最弱が世界を支配するまで

天真爛漫

プロローグ

鳴り止まぬ爆発音と共に、周囲の建物が崩壊していき、砂塵が舞い上がる。時折遠くで聞こえる銃声が、仲間のものなのか、敵のものなのか、あるいはその両方なのかを知る術はない。

手榴弾による牽制が終わり、舞い上がった砂煙が落ち着きを取り戻した頃には、周辺の障害物はなくなっていた。前方には森林が広がっており、後方では銃声が鳴り響いている。

「ホントに派手な作戦だな、騒がしいのは嫌いなんだが」

退路はなく、身を隠す場所もない、無傷の自分と変わり果てた地形を照らし合わせ、ため息交じりにそう呟いた。

「作戦ってのは勝つために前もって立てておく計画のことだ。勝てない作戦は作戦じゃない」

右手に拳銃を構え、そっと目蓋を閉じる。挑発的で無防備なその行動は、森林に紛れる狙撃手に引き金を引かせるには充分だった。

その狙撃銃から銃弾が放たれるとほぼ同時に、少年は体と銃口を森林に向けたまま右へ飛ぶ。
そして銃弾が自分の左肩をかすめていくのを感じると、森林に向かって発砲する。


三回。


少年が引き金を引いたのは三回だ。銃声の鳴った位置と飛んできた銃弾で敵の居場所を予測し、そこに発砲した。常識的に考えて当たるはずのない三つの鉛玉は、全て男の頭をとらえた。


『乙』


一人も欠けることのなかった仲間に一文字だけチャットを送信し、大きなあくびをしながらヘッドホンを外す。

「アタッチメント禁止なんだからわざわざスナ使う必要あるんだか、拘りがあるのはいいが、それで負けるなら世界一もクソもない」

世界一の実力を持つチームに勝利した筈なのに、期待を大きく下回っていた事に落胆している。
負けるわけがなかった、始めから負けは100%あり得なかった。でも、「ヤバいかも」と思わせてくれると信じていた。

しかし、現実は違った。ありったけの手榴弾を投げて障害物を破壊し、逃げ場を無くすなど、こちらからすればだたの演出だった。何もせずとも自然に勝てる状況に変わっていったのだ。勝利ではなく、楽しさを求めている彼には、それが最高につまらないものだった。

あの手榴弾が全て自分に向けて投げられていたらもしかしたらやられていたかもしれない。少なくともあのような負ける可能性のない打ち合いになることはなかった。そう思うと、自然にため息が漏れていた。


頭で考えるよりも先に体がゲームを求めている。気付けばまた探している。やりがいのある、クリア出来ないほど難易度の高いゲームを。

「俺の悪い癖だな」

見慣れたゲームの見慣れた広告、初めてゲームをやったときのような、あの感覚はもう二度と味わえないのだと思っていた。

ふと画面に違和感を感じ、目線を下へ向けると、

《ゲーム》

そう書いてある。
それだけしか書かれていないにも関わらず、少年の興味を引かせるそれはすぐに、少年に本日2度目のため息をつかせた。

『ページが見つかりません』

詳しく知りたかった故にその「ゲーム」をクリックすると、そう表示されたのだった。
もう一度試そうと戻るが、そこにゲームとだけ書かれたものはない。

「幻影が見えちまったらいよいよヤバいかもな、今日はもう寝るか」


そう言ってパソコンの電源を切り、寝台へ向かおうとすると、唐突に強いめまいと頭痛に襲われる。
少年は頭を押さえるが、吐き気や手足の痛みと、それは段々程度を増していく。

あまりの吐き気に嘔吐するが、痛みは疎か吐き気すら、消える気配を感じさせない。

景色が急に変わった事に、自分が倒れたのだと気付くが、もはや体に感覚はなく、呼吸するという最低限の生命活動もままならなかった。

やがてゆっくりと目を閉じながら、
少年、七瀬 徹は眠りについた。

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