VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい
12.念願の刀
街へ戻った僕達は、物凄く他のプレイヤーの皆さんに注目された。
まあ、それはそうだろう。一人は大きな『キングベア』を連れていて、もう一人は希少な『ヒーラーベア』を連れている上にテイムの難しいドラゴンを連れているのだから。
しかし、誰にもちょっかいを掛けてられること無く僕達はギルドホームに辿り着いた。
ギルドホームに着いたので、モモは早速クロの巣を造った。作り方は例によってシアンの時と同じだったのですぐに出来た。
出来上がったのは、巨体のクロが入るくらいの大きさの小屋だった。というか、その大きな小屋が出来ても天井まで余裕が有るとか、このギルドホーム大きすぎだろ……。
そんなことを思っていると、チャットが入ってきた。送り主はコラソさんで、『刀が出来たから取りに来てくれ』とのことだったので、僕は『了解です。取りに行きます』と返信した。
「刀が出来たらしいから取りに行ってくる」
「私も行きます」
「刀を取りに行くだけだからすぐ戻るよ」
「わかりました、いってらっしゃい」
「うん、行ってくる」
と言っても、クロと二人っきりは何をされるか分からないので、またシアンを置いていくことにした。ただ、今回のシアンを置いていく目的は、話し相手ではなくクロの監視だ。
いかにクロがベア種の中で一番強いと言っても、最強種であるドラゴンのしかも龍王であるシアンに勝てるわけがない。
これで安心して刀を取りに行けるので、僕はシアンにモモを護るように言い聞かせた後、ブランを抱いたままコラソさんの所へ向かった。
ギルドホームを出てコラソさんの所へ向かって歩こうとした時、全く知らない人達が5人待ち伏せしていた。またか……。まあたぶん、目的はブランだろうけど。
「おい、お前、その熊よこせ!」
「そいつ『ヒーラーベア』だろ? お前にはもったいないから俺達によこせよ」
やっぱりブラン目当てだった。というか、次々に色々言ってくるけど、だったら【ベア種の森】に行って探せば良いでしょ? 人から奪うんじゃなくて。
「僕今から鍛冶屋に行くので、貴方達の相手をしてる暇無いんです。お引き取りください」
「おい待て! 逃げるのか?」
「言ったでしょ? 相手する時間が無いんです。また今度にしてください」
「逃げるんだな? まあ当然だろ。5対1だもんな!」
「腰抜け!」
「弱虫!」
「まぬけ!」
「クズ!」
「はいはい、そうやって言えば相手してくれると思ってるんですね。可哀想に、頭が小学生レベルなんですね」
「なんだと!?」
「言ったなこいつ!!」
「許さねえぞ!!」
「リンチにしてやる!!」
「覚悟しやがれ!!」
僕が挑発するとそんなことを言ってきた。お前らが挑発に乗ってどうするんだよ。挑発した僕も僕だけど。
これ以上相手をするのは面倒なので、無視して全速力で走ってその場を離脱した。
「あっ、待て!!」
「なにあれ速ッ!?」
「なんなんだあいつ!?」
「クソッ! 追い付けない……!」
「熊抱いてるのに速すぎだろ……!」
後ろで喚き声が聞こえたけど、無視してコラソさんの所へ走った。
コラソさんの鍛冶屋に差し掛かり、そのまま鍛冶屋の前まで走った。そして、鍛冶屋の前に着くとコラソさんが驚いて腰を抜かしてしまった。
「な、なんだ、リュウか……」
「すみません、コラソさん。ちょっと色々ありまして」
「まあ原因は一目で分かるよ。その抱いてるやつだろ?」
「はい。この子をよこせって言われたんですけど、相手するのが面倒だったので走って逃げてきました」
「なるほどな。それにしても、よくそいつ見つけられたな」
「自分から出てきてくれたんですよ。な?」
「クゥ!」
僕がブランに聞くと、ブランはその通りとばかりの鳴き声を出してコクコク頷いた。
「そうか、珍しいこともあるもんだな」
「ところで、刀は?」
「ああ、ちょっと待っててくれ」
そう言ってコラソさんが奥へ入っていった。そして、コラソさんが戻ってくると手には刀と思われる物を持っていた。
「待たせたな、これだ」
コラソさんに渡された刀をブランを降ろしてから受け取り、鞘から抜いてみると銀色に輝く刃が出てきた。刃渡りは60センチメートルくらいあり、柄を持って振ってみるとしっくりくる感じがした。
「凄いですね、振りやすいです」
「えっ? お前いつ振ったんだ?」
「さっき振ったでしょ?」
「いや、全く見えなかった。もう一度振ってみてくれ」
コラソさんがそう言うので、もう一度振ってコラソさんに「どうですか?」と聞くと、「今本当に振ったのか?」と聞き返されてしまった。
「振りましたよ。おかしいな、普通に振っただけなんですけど……」
「ゆっくり振ってくれ」
「こうですか?」
そう言いながら僕がゆっくり振ると、やっとコラソさんが見えたようで安堵の表情で頷いた。
「やっと見れたけど、まだ結構速いぞ?」
「えっ? そんなに速いですか?」
