妹のいるグラウンド

エルトベーレ

第28話 私の役目 -side.Kanna- vs川和シニア②

監督の言っていたことが、早くも現実化してしまった。
まだ初回なのに、ランナーを二人ためてまで、四番の絢郁を歩かせて私との勝負を選ぶなんて……。ここで私が打てば、次の絢郁の打席は敬遠しにくくなるかもしれない。
監督も、私に期待してくれている。先制、してみせる……!


「緩奈ー! 頑張ってー!」
大丈夫、遥奈の声も聞こえている。本当にあの子の声はよく聞こえて、いつでも私を支えてくれる。
「お願いします」
軽く礼をして、左打席に入る。
初球はじっくり見る。バッティングセンターと違って、打たせないように投げてるんだから、まずは球筋を見たい。


初球、速い球。これは外に外れてる。それに、高い。
「ボール」
「……ちっ、狭くて嫌んなるぜ」
……今のは私の身長に関係なくボール球だと思うけど。
呟きを漏らした捕手に、目で返す。
「な、何だよ……?」
それより、今のがたぶんストレート……。結祈と違って手元で伸びてくる感じがない。初速は120キロ後半くらいだけど、段々失速して少し落ちる軌道になる……。
……うん、イメージできた。いい球なら手を出すけど、もし変化球ならワンストライクまでは見てもいい。


さっきより少し大振りなモーション。右腕から放たれた二球目は、緩い球。
これも外。外から……これは入ってきそう。
思い切って手を出してみたが、打球は後方へ飛んでいった。
中途半端なスイングしてたらキャッチャーフライになるところだった……。思ったより落ちてこなかったんだ。フォームがスリークォーターのせいか、スラーブに近い曲がり方だった。
でもこれでストレートとカーブの軌道は見た。あとはスライダーもあるけど、投げてくるかな。


三球目は何だろう。昨日の話では、キャッチャーの組み立てはセオリーに近いようだから、速い球が来るだろうけど。
セットから構えて……、速い球だ。これも高い。でも……。
ボール球でも内野を抜く自信はあった。だから私は打ちにいったけど、思った通り、打球はヒット性の当たりになった。ただタイミングさえ間違えなければ。
打球は一塁側ベンチのフェンスに刺さった。


「緩奈、ボールよく見て!」
「ピッチ荒れてるよ!」
「あたしが作ったチャンス潰すなよー!」
いろんな声が飛んでくるのも、全部聞こえてる。
っていうか、結衣さんが作ったわけじゃないでしょ……。なんて、内心苦笑する余裕もある。……まだ、落ち着けている。


私は深く息を吐いて、バッターボックスに入り直す。
……追い込まれてしまった。
追い込まれてからは苦手だ。ものすごく頭を使わないといけない。絢郁みたいに来た球に反応して打てれば楽なんだけど、私はそんなことできない。何が来るか、可能性を考えて、絞って、狙う。


今のは入れるつもりだったのだろうか。なら決め球は、緩急をつけられる緩い球で三振狙い。相手からしても、この場面は詰まった当たりでも万が一抜けたら先制されるから、三振が理想的。
でも昨日の話では、彼の一番自信のある球はストレートということだった。なら、今のは見せ球で、緩い球でカウントを取り、決め球に速い球をもってくるとか。
いやいや、そんな単純じゃないか。今日はそのストレートが荒れてる。ボールカウントが増えてからは投げにくいだろうし、今なら投げてくるかもしれない。カーブなら、見てからためてカットしよう。……ストレート、狙う。


相手バッテリーの選択は、読み通り、ストレート。でもこのコースは……。
「ボール」
外の低め。今のはボール球だったから見送ったけど、あのコースはヒットゾーンに飛ばす自信がない。
結祈と違って回転数の多くない球なら尚更。


これで2-2。これまでの配球は、外のストレート、外のカーブ、真ん中高めのストレート、外低めのストレート。
……インコースに一度も来ていない。
インコースに投げられないのか、インコースで決めるための布石なのか。敬遠の絢郁は除いて、前の三人にもインコースは一度もなかった。インコースに投げられないなんて話は昨日はなかったけど。それに、特別ベースに覆い被さってるわけでもないし。でも、ここまでの情報を総合すれば、インコースは捨ててもいいかも。
二球ストレートを続けたし、次は変化球が来るはず。ボールカウントも二つだし、次もボールなら投手側が追い込まれる。初回から四球二つは嫌だろう。
狙いはコントロールの安定している外から内へのカーブ。


モーションが違う。ストレートじゃない。緩い球が右腕から放られる。
コースは真ん中。あ……でもこれ……カーブじゃない、……チェンジアップ。
そうとは気付かず、私はカーブの軌道で振ってしまった。
バットにはなんとか当てたものの、打球は勢いなくふらふらとセカンドの頭を越えて、センターが難なくキャッチした。
……チェンジアップなんて、データになかったから考慮してなかった。でもそれは言い訳。試合は結果が全て。打てなかった私が悪い。


「緩奈、ドンマイ」
「詰まっててもあそこまで飛ばせるのはすごいよ」
ベンチのみんなは励ましてくれるが、監督には何を言われるだろう。
しかし、当の監督は何やら美莱に説教していた。大方、第一打席のサイン無視のことだろう。
この前の試合の時に聞いたけど、私と絢郁には、監督のサインを拒否する権利があるらしい。
信頼されている証なのだと思って嬉しくなったけど、今の自分を思うと情けなくて、とても拒否なんてできない。



「緩奈。今日は、その……よろしく」
プロテクターを付けていると、結祈は照れ臭そうにそれだけ言って、マウンドに行ってしまった。
私がいないと投球練習もできないのにどうするのだろう。
……昨日の話を気にしているのかな。
『結祈のストレートは女子にしては速いけど、男子にしたら打ちごろだ。とは言え、うまく使えばそう簡単に打てる球でもない。明日の試合はストレートの使いどころが決め手だな』
私も監督と同意見だ。球速のない遥奈がシニアでやってこれたのも、変化球の種類と精度があったから。
チームの勝敗は私のリードにかかっている。さっきの打席のことは、後でまた怒られればいい。今は、リードに集中しないと。

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