雪が降る世界

lemon

第55話 〜花色〜

「向こうのホテルってどんなドライヤーだと思う?」
「え…そこ心配してんの?馬鹿なの璃久?」
「まじで髪以外の自慢出来るとこないから。せめてこのキューティクルだけでも。」
「それ全国の男子見下してるって。たった1週間なんだし、持ってかなくてもいいでしょ。はい、タオル。」
「ありがとう。」
楽しみでもあるし不安でもある修学旅行が明日から。沖縄なんて忘れ物したら取りに帰るとか100%無理。七海は倒れたら現地の病院。それと俺は壊滅的に水泳ができない。故に相性が悪い。
「ていうか璃久日焼け止め3本くらい持って行ってよ?」
「どんだけ塗るつもりだ。」
「皮膚がんとか嫌だから。」
「それにしても多くないか?」
「沖縄暑いって。あ、熱中症のやつあった方がいいかな…。また七海君に世話になるなら…。」
「…どこまで心配性なんだよ。」
「部室でへばってたのはどこの誰かなー。」
「はーい。」
「…七海君には自分のことだけ考えてもらわないと駄目だろ?心配させたらぶん殴る。」
「目がガチなんだが。」
そーっと時夏の荷物を見てみると、入ってるものが高校生じゃなかった。おばあちゃんだ。冷えピタ…。それもしかしなくても俺用だね。なんかここまで大事にして貰えるのは新鮮かもしれない。これも受け売りか?
「璃久がダメになったらみんな悲しむから、ね?ちゃんと自分の管理してよモデルさん。」
「はい…。」
「あとはない?コンタクト洗うやつとか。」
「あぁ、大丈夫。」



──────
なんでこんな時に寝癖なんかつくわけ?意味わかんない。全然直らないし。
「璃久ー、ご飯まだ食べないの?」
「悪い、もう少ししたら行く。」
「それくらい大丈夫だよ?むしろご褒美だと思うけど。」
「お前は良くても俺は嫌なんだよ。」
「いいから早くしないと遅れるよ?七海君達来てくれるんでしょ?」
「分かった分かった。」
もう駄目だこれ…。加衣に笑われちゃう…!


「おはようこま。」
「おはよ。…スマホ向けんな…。」
「だって寝癖可愛い。スペシャルショット、ありがとう。」
「やめて。」
「じゃあ空港行くか。」
「みんなで電車とか面白そう。」
「今の時間なら空いてるはず。人混みあるあるはなさそうでよかった…。」
「ほんとだよ、璃久なんてすぐ油断するからもう…俺が緊張する。」
「なんでだよ。」
「馬鹿。」
…????
俺そんなに間抜け面してんのか…。
「大丈夫!なんかあったら俺がぶっ飛ばす!!」
「…?誰を?」
「こまに触れた奴。」
「朝から物騒な…。何痴漢の事か?」
「それ以外ないだろ。」
そんなものとうの昔に耐性付いたが。
「てか春瀬は送ってもらうのかと思ってた。」
「え、せっかくだし電車乗ってみたいなって。新幹線とかはあるけど。」
「まさかの初体験。」
「いいじゃん。今俺すっごく楽しい。」
「…よかったな。」
電車に楽しいとかあるんだ。純粋過ぎないか。小学生…。



あ、みんなもう来てる。早い。…俺達が遅いだけ?
「今何時?まだ大丈夫だよな?」
「うん。わりと余裕もって来たのに意外と来てた。」
「気合い十分で何よりだ。」
「七海は向こうで何すんの?さすがに泳ぐとか無理だし。」
「んー…。化石でも探すか?店見るっていっても俺あんまり興味ないから。」
「待って、このメンツで化石探し…?」
「まぁサンゴぐらいしか無いだろうけど。」
「もっと何かない?七海に合わせるのは大前提でも暇…。」
「えっと…。他…。じゃあ海に落ちてる貝殻でなんか作る、とか?」
めちゃくちゃ可愛い。しかも真顔で言うのかよ。
「ソウシヨウカ。」
「俺時夏と泳ぎたいから丁度いいな!!」
「ちょっと待って加衣君…!俺水着持ってきてないから…!」
「嘘?!沖縄の海で遊びたいとかねぇの?」
「…お、泳げない…。」
ここは一緒なんだ。たしかに寒そうだもんな、東北。
「えー…。お前ら引きこもりすぎ。もっとアクティブにだな…!」
「いいだろ別に。」







おー…海がコバルトブルーだ…。すごい…。
「何これ…暑い…。」
飛行機から降りると猛烈な暑さに気だるさを覚えた。まだこんなに気温高いのか…?いや湿気も多いな。
「…冷えピタ貼るよ。あと水飲んで。日焼け止め塗った?」
「塗った。」
「お前ら親子じゃないんだからよぉ…。」
「時夏いてよかったな。」
「こまって湿気も駄目なの?」
「だって苦しくないか?」
「そうだけど…。」
「今からホテルまで歩きだぞ?近いから。」
「地獄…。」
「なんで七海君より先にダウンするの。」
「知らねぇよ。でもあの部活の日ほどじゃない。…頑張る。」
「とりあえず今日は軽くこの辺見るだけだしこれだけ準備あるならもつかな。」
時夏のやつもなかなか驚くが七海のはさすが医者の血って感じがした。2人して何?
俺の保護者?なんか複雑。養護教諭いらねぇレベルじゃん。
「荷物貸して、持ってあげる。」
「いやいいよ、大丈夫。」
「顔が全体的に赤いから駄目。」
すんなり俺の鞄を取り肩にかけた。特に重いものはないしそこまで気を使うことでもない、と思う。…優しい。
「その辺見るってどれくらい?さっさと寝て欲しいんだけど。璃久も七海君も。」
何故キレ気味…。
「3時間みたいだよ。」
「…。頑張ってもらおう。」
「「了解…。」」
「ほんとは今からでも休んで欲しいけど…。そうもいかなそうだから。」
「いいじゃん時夏。心配し過ぎ!」
「…。」
あれ?でも時夏も暑いところ慣れてないんじゃ…?
「そういう時夏はどうなんだ?」
「俺は基本的に畑の手入れしたり庭の掃除したりしてたからそんなに辛くはない。」
「さすが。」
…確かに結構あったまったしな、あの作業。納得。
「それにしても暑いな…。俺も冷えピタもらっていいか?」
「もちろん。1枚で足りる?…七海君は割と細いから足りるか。」
「あ、あぁ…。細い…か?」
「加衣君に比べれば。」
「そりゃそうだろ。モデルとゴリラだよ?」
「そっか。」
「最近俺の事ゴリラって言い過ぎじゃね?!」
「うるさいゴリラ。」
「…。」
「まあまあ…。そんなに言ってるとほんとにゴリラになるよ?」
「ちょ、時夏まで?!」
「第一印象、ゴリラ。」

やっぱり若干似てるな俺と。

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