VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい

夏月太陽

11.初めての【ベア種の森】


 衝撃の事実を知った僕は頭の中が真っ白になっていた。だって、総理大臣の娘だよ!? モモの両親がよく一般人の僕との交際を認めてくれたな。

 その辺はどうなのかとモモに聞くと、「両親は2年前から応援してくれてましたよ」と言った。まさかの親公認!?

「そ、そうなんだ……。で、でもさ、本当に僕で良いの?」
「だったら告白しません!」
「そうだよね、ごめん」
「何、お前ら付き合ってんの?」
「そうだよ、今日からだけど」
「ってことは、改めて謝らないとな。俺の仲間がお前の彼女に失礼をしてすまなかった」
「良いよ、今後こんなことにならないようにしてくれれば、それで充分だから」
「わかった」
「キュキュ、キュキュキュ!」
「あ、ごめん、そうだな【ベア種の森】へ行くんだったな。ごめんヨシキ、僕達これから【ベア種の森】に行くからまた今度」

 シアンに早く行こうよ的な感じで鳴かれたので、立ち去ろうとするとヨシキに止められた。

「待て、リュウ! なんでドラゴンが一緒に居るんだ?」
「テイムしたからだけど?」
「ドラゴンのテイムって難しい筈だよな? あっ、そうか、お前って動物に好かれる体質だったもんな、納得した」
「そういうこと。じゃあ、僕達はこれで」
「おう、気をつけて行けよ」

 ヨシキに見送られながら僕達は【ベア種の森】へ向かうため、西へと歩き出した。


 ◆◇◆◇◆


 【ベア種の森】は、見たところは普通の森と変わらない森だった。

「本当に、ここに『キングベア』が居るの? 見たところは普通の森にしか見えないけど」
「はい。ここで合ってます」

 合っているらしい。でもなあ、全然危険な感じがしないんだよなあ……。そんなことを思いつつモモ達と共に森の奥へと進んだ。

 進んでいくと、一匹の子熊が木の裏から顔を出し、こちらの様子を伺っている。ただ、ゲームの仕様なのか分からないがその子熊の毛の色は、茶色ではなく白色だった。

「あ、あれは、10体しか居ない『ヒーラーベア』です!」
「10体しか居ない? なんで?」
「テイムすると名前の通り回復してくれるんです。でも、プリーストの場合は一回の回復で最大300なんですけど、『ヒーラーベア』だとレベル関係無しに一回で満タンに回復出来るんです」
「なるほど、ゲームバランスを考えて10体って事か」
「しかも、中々見つけられないように設定されているので、元が難しいんです。でも、さすがリュウさんですね、たぶんリュウさんに惹かれて出てきたんですよ!」
「そうなのかな」

 モモはそう言うけど、本当にそうなのか自分でも分からない。なので、さっきからこちらを木の裏からジーッと見ている『ヒーラーベア』に僕が“おいでおいで”をすると、不安そうな表情から一気に明るい表情になって僕に向かって走ってきた。

 これは、モモの言う通り、僕が引き寄せたのかもしれないな。

 そんなことを思っていると、走ってきた『ヒーラーベア』が僕に飛び付いてきたので、僕は受け止めた。

「うわっと……! 危ない危ない、また倒れるところだった」
「やっぱりリュウさんの事が気になってたんじゃないですか?」
「そうみたいだね」
「リュウさん、この子テイムしてあげたらどうですか?」
「クゥ!? クゥクゥ!!」
「この子もしてもらいたいみたいですよ?」
「しても良いけど、段々チート染みてきてるのがなぁ……」
「そうですね……。龍王ドラゴンキングに『ヒーラーベア』となるとチートかと思ってしまいますけど、私はリュウさんの人柄によるものだと思っているのでチートだとは思いません。それに、言いたい人には言わせておけば良いんですから、テイムしてあげてください」

 モモにそう言われて、なんで今まで気にしていたのか、ということが疑問に思えた。なので、この子をテイムすることにした。

 テイムは滞りなく済み、名前は白なのでブランにした。ホワイトにしなかった理由は、ただ呼びにくいからというだけの単純なものだ。因みに、ブランはフランス語で白という意味だ。

 ブランはどうかなと聞くと、テイムした『ヒーラーベア』は嬉しそうな鳴き声を出しながら頷いた。

「じゃあこれからよろしくな、ブラン」
「クゥ!」
「シアン、ブランと仲良くするんだぞ」
「キュ!」

 シアンが返事をしてからブランの目の前に降り立つと、2匹とも一回ずつ鳴いた後に握手(?)をした。と言っても、ブランの方が身長がシアンのりくらい大きいのとシアンの腕が短いので、握手というか手を当てているだけになっていた。

 挨拶を済ませるとシアンは僕の肩に戻った。そしてブランは抱っこしとくれ! みたいな感じで腕を広げてきた。なっ、こいつ……可愛い!! 熊に抱っこしてくれってやられるなんて、夢みたいだ……! って、こんなことしに来たんじゃないじゃん!

