25話 無機質な現実

「後は頼みましたよ！エト様！」
ソロモンを包み込んだ炎はそのまま空の彼方に飛んでいく。


ピルーク王国
「！、この巨大なエネルギーは…？！」
サラは空を見上げ呟いた。
「「「「！！」」」」
すると彼方から巨大な炎の塊が飛んできた。
「あれは…！」
「見てればわかるよ。」
「！」
「創造神？」
「優くんのおかげでようやく次のステップに進める…。」
「どういうこと？」
「言ったろ？見てればわかるよ。」
巨大な炎の塊は古代兵器ヒュベリオンに近づいていく。
「！」
「まさか…！」
そしてヒュベリオンに当たる前に炎の塊は吸収された。
「ふふふ…ようやくだ…！ようやくだよ…。ようやく君を…助け出せる…！」
「…どういうこと？！」
「僕は今からヒュベリオンと共に世界樹に向かう。」
「世界樹？」
「まさかあなた…ハーディスを…」
「この時より僕の復讐を始める。君たちは黙ってこの世界の行く末を見ていなよ…。」
エトはヒュベリオンに向かい飛び立つ。
「待て！」
「…」
陸がエトを止めた。
「最初から…こうするのが目的だったのか？最初から…僕らを裏切っていたのか？」
「僕は君たちにヒュベリオンを使えるだけのエネルギーを使わせたに過ぎない。そうだよ…。僕は君たちを…騙してたよ。」
「…そうか…。はは…。」
陸はその場にへたり込む。
「…陸…。」
「…じゃあね。優くんとミーシェちゃんの所に行ってやりなよ。色々まずい状態だよ。」
「！」
そのままエトはヒュベリオンと共に神界に去っていった。



「ミーシェ！…ミーシェ！」
優は必死でミーシェを呼びかける。
「くそ…キュアヒール！！」
しかし傷は塞がらなかった。
「エンジェルヒール！！」
「…」
「っ…！くそ…なんでだよ…！こんなの…！くそ…エンジェルヒール！エンジェルヒール！…くそ…」
「ユウ！」
そこにサラ達がやってきた。
「エンジェルヒール！エンジェルヒール！…ああぁ…ミーシェ…エンジェルヒール！なんでだよ！？治れよ！ミーシェ！ミーシェ！！！」
「っ…藤山…」
「…藤山くん…。」
「ユウ…もういいわ…。」
「っ…サラ…俺…」
「一旦戻るわよ。ピルークにいたみんなは転移で私の城まで転移させた。そこで詳しいことを話すわ。ミーシェの事もそこで何とかする。」
「…っ…」
「気持ちは分かるけど落ち着きなさい。ミーシェはまだ死んでないわ。」
「…ああ。」


魔神領
「藤山…。気持ちは分かるが落ち着け。」
陸が優を諭す。
「っ…ああ。」
するとサラと由希がでてきた。
「！、ミーシェは？！」
「…私の精霊魔法とサラさんの魔法で一命は取りとめたわ。」
「！…そうか…」
「…ただ……っ…」
「なんだよ…？！」
「これから先…目を覚ますかは分からないわ。」
「！…そんな…」
「ほぼ心臓は止まってた。蘇生に近い治療をしたの…私たちにはこれが精一杯だわ…。ごめんなさい…ユウ…。」
「…」
優はふらふらとミーシェの寝る部屋に入っていく。
「藤や…」
「小宮くん。」
「？」
「今は二人にさせてあげましょう？」
「…そうだな…すまない。」



「…ミー…シェ？」
「…」
しかしミーシェからはなんの反応もない。
「っ…死なない…よな？…これから先…目を…覚まさないなんてこと…ないよな…？」
「…」
「あ…ああぁ…ミーシェ…！」
ミーシェに必死で呼びかける。
「何が…何が絶対に守るだよ…なんも守れてねえじゃねえかよ…！…ごめんな…ミーシェ…俺が…俺が…遅れたばかりに…ごめんな…ごめんな…」
優は涙を流しながら壊れたレコードのように謝り続ける。
「あぁ…何とか…答えてくれよ…ミーシェ…なあ…頼むから…頼むから…！」
「…」
「…くそ…くそ…！ミーシェ…言っただろ？お前のいない世界になんてなんの意味もない…。頼むから目を覚ましてくれよ。ミーシェ…！…1人にしないでくれよ…頼むからさ…なあ…起きてくれ…ミーシェ！！」
「…」
「…っ…」
優はミーシェの手を握る。
その手はまるで死体のように冷たかった。
「…こんなの…こんなの死んでるようなもんじゃねえか…！俺が…俺がお前を突き放さずに…一緒にいれば何とかなったのか？俺が…お前の近くにいれば…本当にこのまま…目を覚まさないのか？ミーシェ…！」
ミーシェの頬を撫でる優。
「はぁ…はぁ…」
息が苦しい。
この現実に体が着いていかなかった。
「嘘だ…ミーシェ…ミーシェ…」
優はその場に膝を着いた。
「嫌だ…お前まで…俺を置いていかないでくれよ…！母さん、姉さんに続いてミーシェまで失うのか？嫌だ…嫌だ…ミーシェ！お願いだから起きてくれ…なあ！…あ…あ…ああああああああああああああああぁぁぁ！！」


日は沈み、静かな夜がやってきた。
長い長い…不気味な夜が。

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