異世界召喚に巻き込まれたんだが、勇者がかなり弱くて人生詰んだ。

ノベルバユーザー210019

01 許されるはずがないのに許されてしまうオチ

「おい、タクトッ!!お前マジでやってくれたな!いつまで寝てんだばかっ!はぁ?………ちょっ、おい托斗…?おいおい待て!托斗……?」
やばいやばいっ!明らかにこいつ息をしていない!なんでだ?転生に巻き込まれて、気づいたときにはもう既にタクトが死にかけてる?いやいやこんなクソッタレな話があってたまるかよ。
「ゆ、ゆ勇者様っ!?嘘…そ、そんなはずは……召喚の儀は確かに正常に起動していたはずです…どうして、どうして……!」
やかましい外野はもうこの際放置だ。とりあえずあいつらに助力の術がないのはあの発言で大体わかる。何とかしてこいつを生き返す。
ーー心臓マッサージだ、マッサージを繰り返すしかない。
10回、20回……息が荒くなるが手を止めはしない。だがこんな行為無駄だ、こいつは既に死んでる。死んだ人間、機能を止めたソレの再起動なんて絶対的にありえない。どうしてかわからないが頭ではそう理解していた、理解せざるをえなかった。
「手を離してくださいっ治癒魔術を施しますっ!」
魔法?馬鹿なこと言ってんじゃねーよ。そんな事思ってる俺には御構い無しにいかにもなお姫様クセェ外野はこんな事を唱えるんだ。
ヒール。
そいつが数回そう唱えると、タクトの周りは淡緑の光を放ち始める。しかし、変化はない。だが少女は諦めずに何度も、何度も何度も繰り返しヒール、ヒールと唱え続けた。
不慮の事故であることくらいわかる。彼らは別にタクトを殺したくて殺したわけではないことくらいそんなのとっくに理解している。だが、理解したって受け入れるわけないだろ?腐っても幼馴染なんだ。
こんなの受け入れる事ができるわけがない。
「やめろ無駄だ、もう手遅れだ。どう見ても死んでるだろ、それ。なぁ、なんでだ?なんでこうなる?お前らこいつの事を頼って召喚したんだよな、じゃあなんでこうなるんだよ!ふざけんのも大概にしろよ……」
「わか、りません…ごめんなさい……私達が、いえ私が召喚の儀なんて物を執り行わなければ、こんな、こんな……本当に、ごめんなさいっ!」
「そんなんじゃ納得なんて出来るわけねーだろっ!人が死んでんだよっ!謝って戻ってくるようなもんじゃねーんだ」
少女の隣で黙っていた男がついに我慢しきれずに一歩前へ出てきた。
「貴様ぁっ!さっきから黙って聞いておればっ!姫様は我が国のためを思って、民の平和を守るために苦渋の選択として、勇者召喚の儀を行ったのだぞっ!召喚の儀は簡単にできるような代物ではないっ!術者一人の魔力を5年注ぎ続けた燭台を使うのだ!これがどれほどの事かわかるかっ!5年間毎日欠かさず己の身を削って燭台に注ぎ続けた姫様を貴様程度の青二才が愚弄するなっ!」
なんだこいつ、馬鹿?
あったまきた。このクソ野郎てめーのてめーだけの御託ばかり並べやがってドチクショウ。
「っるせぇっ!!そりゃてめーらの道理だろっ!俺たちは普通に普通の生活を送ってただけの只の学生なんだよっ!てめーらが何年かけてそれをなそうがなさまいが、そんなこた俺らには関係ねーよ!てめーらの事情で勝手に呼び出してっ、失敗して死亡して、理由がわからないだぁっ!?筋が通ってなさすぎじゃねーかっ!それだけのリスクを背負う覚悟があるんだったらこっちに責められただけで逆ギレしてんじゃねーぞっ!舐めてんのかクソジジィッっ!?くだらねぇ言い訳垂れ込みやがってよくそんなんで大きく出たなガマガエルっ!?」
「ぐ、ぐぅううっ……貴様ぁあああ!!」
男が咄嗟に腰に帯びた剣へ手をかける。
はっしょうもない奴。斬りたきゃ勝手に斬ればいいよ。俺は間違っていない、今ここで斬ったらてめーの負けだよ、さっさと斬ればいい。
「カーディアスっ!!おやめなさいっ!彼の言い分に一切の間違いはありませんでしょう!彼も私達が勝手に召喚してしまった犠牲者なのです!私達加害者が彼に対してなんの文句を言う権利があるというのですか!」
「しかしっ!こやつはっ!」
「もう結構。これは命令です、貴方が此処にいる必要はありませんっ!衛兵、カーディアスを連れて行きなさいっ!」
「なっ!?姫様っ!おいっ貴様らっ!やめろっ!私の命令が聞けぬのかぁっ!」 姫様とやらのおかげで少し頭が冷えてきた。
思いの外、話のわかる人間のようだな姫さんは。俺もいつまでも怒りに任せて怒鳴っていても仕方がないさ。だけど、こんな事認めるわけにはいかない。俺にできる事は納得できるまでこの姫さんと話をつけることだ。あっちの世界に帰れても帰れないとしても、しっかりタクトの分まで精一杯生きてやるためにも俺はここでしっかりとケジメつけてやらなきゃいけない。そう、いつまでも感情をぶつけても仕方ない。
ーークールに行こうじゃないか、なぁタクト。
そう思って口を開こうとした時だった。
「あのーケンジさん……?その、なんでそんなに怒ってるのかなぁ……お、俺なんかしちゃった?」
何を見間違えるだろうか。そこには元タクトでも精巧に作られた人形ニセモノでもなくーー
「へぉ?…………はぁっ!?」
ーー紛れもない本物のタクトがアホ面引っさげてピンピンしてやがった。
とんでもなくクソッタレな御伽噺茶番劇だと思ったよ。





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