いつまでたっても異世界に行けない件について
クソッタレな世界
俺がいるのは、アパートの一室。
時刻は、朝の八時。
爽やかな春風が窓から吹き込んできた。
俺は窓を閉めて鍵をかけた。
俺にとってこの春風は爽やかだけど、決して心地よくはないのだ。
なぜって?
だってさ、ほら、春風と共に明るい笑い声が聞こえてくるんだもの。
少年少女、老若男女、様々な笑い声が聞こえてくるんだもの。
皆、へらへらへらへら笑ってる。
くだらない話題で盛り上がって、しょうもない会話で笑ってる。
俺の脳内で、笑い声に対する文句が構築され、そして再生される。
ああ、なんでお前らはそんなに笑えるんだ?
だってさ、よく考えてみろよ。
お前らなんてさ、(俺も含めて)宇宙から見たら、銀河から覗いたら、お前らが毎日食ってる米よりも小さい存在なんだぜ?
そんなちっぽけな存在がさ、笑うんじゃねぇよ。笑ったって何にもならねえだろ?
無駄に地球の酸素減らすんじゃねぇよ。
無駄に俺をそのうるせえ笑い声で悩ませるんじゃねえよ。
ちくしょう。
分かってるよ。
俺が、俺の思考が歪んでるのは分かってるよ。
その時、笑い声が外から聞こえた。
やめろ、笑うな。
俺を笑うんじゃない。
窓を閉めたのに!鍵もかけたのに!
なんで笑い声が聞こえるんだよ!?
なんでお前らは毎日毎日俺を笑うんだよ!?
「俺を笑うんじゃない!」
そう叫んだ俺は、逃げるように毛布を被り、パソコンを起動し、お気に入りのアニソンをイヤホンから垂れ流した。
いいたくないが、俺は引きこもりである。
え?分かってる?
そうだよな、そうだよな。
平日に部屋にこもってるんだもんな。
分かってるよ、分かってる......
ちなみにオタクで、コミュ障だ。
聞いてない?あっ、そう......
俺は専門学校を中退し、今現在、絶賛(?)引きこもり中である。アパートでの一人暮らしだが、
親からの仕送りと、今までもらったお年玉をなんとかやりくりして生活している。
毎日、朝8時に起きてニュース番組を観る。これが日課になっている。
ニュース番組を観ていると、世界の情勢を知った気でいられるからだ。
そして観終わったら、気の済むまで、寝る。
風呂も歯磨きも、気が向いたら。
ああ、なんて自由なんだ!楽しいなぁ!
嬉しいなぁ!
自由って素晴らしい!
素晴らしいなぁ!
...........。
分かっていた。
俺はすでに、分かっていた。
すべてを理解していた。
このままではダメだと。
働かなければいけないと。
逃げることは出来ないと。
この素晴らしい自由はいつか終わりを告げ、
俺の前から姿を消すと。
分かっている。
全部、理解出来るんだ。
でも俺は、今日も相変わらず夕方まで寝て、
夜飯のカップ麺をすすった。
相変わらず。
そうなんだ。こんなこと、分かっててもどうしようもないんだ。
俺はそれをすべて理解していた。
そうだ!どうしようもないんだ!
いつもと同じ、変わりない毎日が続くだけなんだ!
でも、
ダメなんだ!このままじゃダメなんだ!......
俺は、寝ることにした。
難しいことは、明日考えよう。
とりあえず今日は寝てしまおう。
布団にもぐり、スマホをいじる。
そして趣味であるネットサーフィンを開始した......
ある掲示板にたどり着いた。
よくある、アニメとかマンガの感想を書き込むやつだ。
そこでふと、目に付いた。
「異世界転生」
というワードが、目に付いた。
というか、張り付いて取れなくなった。
それはオタクであれば普段から目にするワードであり、しかしだからこそ、流していた。
そこまで気にするものでもなかった。
だが、この時俺は、目に付いたのだ。
思いついたのだ!
そうだ!
このくだらない世界から逃げる方法!
あのどうしようもない笑い声から逃げる方法!
すべてから逃げ出せる唯一の方法!
そうだ!
「異世界転生だ!」
「コメディー」の人気作品
書籍化作品
-
-
159
-
-
39
-
-
1512
-
-
310
-
-
104
-
-
24251
-
-
55
-
-
314
-
-
23252
コメント