。



翌朝も、司書室から図書室を開ける。そうだ、投書箱を見ておかないと。
だが、その中には何も入っていなかった。……おかしい。昨日は確かに入っていたのを確認したはずなのに。……誰かが持ち去った? 一体誰が? それってまさか……。
昨日のオレは最終下校時刻まで残っていた。それを過ぎれば警備システムが作動するらしいから、持ち去られたのは今日。
オレの考えだと、恐らく持ち去ったのは斎藤先輩だ。オレよりも早く、先輩は学校に来たんだ。
奈菜先輩のメールによれば、先輩は今日は学校に行くと言っていたらしい。となると、今も校内のどこかにはいるはず。


オレは図書室のドアに臨時休館の札を提げて、校内を探し回ってみることにした。
まずはこの階、二年生の教室。職員室。一階。体育棟。女子更衣室や女子トイレは……さすがに入れない。
三階にもいない。どこにいるんだ……。
残すは屋上だけ。屋上は立ち入り禁止になっていて、外階段からしか入れないようになっている。
窓から外階段に降りて、それを登って屋上に上がった。


屋上は何もない殺風景なところだった。
コンクリートに埋め尽くされたその空間に不相応な一輪の花が、静かに風に揺れていた。

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