創造神で破壊神な俺がケモミミを救う

てん

第17話

「ふぅ~~~」

コピーとのリンクが切り、とりあえずの目的を達成した大地は軽く息を吐く。

初めてコピペの能力で感覚共有を使ってみたが、思った以上に神経を集中する必要があり、大地は想像以上に疲れてしまっていた。

『今後コピペは基本オートパイロット式にして運用した方がいいな。となるとベースとなる行動様式をどのようにプログラムしていくかにべきか・・・・』

コピペの運用方法について思案していると、大地はルル達の視線が自分に集中していることに気付いた。

大地と目があったルルは不安そうな顔を大地に向ける。

「どうした?」

「いや・・大地さんが深刻そうな顔をしてたので、村での作戦が失敗したのかと思って・・・」

周りを見ると他の獣人達もルルと同じような表情をしていた。

特にフィアやゼーレは泣きそうだともとれる顔をしている。

大地は自身の行動がルル達の不安を煽ってしまっていることに気付き、すかさず失敗したわけではないことを伝える。

「心配をかけたみたいだな。作戦は概ね成功したから大丈夫だ。攻めてきた帝国兵も八割ぐらいは削れたしな。俺が深刻な顔をしてたのは、分身を作るスキルが意外と使い勝手が悪い事がわかってな、今後どういう風に使おうか悩んでいただけだ。」

「そうだったんですね! 作戦が成功したならひとまず安心です!」

大地の発言に全員が安堵の表情を見せる。

ひとまずの危機が去ったことにフィアとパーキ達は喜びを体現するかの如く、バスの中ではしゃぎまわる。

大地はバス内ではしゃぐフィア達にドーナッツを再現して渡すことで落ち着かせると、レイ達に現在の状況について聞く。

「レイさんそれらしい場所は見えたか?」

「それが今のところ、ただひたすらに広野が広がっているのみたいでのう。人里らしきものは皆無じゃわ。」

「大地。もうちょっとトームの中央寄りに走ったほうがいいんじゃねえか?」



現在大地達はトームとユーリスの境である川沿いを走っていた。

トームとユーリスは大きな川で分断されているような形になっており、その川が両国の境になっている。

両国の境ということもあり、まともに整備がされていない川は雨が降るたびに氾濫してしまうらしく、川の付近には人里らしきものは見えなかった。

しかし唯でさえ目立つ獣人に、この世界では存在しない大型の車で移動している大地達は、そう簡単にトームの領地を突っ切ることは出来ない。

そんな事をすれば直ぐに噂になり、帝国の奴らに気付かれる可能性もある。

大地達は仕方なく川沿いを走りながら周りにそれらしきものがないかを探していた。

大地はこのような時事態になることを予測して、ステルス的な効果をバスにプログラミングしようとしたが、光の屈折率がどうだとかいう知識もなく記憶もなかった大地はプログラミングに失敗していた。

ザレウスに放ったミラーを使った光の収束による熱線は、たまたま元の世界でミラーによる光の収束を実験していた人が不注意で倉庫を灰にしたというニュースを見ていた事から出来たことである。

そう考えると記憶にあることはある程度あやふやな状態でも再現出来るが、知識のみを利用して再現する場合はある程度の原理を理解していないと再現出来ないのかもしれない。

大地はこの世界に迷彩魔法がないことに憤りを感じながら、ガランの助言通りに川沿いから離れ、深入りはしない程度にトーム領に入ることにした。

その後大地は車内から人里を探しながらレイにトームについて情報について聞く。

「そういえばレイさんは、トームの領主であるヘクトルって人と知り合いだったんだよな? という事はレイさんは元々トームに住んでたって事か?」

「そうですじゃ。といってもその頃も獣人に対しての差別は酷かったので、住んでいたというよりは作物を作る道具の様な扱いを受けておったがの。けれどもヘクトルが領主になってからは生活が劇的に変わってのう。これまでかけられていた作物の納入量も人間と変わらない量にしてくれただけでなく、私達の為に獣人特区と言われる住居環境も整えてくれたんじゃ。」

「珍しくよい人だったんだな。ヘクトルが捕まってからはどうなったんだ?」

「正直かなり酷い状況じゃった。ヘクトルが獣人と共にトームを占領するなどと他の領主が言い出したもんじゃから、人間に出会う度に襲われてな。」

「そんな状態の中で良く生きていたな。」

「それはヘクトルが領主の不穏な空気を察して、前もって私達の隠れ家を用意してくれていたのじゃよ。トーム共和国連合の最北端にあるボレアース鉱山に坑道を作り、獣人が隠れて暮らす分だけの物資を溜めこんでのぅ。ボレアース鉱山は魔晶石等の鉱石も産出されない生産性のない鉱山だったらしくての。領主達にとって、あるだけ無駄な鉱山は領地共々関心を持たれておらんかった。それが幸いして私達はほとぼりが冷めるまで、ボレアース鉱山に隠れることが出来たというわけじゃ。まぁ結局物資が尽きたことで食料を求めて外に出ざるおえなくなり、そこで人間達に運悪く見つかってしまい、密林に逃げる羽目になったがの。」