 そう思い、ささっとブランを抱き上げ……って、ちょっと重い……。こういうのも感じるのか、シアンは軽い方だからあまり感じなかったけど、VRって進んでるな……じゃなくて!! モモがテイムしたい『キングベア』を探しに来たんだから、こんなことしてないで探さないと。

「さて、『キングベア』を探しに行こうか」
「はい!」

 こうして、新たに仲間になったブランを加え『キングベア』を探すため、僕達はさらに森の奥へと歩みを進めた。


 ◆◇◆◇◆


 なんて格好良い事を言っておきながら、未だに『キングベア』が見つからない。というか、森が広すぎて隅々まで探すのはとてもじゃないけど無理。

「はぁ~。中々見つからないね」
「そうですね。リュウさんが居るのに、どうしてなんでしょう?」
「キュ!」
「ん? どうした、シアン?」
「キュキュ!」
「えっ? 前を見ろ?」

 シアンに言われて前を見ると、熊が一頭こちらに向かって立っていた。

「リュウさん、あれが『キングベア』です!」
「えっ!? あんな毛色が黒くて大きくて額にカタカナの『メ』みたいな傷があって目付きの鋭い奴が!?」
「そうですよ、可愛いですよね」
「いや、そんな笑顔で言われても……」
「なんですか? あれが可愛くないと思ってるんですか?」
「い、いやいや、可愛いと思うよ? うん……」
「そうですよね! 可愛いですよね! ちょっと行ってきます!」

 そう言ってモモは『キングベア』のところまで行ってしまった。

 しかし、あれを可愛いと言うのか……。あれは絶対怖い方だから、モモの感性を疑っちゃうんだけど……。

 そんなことを思いながらモモを見ていると、『キングベア』が両腕を振り上げた。ヤバイ……! そう思いモモのところへ行こうとした時、『キングベア』がモモを抱き上げ顔を擦り寄せた。

 なんだ、ビックリした、攻撃されるのかと思った。なついてくれるなら問題な……ん? いや待て、よく見ると擦り寄せている熊の表情が、変態の表情をしている!? いかん、今すぐ止めさせないと!

「シアン、僕が言いたいこと、分かるか?」
「キュキュ、キュキュキュ!」
「そうだ、あいつはモモをスケベな目で見ている。シアンの出番だ」
「キュキュ!!」

 お任せあれ! という感じの鳴き声を出したシアンは、モモに抱きついているエロ熊を止めるためにモモの下へ行ってくれた。それから僕は、ブランを抱きながらシアンの少し後にモモの下へ向かった。

「モモ、大丈夫? 何もされてない?」

 既に『キングベア』から解放されているモモにそう聞くと、モモは涙目でこう言ってきた。

「この熊、抱きつきながらさりげなく私の胸触ってきました! リュウさんにも触ってもらったことないのに……!」

 そ、それは、僕としてはコメントしずらいんだけど……。というか、なんで某ア○ロさんみたいな言い方で胸の事を言うのかな? しかも、僕が入ってるとか、恥ずかしいから止めて……!

「そ、それより、どうする? こいつをテイムするか違う奴を探すか、決めるのはモモだからこいつをテイムするって言っても文句は言わないよ」
「こ、この熊にします……」
「グルァ 」
「キモッ!」

 『キングベア』が気色悪い鳴き声を出したので、思わずそう言ってしまった。

 というか、本当にこんな奴で良いのかモモ。変態だぞ? スケベだぞ? というか胸触られたんだぞ? 僕が女で触られたとしたらそんな奴をテイムしたいとは思わないけどな……。まあ、モモがこいつにするって言ったから、僕は約束通り何も言わないけど……。

 それからモモがエロ熊をテイムして、名前を付けた。名前は、毛色が黒なので単純にクロということらしい。まあ、こんなエロ熊には妥当な名前だと思う。豪華にする必要が無いからね。

 今さらだけど、クロをテイムしたのでクエストクリアとなった。報酬は、ログアウトするときにアイテム欄に入れなくて済むように熊用の巣用木材だった。

 シアンの時もおまけに付けて欲しかったな。そうすれば、買いにいかなくて済んだのに……。などと愚痴を言っても仕方ないので、クエストクリアした僕達は街へ戻ることにした。


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