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エルトベーレ

2-4 完璧な布陣

オレは今、女子更衣室横のトイレでドキドキしながらその時を待っている。ケータイの液晶には、更衣室の中の映像。
もうすぐ出てきそうなんだが、まだ出てこない。
……お、やっと出てきたか。行動開始だ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


先輩に作戦を相談しようと思って、朝早くに司書室に行けば、やはり予想通り、そこに先輩の姿があった。
「おはよう、佑馬くん」
「おはようございます」
先輩は、一枚の紙面とにらみ合っていた。


「何か進展があったんですか?」
「ええ。あの後、改めてわたしも更衣室を調べてみたの。そしたら見つかったわ。隠し通路が」
出入りの手段か。たしかに、更衣室の入り口から出入りしてたら簡単に見つかっちまうもんな。
「これを見てくれる?」
それは先程から先輩が睨んでいた紙面。校内の見取り図だった。
「女子更衣室のちょうどこの場所にある棚なんだけど、奥の壁が外れるようになってるのよ。で、出口はここ、多目的教室」
大胆なことをするなぁ。まさか、このためだけに壁をぶち抜いたんじゃないだろうな。
「隠しカメラはコンセントにありました?」
「その通りよ。電源タップにあったわ。迂闊に外すわけにもいかないから、そのままにしてあるけど」
充電式だとその分かさばるし、電源に直挿ししているのではないかと思ったのだ。
「ついでに、容疑者の目星もついたわ。松岡さんの話と、うちのクラスの被害の時間帯を考えて、その全てが空きになる先生は一人だけだったわ」
「まだ先生が犯人かはわからないですけどね。それに、現行犯で捕まえないと、逃げられるかもしれませんし」
「そうなのよね。今回の犯人はかなり計画的で用意周到だわ。逃げ道くらい考えてるでしょうね」
でも、先輩のその情報はありがたい。それと、オレの作戦を合わせれば、おそらく現行犯で捕まえられるはずだ。


「で、佑馬くんは、何か進展があったの?」
「昨日、真白とデートしてきましたよ」
「そっちの進展はどうでもいいわ」
でしょうね……。
「本当のところは、現行犯として炙り出す作戦を用意してきましたよ」
「へぇ、やるじゃない。早速聞かせて頂戴?」
オレはカバンからあるものを取り出して、先輩に見せる。と、先輩はさっとケータイを取り出して、どこかに電話をかけようとした。
「ちょ、違いますからっ。通報しないでくださいっ」
「……で、そんなものを見せられて、わたしはどう反応したらよかったわけ?」
オレが出したのは、昨日買ったブラ。
おかしいな、真白は可愛いって言ってくれたのに。
「今日の五限、真白のクラスの授業があります。そしておそらく、そこはターゲットになるでしょう。そこで、真白には囮になってもらおうと思うんです」
「それとこれと、何の関係があるの?」
「今日の体育の授業、真白はノーブラで受けてもらいます。わざとカメラに映るように脱げば、いくら平坦な真白と言えどもターゲットにされるはず。他に被害を出さず、確実に仕留められますよ」
オレは胸を張って説明した。真白には悪いが、これが一番の策だと思う。
「その自信はどこから来るわけ? だいたい、罠だと怪しまれるかもしれないじゃない。盗らなかったら現行犯で捕まえられないわよ?」
「いえ、盗りますよ。だってそこに脱ぎたてのブラがあったら、男なら盗らないわけにいかないじゃないですか」
先輩はもう一度ケータイを取り出して、番号を押していく。
「だからオレは何もしてないですって!」


「まぁ、作戦についてはわかったわ。上手くいくと思いたくはないけど、佑馬くんを信じてみる」
「ありがとうございます。では手はず通り、お願いします」
犯行を終えた犯人は、オレと先輩で捕まえる。その時間、オレは授業があるけど、体調不良で保健室にでも行っていることにしよう。


「あ、そうそう。松岡さんに、ちゃんと謝っておきなよ?」
「はい。今度また、デートするんで」
「ああ、そう」
自分から言い出したくせに、先輩は興味なさげに適当に返した。



昼休み。昨夜発信器をつけておいたブラを入れた袋を真白に手渡し、トイレで着替えてもらうことにした。
やはりオレとしても、真白が直に肌に着けていたものを盗られるのは嫌だ。


そうして準備万端で迎えた五限目。
先輩が昼休みの間に、ケータイを忍ばせたカバンを更衣室に置いておいてくれたので、テレビ電話を使ってオレは中の様子を伺うことができる。
ただ、それだとオレまで覗きになってしまうので、始業のチャイムが鳴るまでは絶対に見ないという約束になっている。本当に見ないかはオレの良心に任されたが、オレは見ないぞ。絶対にな!


『あれ、真白、何でブラ脱いでんの?』
『んー、ちょっと苦しくてさ』
見てないぞ。イヤホンで音だけ聞いてるんだぞ。やはり真白が心配だからな。
オレはと言えば、保健室を抜け出して、女子更衣室横の男子トイレにこもっている。先輩は多目的教室の向かいの教室に隠れている。完璧な布陣だ。


そして、勝負の刻を告げる、鐘が鳴り響いた。
オレはケータイの液晶越しに、女子更衣室の中の様子を伺う。まだ奴は現れない。
真白のやつ、ちゃんと見えるようにブラを置いている。よくやった。


五分くらい経っただろうか。退屈でぼんやりと眺めていると、液晶画面の端に人影が映り込んだ。
オレはすぐさま意識を覚醒させ、その人影を注視する。
男はオレの予想通り、真白の着替えを巾着袋のようなものに入れ、再び画面の端に消えていった。
オレはそれを見届けると、そっと男子トイレから出て、壁に隠れながら多目的教室のドアが開くのを待った。

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