大地はレイから話を聞くと、少しうつむき加減になりながら思案し始める。

大地は元々、獣人を迎えている領主がいるという噂を聞いた時に少し引っかかっていた事があった。

それは何故領主という立場の人間が獣人を迎え入れているにも関わらず、噂程度で収まっているのかという点である。

大地が聞いた話ではそういう変人がいるらしいというだけで、それに対して他の領主が抗議や敵対行動をしているという話は聞かなかった。

そもそも獣人差別が当たり前になっているこの世界で、獣人を迎える行為はリスクが高すぎる。

そんな行為をすれば、ヘクトルの二の舞になってしまうのはトームの領主なら誰でも理解出来る事である。

それなのにも関わらず獣人を迎え入れているという事は、迎え入れている事がばれても問題のないぐらいの力を持っている場合か、迎え入れている事を隠し通せる自信がある場合の二つしかない。

もしサイラスが獣人を迎え入れているとしたら、辺境の地に飛ばされ力を無くしているサイラスが取る方法は後者しかないだろう。

大地はボレアース鉱山が獣人の受け入れ先になっているのではないかと考えレイに鉱山の詳しい場所について聞く。

「ボレアース鉱山のある領地は何処かわかるか?」

「ボレアース鉱山はボレアス領にありますじゃ。場所は確かユーリスとの境から少しトーム側に入ったところじゃったかと。」

「そこだ。そこに獣人を迎え入れている領主がいるはずだ。」

「確かにボレアス領ならユーリスとの境からも遠くありませんな。しかし高い剣山に囲まれ、土地も豊かではないボレアス領に到底獣人を迎え入れるほどの物資を補給できるすべを持っているとは思えませんが・・・。」

「もしそうだとしても、レイさんの情報と俺の考えを合わせたら、サイラスがボレアス領で獣人達を受け入れているとしか考えられない。」

「・・・わかりました。しかし道中デュセオ領という領地を通過しなくてはいけません。大丈夫ですかな?」

「それは仕方ない。目立ちたくはないが、背に腹は代えられないからな。デュセオ領に入ったら全速力でボレアス領を目指してくれ。」

「承知致しましたぞ。」

レイは大地から指示をもらうとガランとマヒアに指示を出す。進行方向をボレアス領に設定した大型バスは急速に加速していった。










帝国の館のとある一室でメリアは頭を抱えていた。

メリアは獣人討伐の時に会った、創造神と名乗る青年が話していた事を連日考えていた。

毎晩悩み、寝不足になっているメリアの目の下は、真っ黒に黒ずんでいる。

そんな毎日のように頭を抱えていたメリアに部下より王宮から馳せ参じるよう命令が出たことが伝えられる。

メリアはひとまず創造神の事を頭から外し王宮へと出向いた。







王宮には王座に座るゼフィルと隣で正しい姿勢のまま動かないミキ。通路の両端に貴族達が集まっていた。

メリアはゼフィルの目の前まで進むと片膝をつき頭を下げる。

「メリアよ。ご苦労だったな。後日褒美をとらす。」

「はっ! ありがたき幸せ!」

「メリア、面を上げよ。今回の獣人との戦闘について、ある程度は聞き及んでおる。我が五万の兵の内、四万もの兵が犠牲になったこともだ。生き残った兵に聞いては見たが、どうも要領を得ない話ばかりでな。シリウスに聞こうにもあの状態では聞けん。そこでメリアよ、お前はシリウスと創造神と名乗る者との戦いを見ていたのだろう? 相手がどのような者だったか我に教えて欲しい。」

ゼフィルに問われたメリアはゼフィルの質問に困惑していた。

元々ゼフィルは何よりも実利を優先する者であり、彼にとって何の利益も産まない死人はもはや興味の対象にはならなかった。

そんなゼフィルが初めて死人であるはずの者について興味を持ち、質問をしていた。

その質問にはメリアだけではなく、周りの貴族も驚いた表情をしていた。

しかしいくら珍しい質問でも、普通であればその時感じた印象を素直に語ればそれで済む話なのだが、メリアの場合は異なってくる。

メリアは帝国帰還直後にミキに今回の戦闘について報告をしていた。

その際大地から言われた、魔族として生きる権利という言葉に魅力を感じていたメリアは、大地とのやり取りのことを故意に省いて報告をしていた。

メリアはゼフィルのこれまでと違う問いかけに対して、ゼフィル達が自分が虚偽の報告をしていると疑っているのではないかと思い、額から嫌な汗をかき始める。

「どのような者とは・・・・?」

「見てわかった事を正直に申してくれたらそれで良い。戦闘方法、武器、防具、スキル。もし会話が出来たのであれば目的もだ。」

メリアはゼフィルの言葉から、疑惑をかけられている可能性が高いと感じ、額からさらにベタッとした油汗が流し、目は左右に泳がせる。

『正直に報告って・・もしかして陛下に私がミキ元帥に嘘を言ってるのがばれた!? 会話の内容を他の兵士が実は聞いてたとか・・・? 疑いだけでカマをかけてるって場合もあるけど。それとも単に私の考えすぎという可能性も・・・』

