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エルトベーレ

3-1 失踪

「おい、どうしたよ? 彼女と喧嘩でもしたのか?」
ため息を吐きながら机に突っ伏していると、前の席から心配そうに声をかけられた。
「鋭いな、裕暉ひろき。まぁ、そんなとこだ」
喧嘩……というより、オレが一方的に悪い気もするが。
「お前何やったんだよ……。でも松岡さんなら、本気で謝れば許してくれるんじゃね?」
「そう思いたい……けどな」
そうする必要があるのか? オレは謝ってまで、松岡さん・・・・との関係を続けたいのか?
そんなことを考えていると、ふといい匂いが鼻をつく。顔を上げてみれば、彼女の姿があった。
「はい。食べ終わったら、あとで返して」
「あ、ありがとう……」
彼女はオレの机に弁当箱を置いただけで、自分の教室に帰っていってしまった。
「よかったな」
「ああ……うん」



昼休み。彼女の作ってくれた弁当を食べる。嫌がらせでとんでもない味付けになっているんじゃないかと心配したが、そこは松岡さん・・・・だ。まったくそんなことはなかった。むしろ……。
「……めちゃくちゃ美味しい」
「っておい! 何泣いてんだよ!?」
裕暉に言われて初めて気付いた。オレは食べながら涙を流していたらしい。
「いや、本当にめちゃくちゃ美味しいんだよ。なんで喧嘩してるオレに、こんなものを……」
「そりゃやっぱ、好きだから、だろ?」
……裕暉のやつ、たまにいいこと言うな。返すとき、真白にちゃんと謝ろう。


昼休みが終わる前に、オレは弁当箱を持って、隣のクラスの彼女の元へ向かう。
「真白、その……めちゃくちゃ美味しかった。ありがとう」
「え、あ、こちらこそありがとう……」
そんなことを言われると思っていなかったのか、戸惑っている様子だ。
そしてオレは、ひざまずいて床に手をつき、頭を下げた。
「ごめん、真白。オレが悪かった。……オレがちゃんと、好きって言えなかったから……」
「ちょ、ちょっと、やめてよ。私だって……」
彼女はイスから降りて、オレの頭を上げさせた。
「真白……」
「佑馬くん……」
真白がオレの目をじっと覗き込んでくる。ということは、オレも彼女の目をじっと覗き込んでいるんだ。
言葉がなくても今だけは、その奥にあるものが確かに見えた気がした。


「ちょっとお二人さん、熱くなってるとこ悪いんだけどさ……」
さっきまで真白と話していた女子生徒が、呆れたように声をかけてきた。
「あ、あなたこの前の!」
真白よ、説明してくれてないのか?!
「真白から話は聞いたけどさ……、ちょっと、ねぇ……」
「ごめんなさい……」
オレは潔く頭を下げて謝罪した。
理由はともかく、女子更衣室に侵入したのは事実だ。そこには彼女らの着替えがある。オレは正直興味ないが、そういう問題でもないのだ。


「あなたが、真白の彼氏なのね?」
真白は彼女の一言で沸騰したように真っ赤になってしまう。
「……はい」
「……ありがとね。制服」
この子、可愛くて胸が……。被害者の子か。
「いや、あれは……真白が協力してくれたから」
オレはとっさに目の前の真白の頭を撫でると、真白は嬉しそうにしている。
「はいはい。これからもお幸せに」
からかうような笑顔を向けられた。
そうだよな。周りはオレたちが本当に付き合ってると思ってたわけだし、ただの痴話喧嘩に見えたかもしれない。
でも、仲直りできて本当によかった。
「これからもよろしくな、真白」
「うん!」


そういえば、この前例の本の七巻目が並んでいるのを見かけた。また買ってくれたんだ。早速読みたい。



放課後になって図書室に向かうと、ドアには臨時休館の札がかかっていた。
おかしい……。昼休みは先輩の担当で、彼女は何もなければ臨時休館にしたりはしない。ということは、何かあったのか……?
司書室の鍵を開けて中に入っても、そこには誰もいない。当たり前なのだが、オレにとってみればそれがもう既におかしいのだ。


ふと、机の上の一枚の紙が目に留まる。
そのメモ用紙には、“投書箱の中身を毎朝確認すること”、“朝と昼休みと放課後は開けてほしいけど、昼休みは厳しかったら臨時休館にしてもいい”、“何かあれば先生を頼ること”の三点が書かれていた。
これじゃあまるで、先輩がもう来ないみたいじゃないか。
そういえば、他の委員は? この学校は委員会で集まるということもほとんどないし、オレと先輩以外の人は知らないぞ。さすがにオレだけだと厳しいし、手伝ってもらおう。


オレは札をかけたまま、すぐ近くの職員室に出向く。


「図書委員? 君と紗沙さんだけだよ。去年は彼女一人だったけどね。だから君が入ってくれて、本当助かるよ。彼女から聞いてなかった?」
先生の言った言葉が、うまく飲み込めなかった。いや、言っている意味はわかる。わかるが、受け入れたくないものだった。
さらに追い討ちをかけるように、近くにいた先生が話に入ってきた。
「斎藤といえば、あいつ今日は休みだぞ。珍しいことにな」
先輩が、休み……。何もなければいいんだけど。でも、じゃあ、あの書き置きはどういう……。
「失礼しました……」
疑問だけが増えていく中、オレは職員室を後にした。

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