本の購入希望書に悩みを書かないでください。

エルトベーレ

断章:間違った使い方

わたしは図書委員の仕事として、たまに投書箱の中身を確認していた。この中には、図書室の蔵書を増やすための、本の購入希望書が入れられている。それは普通に書いてくれている人もいれば、アイドルの写真集を置いてほしい、なんてものもあった。
だが、この日はもっと変わったものが入っていた。
“大切な人に本を贈ってあげたいが、どんな本がいいだろうか”。用紙にはそう書かれていた。
わたしは悪戯かと思い、無視することにした。大体、この用紙はそういうことに使うものじゃないはずだし。



しかし、その翌日にも、そのまた次の日にも同じように、用途の守られていない投書があった。
その内容は、“悲しいお話よりは心温まるものがいいと思うのだが、良い本を教えてほしい”、“見てくれていますか? あまり時間がないのです”というものだった。


毎日毎日あるのだから、恐らく今日もあるはず。そう思って、今日の昼休みと放課後、わたしはカウンター上の投書箱に目を光らせていた。
すると、一人の男子生徒が投書箱に用紙を入れた。そしてわたしの目を見て、ウィンクを投げて去っていった。
間違いない。あいつだ。なぜかはわからないけど、そう確信めいたものがあった。


思った通り、この日の投書は一枚だけ。
その一枚の内容は、“ごめん、名乗っていなかったね。僕は二年A組の北沢きたざわすぐる。お返事を待っているよ”。
本来ならこれは、先生に相談すべき事柄だったのかもしれない。でもわたしは、悪戯だと決めつけて、彼に直接文句を言いに行くことにしたのだ。



翌日の昼休み、わたしは二年A組の教室へ乗り込んでいった。
「あの、北沢先輩いらっしゃいますか?」
入り口近くの男子生徒に声をかけると、すぐに昨日見た彼がこっちにやってきた。背の高い、優しげで爽やかな笑みをたたえた男。


「斎藤紗沙さんだね? 来てくれてありがとう。今日はカウンターの仕事は?」
この人、わたしの名前知ってるんだ。
「今日は休館日です」
しかしながら、司書室の鍵を開け、彼を中へ通した。


「それで、これの件で、お話があります」
と、わたしは四枚の紙を机に並べた。それはいずれも、彼が書いた本の購入希望書のはず。
「書いてある通りなんだけど、うちの母が大病を患って入院していてね。本を読むのが好きだったから、何か買ってあげたいんだ」
彼はわたしと視線を合わせず、用紙に目を落としていた。
「どうしてこれに書いたんですか? そんなの、直接聞けばいいじゃないですか」
「君、忙しそうだったからね。暇になったときに見てくれたらって思ってたんだよ。それに、君みたいな可愛い子と話すのは少し気後れしちゃってね」
なんて、最後に軽くウィンクする。
最後のは絶対嘘だ。こんな人が女性慣れしてないわけがない。
「わかりました。選ぶのをお手伝いします」
「本当かい!? ありがとう!」
彼は立ち上がり、わたしの手を取った。
「じゃあ今日の放課後、昇降口で待ってるから!」
彼はそれだけ言い残して、司書室を出ていった。その足取りは、来た時よりも弾んでいる気がした。
はぁ……、なんか余計なことに首突っ込んじゃったかも……。


この時のわたしはまだ、彼の話を半信半疑で聞いていた。そしてこれが、さらなる事件を引き起こすことになるとは、この時は微塵みじんも思っていなかった。

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