「メリアどうした? 申してみよ。」

頭の中がまとまってない状態でゼフィルより催促されたメリアはとりあえずミキに報告した内容と同じ内容を話すことにする。

「創造神と名乗る者は鉱石の壁を自在に出現させたり、金属のゴーレムを操っていました。また高威力爆発を起こす魔法も使えるみたいで、方法はわかりませんがゴーレムや獣人は絶命と同時に爆発を起こしていました。」

「そうか。ミキから聞いた話と同じ様だが、あれから何か思い出した事はないか?」

「申し訳ありませんが・・・・」

「そうか。疲れているところご苦労だった。下がってよいぞ。」

「はっ!!失礼致します。」

メリアはゼフィルに一礼すると逃げるように早足に王宮を出て行った。その後貴族達も一礼して出ていく。

ゼフィルはミキの二人になると静かに口を開き始めた。

「ミキよ。メリアが何かを重要な事を隠しているのは事実か?」

「確信は持てませんが、獣人の村での戦いを終えてからのメリアは何かに悩んでいるように見えました。もしかしたらその創造神とやらと何かあったのかもしれません。」

「まぁ良い。その創造神は間違いなく死んだのだ。他の兵士も奴の身体が爆発したのを見ている。それより今はディランチの奴らとの戦いに向けた国力の増強が急務だろう。メリアの悩みも帝国の実になる物でなければ考えるだけ無駄だ。」

「はっ! では兼ねてから進めていた準備の方をそろそろ実行に移すということでよろしかったでしょうか?」

「うむ。良きに計らえ。」

ミキは一礼しゼフィルと別れた後、魔法師隊の部隊室に戻り、ある内容を書いた手紙を三通書き留めると、それを部下に届けるように指示を出した。

「はぁ~どうしよ。絶対怪しまれているよ。」

メリアは自身の館に戻ると、ベッドに潜り込み、王宮でのあからさまに動揺していた自身の痴態を思い出し後悔していた。

すると部下が慌てた様子でメリアの部屋に入ってくる。

「失礼します! メリア大尉、元帥様が玄関前に来ておられます!」

『うわぁ~! わざわざ元帥が館まで来るなんて絶対怪しまれてるよぉ~! どうしようどうしよう!』

メリアはミキに怪しまれていると焦りながらも、上司を待たせる訳にはいかないとすぐさま身だしなみを整え、玄関前まで急いで駆けつける。

「お待たせしてすみません!!」

「いや急に来たのは私の方だ。王宮にて報告してもらったばかりなのにすまないな。」

「いえ・・そんな事はないですけど。それよりわざわざ来てもらったのは、新しい任務ですか?」

「さすが宮廷魔法師。話が早くて助かる。急で申し訳ないのだが、トームへ偵察に行ってもらいたい。」

「それは本当に急ですね。いつ出立すれば良いですか?」

「出来るだけ早い方がいいが、準備が出来次第で良い。」

「調査範囲は?」

「範囲はトーム地方全域だ。西端のデュセオ領地を起点とし中央にあるミッテ領地を終点に南側から外堀を埋めるように動いて欲しい。もし何かあれば密偵の拠点が各所にあるので、密偵を通して報告してくれ。」

「わかりました。調査期間はどの程度を目安にすればいいですか?」

「調査期間は一年だ。ミッテに到着後、そこの領主に会ってくれ。私の名前を出せばすぐにでも面会してくれるだろう。」

ミキはその後、任務についての細かい部分の話を終えると、メリアの館を後にしていった。

メリアはミキを見送った後、すかさず準備を始める。いつもは任務に積極的ではないミリアであったが、今回の任務はミリアにとって地獄で仏となった。

疑いをかけられている可能性がある以上、帝国にいることはメリアにとって精神をすり減らす以外のなにものでもない。

そんな胸中のメリアにとって帝国を離れることが出来る任務は最高のプレゼントであった。

『トームに行くならあいつにも会えるかもしれない。あいつが何を考えているのかもう一度会って確かめないと。』

メリアはすぐにでも出立する勢いで準備を進めていく。

本来三日程度かけて慎重に準備するところを、半日で終わらせたメリアは出立の報告を部下に任せてトームへと出発した。

「先ほどメリア大尉が出発したようです。」

「そうか。焦って出て行ったところを見ると、やはり何かを隠しているようだな。予定通りメリアに暗部をつけろ。もし不審な行動が見えた場合や明確な反逆行為の現場を押さえたら即刻メリアを始末しろ。報告は事後で良い。」

部隊室から外を眺めながらミキはそう言い放つと、帝国の暗部組織である「ドンクレス」に指示を出しメリアの監視を行うように命じていた。

ドンクレスの部隊は一言返事をすると、影に身を溶かすようにその姿を消していった。




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