名も無き英雄と神造迷宮(ダンジョン)

蒼羽 水

プロローグ

お前はまた、戻ってくる。
誰かが俺に、そう言った。

◇◇◇

血生臭く、薄暗い通路を走る。
腕は血で滲み、走った通路には流した自分の血液が残っている。

「いやだ...いやだ……」

死の恐怖で自然と涙がこぼれる。

「なんで...こうなったんだ……」

元はと言えば臨時で作った急造パーティーが原因だった。臨時が故に、チームワークも酷い。協力のき文字もなかった。だが、個人的な力量があったため未到達階層に俺らは足を踏み入れてしまった。

初めは、全然危険もなかった。トラップなんて一目見たらすぐに分かったし、そこから離れて歩いたら引っかかるはずはなかった。だが、怪物モンスターの数が他の階層と違い、桁違いに多かった。それでも余裕ではあったのだが。

それが起き始めたのは、道順に沿って歩いていた時だった。
「このぐらいの強さだったら階層主ダンジョンボスも余裕じゃないか?」そんな一言を誰かが呟いたのだ。俺や、俺以外のメンバーはその意見に賛成だった。俺らは、調子に乗っていたのだ。

そうして辿り着いたのは錆びた大扉の前だった。扉には神聖文字ヒエログリフが書かれていて他にもよく分からない絵がいくつも描かれていた。
この扉が意味するのは一つしかない。この先に階層主ダンジョンボスがいるということだった。

意気揚々とその扉を開けると、暗いホール状の空間があった。その空間に向かって歩き始めると次々と火が灯っていき空間の全貌が顕になった。

待ち受けていたのは巨大な黒龍・・・・だった。ここに黒龍がいるということはこの龍がここの階層主ダンジョンボスということなのだろう。

そして、ここからが災厄の始まりだった。

先頭に立っていた大斧使いは、ホールに足を踏み入れて十歩程歩いた時に頭がいとも容易く吹き飛んだ。それはもう、文字通りに。

「……は?」

大斧使いの頭が吹き飛んだと思ったら次の瞬間、黒龍の周りから尋常ではない程の怪物モンスターが出現した。数は100もくだらなかったろう。

そこからは、あっという間だった。

大斧使いの後ろにいたやつは、この状況に足がすくみ、モンスターに集られ、遂には食い荒らされた。
逃げた僧侶は、トラップに引っかかり大岩に潰された。
呆然と立ち尽くしていた俺をモンスターの攻撃から身を挺して守ってくれた幼馴染は、そのままモンスターの群れに突っ込んでいった。「早く、逃げろ」という言葉を俺に遺して。

そこで俺はようやく理性を取り戻した。後ろに向かって走ってすぐにその場から逃げた。捕まって、自分もモンスターの餌になるのだろうか。そんなことをひたすら考えていた。
走ってしばらくは怪物モンスター達の這いずって動く音が聞こえ続けていた。ひたすらに息を殺し、機を見計らっては逃げて、また隠れる。そんな作業のようなことを繰り返した。

怖くて泣いてしまっていた。そしてそれ以上に俺自身の不甲斐なさに泣いていた。
 
そうして走って、走って、走った俺は何とか逃げ切ることが出来た。

だが、逃げ切って生還し神造迷宮ダンジョン前のギルドの受付に辿りついた俺に待っていたのは非難の声だった。

慰めの言葉など一つもなかった。

ギルドが俺に出した処置は【1ヶ月間の冒険活動停止】その間には顔を出すな。というものだった。
俺にとって冒険は命と同等以上の価値があった。 
だが、その時の俺にとってその処置が救いにもなった。人が、怪物モンスターが、神造迷宮ダンジョンが、怖くて仕方なかった。
そのため俺は、その処置を受け入れ、ギルドから姿を消した。

◇◇◇

三年後。

あの時ギルドから姿を消したアルス・ラナトネア少年はそれ以来、神造迷宮ダンジョンに足を踏み入れることはなかった。

それにより英雄の跡継ぎとまで謳われていたアルス少年はこう言われるようになった【消えた最強】【堕ちた最強】と。

だが、それも一時のものだった。アルス少年のことは数多の人の記憶の中から着々と消え始めていた。噂など今更流れることもない。話題になることも大してない。今、少年を見つけても誰も気づくことはないだろう。それほどまでに人々からの関心が彼にはなくなったのだから。





ここからが彼の物語の始まりです。
名声を失くし、人々の記憶から消えたアルスは現在どうなっているのか。ではまた、次回でお会いいたしましょう。まだ序盤ですが楽しんでいただけると幸いです。スイでした。じゃあね〜。あ、次回からもっと文字数増えるからね!
追記:執筆は初心者に近いから暖かい目で見てください(願望














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