「普通に振った時は、今その構えた状態のままにしか見えなかったからな。ゆっくりでやっと腕がブレたように見えただけだ」
「そうなんですか、自分では分からないです」
「クゥ!」
「ん? どうした、ブラン?」
「クゥクゥ!」
「えっ、さっきのあいつらが近づいてきてる!? どうしよう、面倒だな……」
「それなら、奥に隠れてろ」
「良いんですか?」
「リュウは大切なカm……お客さんだからな。見捨てる訳にはいかない」
「いや、今絶対僕のことカモって言いそうになってましたよね? というか、僕がお金出してるんじゃなくてコラソさんが出してますよね? 逆ですよね、コラソさんが僕のカモですよね?」
「あっ、確かに……って、んなこと言ってる場合じゃねえだろ! 早く隠れろ!」
「そうですね、ありがとうございます」
コラソさんとショートコント的なことを繰り広げた後、僕は刀を腰に提げブランを抱き上げて鍛冶屋の奥へ入って隠れた。
すると、入り口の方でさっきの奴等の声が聞こえてきた。
「おい、鍛冶屋、ここに『ヒーラーベア』連れたドラゴニュートが来なかったか?」
「ああ、その人ならさっき来て刀受け取ったらさっさと出てったぜ。お前らあいつになんか用があんのか?」
「あいつの『ヒーラーベア』を貰おうと思ってな」
「はぁ!? 貰う!? 貰ってどうすんだ?」
「他のプレイヤーに高く売り付けるんだ。売り付けて儲かった金で全員分のコバルト製の防具を買うんだ!」
「……なんだそのくだらない理由は……それだったら自分達で探せば良いだろ?」
「探したさ、現実時間で10時間! でも、見つからなかった……」
「それなのにあいつは見つけていた! ならそいつから貰った方が早いだろ!」
「他に有るだろ、金稼ぐ方法くらい。そんなのも見つけられねえのか、頭大丈夫か?」
「お前も俺達を馬鹿にするのか!?」
「お前もってことは、そいつもなんか言ったのか?」
「ああ、そうだ! あいつ、俺達の頭を小学生レベルと言いやがった!」
「フッ」
「何が可笑しい!?」
「いや、そいつ優しいなと思ってな」
「どういうことだ?」
「お前らの頭は小学生じゃなくて幼稚園児レベルだってことだ」
「なんだと!? 俺達が幼稚園児な訳ないだろ!」
「だったらなんで他の方法を探さない? 大人なら、そのくらいは考えとくけどな」
「そんなことちゃんと考えて……」
「考えてるなら何故『ヒーラーベア』に拘るんだ? 考えてないから拘るんだろ?」
「くっ、クソッ! 覚えてろ!!」
そこでやっと会話が終わり、奴等が去っていったので僕は奥から出た。
「ありがとうございました」
「良いってことよ。それより、なんであいつらの頭を小学生レベルにしたんだ? もっと低いだろあれは」
「挑発の仕方が小学生並だったので」
「どんな感じだった?」
「相手せずに立ち去ろうとしたら腰抜け・弱虫・まぬけ・クズって言われました」
「それは確かに小学生レベルだな」
「でもまさか、金を稼ぐために欲しいって言ってたとは思いませんでした」
「こいつは希少だからな。大金積んででも欲しい奴は山ほど居るから絶対売るなよ?」
「売りませんよ。こんなに可愛くてなついてくれてるのに。な?」
「クゥクゥ!」
僕がブランに聞くとブランは、あったり前よ! 的な感じの鳴き声を出して頷いた。ドヤ顔してて可愛い! その上モフモフだし、最高だね!
「おーい、リュウ? 顔がニヤついてて気持ち悪いぞ?」
「あっ、すみません。ブランが可愛くて、つい……」
「まあ、分からなくはないけどな。可愛いとは思うし」
「ですよね、抱いてみます?」
「あ、ああ」
コラソさんにブランを抱かせると、意外と絵になる感じのツーショットだった。これはたぶん、コラソさんがドワーフだからだろう。
「どうですか、モフモフで可愛いでしょ?」
「そうだな、リュウの気持ちが分かるよ。これは、ニヤける」
そうコラソさんがキリッとした表情で言った。それに対して僕もキリッとした表情で「でしょ?」と返した。
それからコラソさんがブランを僕に返して、作業に戻ると言うので僕は失礼することにした。
ギルドホームに着き中に入ると、モモがクロによって隅に追いやられその間にシアンが入ってギリギリ耐えている状態が目に入ってきた。
「おい、クソ熊!」
「グルァ?」
「今すぐ離れろ!」
「グルァ……」
そんなあ……。と言いたげな鳴き声を出しながらモモから離れた。ったく、油断も隙もないエロ熊だな。
「リュウさん!」
「ごめん、少し遅くなっちゃった。大丈夫? 何もされてない?」
「大丈夫です。シアンが護ってくれましたから」
「キュキュ!」
「お疲れ、シアン。さてと、そろそろ夕飯の時間だけど、その前にクロを教育しないとな」
「グルァ!?」
「そうだ、教育だ。モモに変なことをしないように、入念にな」
それから数十分間、ある一つのギルドホームから熊の叫び声が出続けるという珍事件が数多くのプレイヤーに目撃されたが、大事にはならなかったそうな。
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