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エルトベーレ

1-3 仮初めの恋人

昼休みに松岡さんと段取りを確認して、放課後に決行することになった。
彼女は隣のクラスで、昨日オレが見たことがあると思ったのは、たぶんそのせいだろう。


「よろしくお願いしますね」
「こちらこそ。こんなやり方でごめん」
「いいんです。これで収まるなら……」
ボロが出ないように、今のうちからできるだけ彼女と話をしておきたい。馴れ馴れしく話せるように。
「あの、さ。敬語、やめない?」
「あ……うん。……わかった」
もうこれだけでぎこちなくなる。本当に上手くいくのだろうか。
「ま、真白は……さ、結局部活とかどうするの?」
思い切って名前で呼んでみた。異性を名前で呼ぶって、なんだかめちゃくちゃ気恥ずかしい。
「バド部はやめとこうと思いま……思う。だから、また考え直さなきゃ」
そう言って微笑む彼女。ああ、なんか本当に可愛いかもしれない。堀本先輩の気持ちもわかるよ。少しだけど。
「そっか。それがいいよ」
「佑馬くん……は、どこか決めてるの? やっぱり図書委員会?」
図書委員会には、少し魅力も感じていた。あの空間がオレは好きだから。だけど、先輩のような人と、上手くやっていける自信がない。
「んー、まだ迷ってるよ」
「そうなんだ」


だいぶ自然に話せるようにはなったか。じゃあ、次の段階も試しておくか。
「ねぇ、真白」
「なぁに?」
オレはそっと、彼女の手を取ってみる。と、彼女は一瞬手を引っ込めたが、オレの意図を察してくれたのか、彼女もオレの方へ手を伸ばしてくれた。
「……ドキドキするね」
「……うん」
オレの方が緊張してどうするんだよ。これは練習だし、松岡さんだって本気じゃない。これは演技だ。
そう言い聞かせて、暴れる鼓動を落ち着かせる。
「こんなもんで、大丈夫かな」
「うん。あの……」
松岡さんが手を放さずに呼び止めるので、オレは彼女の方を振り返る。すると彼女は、優しく笑ってみせた。
「ありがとう」
……不意打ちは卑怯だよ。



放課後。オレは教室の入り口で裕暉と談笑しながら、彼女の様子を見守る。彼女が堀本先輩に声をかけられたところに、オレが割り込むという計画だ。


「真白ちゃ〜ん。迎えに来たよ〜」
背の高い男子生徒が、隣のクラスの入り口から中に呼びかける。
「あの、先輩、私……」
松岡さんの言葉に食い気味に、堀本先輩が続ける。
「真白ちゃん、今度さ、俺とデートしねぇ? マジ遊園地とかさ、めっちゃ楽しいと思うんだよね」
その様子を見ていた裕暉も、思わずと言った様子で言葉を漏らした。
「あの二人、付き合ってんのかな。付き合ってないならかわいそうだよな」
オレはその言葉を最後まで聞かずに、彼女の方へ歩みだしていた。


「……先輩、もうやめてくれませんか?」
彼女の思い切った言葉に、堀本先輩は彼女に掴みかかる。
「……なんで? なんでそんなこと言うんだよ。俺は真白ちゃんが好きなんだ! わかるだろ? なぁ!?」
そのまま逃がさないと言わんばかりに、彼女を壁際へ追い込み、その手を押さえつけた。
「いい加減にしろよ」
背後から聞こえたオレの声に驚いたのか、松岡さんを拘束する手が緩んだ。その隙を見て、オレはその手を振り払う。
「なんだよ、お前」
「真白に手ぇだしてんじゃねぇよ」
精一杯凄んでみるけど、どうだろう。先輩の方がオレよりもいくらか体格は大きい。
「あ? なに、彼氏か? なぁ、真白。こいつ、彼氏か?」
「そうだよ。真白に構うな」
「俺は真白に聞いてんだよ。おい、どうなんだよ、真白?」
オレは眼中にないってか。松岡さん、頑張ってくれ。
「……そう、です」
「……ああ、そうかよ。こんなやつのどこがいいんだ? 俺様の方が数倍、いや、数十倍いいだろ? なぁ?」
そう来たか。退くつもりは毛頭ないらしい。なら……。


オレは彼女を抱き寄せ、彼女の髪に顔を押しつけた。そして、耳元でこう囁く。
「……いい匂いするな、真白」
「ふぇっ!? ……こ、こんなところで……」
ここから先は、彼女とは話していない。先輩と話して決めたことだ。
「真白、可愛いよ。好きだ。愛してるよ」
本気じゃなくても、言うのは気恥ずかしい。抱き締めて、顔が見えないからこそ言えることだ。
「あ、あの……っ」
少し腕を緩めて、彼女の表情を確認する。真っ赤になっているくせに、オレのことを真っ直ぐ見つめてくる。
本気じゃないとわかってるからか……?
「真白はオレのこと、好き?」
「ぁ……うん。……好き」
彼女はふっと、柔らかい笑みを浮かべた。
この表情とこのセリフが引き出せれば、さすがに堀本先輩も諦めるだろう、というのが斎藤先輩の考えだった。
「……クソっ。いいか、お前らが別れたら、今度こそ俺の女にしてやるからな」
それだけ言い残して、彼はその場を立ち去った。この先に待つ斎藤先輩に、ボロクソに言われる算段になっているとは知らずに。


オレたちは野次馬に絡まれる前に、図書室へと急いだ。そこで先輩と合流する予定になっている。
「あの……ありがとう」
「いいよ、お礼なんて」
図書室の前まで来たところで、彼女は改めて頭を下げた。頬はほんのりと赤いままだ。
「ううん。……嘘だとわかってても、嬉しかったから」
「……嘘じゃないって言ったら、惚れてくれるのか?」
柄にもなく、そんなことを言ってみる。彼女の反応が、見てみたかったから。
「えっ……?」
オレがニッと笑うと、彼女はまた、顔を真っ赤にした。
「そんなの……ズルいよ。……いじわる」

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