本の購入希望書に悩みを書かないでください。

エルトベーレ

1-2 作戦会議

彼女はおもむろにケータイを取り出し、用紙に書かれた連絡先に電話をかけた。どうやら呼び出すつもりらしい。


「さて、彼女を待つ間、君のことを教えてもらいましょうか」
「そういうのって、まず自分から名乗ったりするもんじゃないんですか?」
「……先輩に口答えするつもり?」
先輩にパワハラ受けてますって購入希望書に書かなきゃ。
「でも、そうね。わたしは二年A組の斎藤さいとう紗沙ささ。図書委員会の委員長よ」
この時期に二年生で委員長……? よほど人望があるのか? それにしても、“さ”が多い人だな。
「オレは一年C組の倉田くらた佑馬ゆうまです」
「部活や委員会は、もう決めたの?」
「いえ、まだです」
「そう」
入るよう勧誘されるかと思ったけど、杞憂だったみたいだ。さすがに部活とはノリが違うか。


すると、ちょうど図書室の扉が開き、暗い茶髪の小柄な女子生徒が入ってくる。
あれ、この子見たことある気がする。けど、名前……なんだっけ。
彼女はオレたちのところまでやってくると、一度頭を下げて名乗った。
「あの、ご連絡いただいてありがとうございました。私、一年の松岡まつおか真白ましろといいます」
「わたしはここの責任者、図書委員長の斎藤紗沙よ。そっちは手下の倉田佑馬くん」
手下って……。他に言い方ないんですか。


彼女は先輩に促されてオレの隣に座り、事情を話し始めた。
「……二週間くらい前からなんですけど、ある先輩からしつこく連絡先を聞かれたり、家までついてこられたりしてて……。最近は……髪や、身体も触られることがあったりして、怖いんです……っ。休み時間や放課後は教室の前で待たれていたりしますし……」
彼女は泣きそうになりながら、震える声でそう言った。
「で、そのある先輩っていうのは誰なの?」
「……二年の、堀本ほりもと蒼羽あおば先輩です」
「ああ……あいつね」
先輩にはどうやら心当たりがあるらしい。オレは残念ながら、その堀本先輩については何も知らなかった。
「あいつとはどこで知り合ったの?」
「バドミントン部の仮入部の時、知り合ったんです。それ以来ずっと、そんな感じで……」
「あなたはそれが嫌なのね?」
「はい……」


彼女の答えを聞いて、先輩が何か考え始めると、彼女は不意にオレの方をちらと見た。
「あのさ、松岡さんの方は、その堀本先輩に気があるような素振りとかしてないの?」
「してない……と思います」
「でも男なんて、何でときめくかわからないし……ねぇ?」
意味深な視線を送ってくる先輩。オレにそんなこと聞かれても困るんですけど。
「世の中には、女の子の泣いている姿に興奮する男もいるのよ。でしょ? 佑馬くん」
「その、オレがそうみたいな言い方やめてくださいよ。たしかにそういう男はいるとは思いますけど」
「あ……そうなんですね……」
松岡さんにまで変な目で見られてるじゃないか。オレは関係ないのに。


「堀本先輩に、嫌とかやめてほしいとか言ったりしたの?」
「遠回しには……。はっきり言うと、暴力を振るわれそうだったので……」
ここで先輩は、メモを取っていた手帳を閉じて、松岡さんの方を向いた。
「ありがとう。事情は大体わかったわ。もう少し考えてみるから、今日はもう帰ってもらって結構よ。また後日お話しさせてもらうわ」
「は、はい。ありがとうございます」
松岡さんは改めて一礼し、図書室を出ていった。


彼女の背中を見送った後で、先輩は再び手帳を開き、考えを話し始めた。
「さて、彼女の話を聞いて、どう思う?」
「……まさか、疑ってるんですか?」
「いいえ。堀本は元々そういう男だから。わたしも言い寄られたことはあるし」
たしかに、先輩も見た目で言えばかなり可愛い部類に入ると思う。
「オレとしては、堀本先輩を呼んで話をつけるのがいいと思いますけど……」
それが一番穏便に済ませられるだろう。松岡さんもその場に呼ぶという手もあるが、不本意に彼女を傷つけることになるかもしれない。それはやめた方がいいだろうな。
「たぶんそれは、何の解決にもならないわ。それに、そうなったら君が話をするのよ? わたしが話しても意味ないわ」
「どうしてです?」
「“じゃあ代わりにお前が付き合ってくれるのか? 人の恋路の邪魔をするな。”そう言われて終わりよ」
なるほど……たしかにそうか。部外者が話をつけるというのは難しそうだ。


「わたしは有効な手を思いついたわ。これも根本的な解決にはならないけど、とりあえずとしては有効なはずよ」
「それって……なんですか?」
たぶん先輩の考えは、松岡さんの話を聞いてオレが最初に考えついたのと同じだ。しかし、なぜオレが先輩にそれを提案しなかったのか。それは、オレにできる気がしなかったのだ。
「君が恋人を演じて、君が堀本を拒絶すればいいのよ」
やっぱりか……。
「もちろん、君は堀本に嫌われるかもしれないけど、あいつはそこまで根に持つやつじゃないから心配いらないわ」
「そんなんで退いてくれますかね……」
「退いてくれるようにやるのよ」
と、先輩が意地の悪い笑みを浮かべる。
うわぁ……嫌な予感しかしない。


先輩は、オレにその作戦を話してくれた。成功すれば、たしかにうまく収まるだろう。ただ、それをオレがやっていいのか……?
「大丈夫よ。松岡さんにはわたしがフォロー入れておくから。それに、君も役得でしょ? 彼女、なかなか可愛かったじゃない?」
それは……否定しないけど。
「上手くいかなかったらどうするんですか?」
「君は上手くいくことだけ考えてればいいの。失敗したときは、今度はわたしが何とかするわ」


こうして翌日、作戦は決行されることになる。

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