月輝く夜に、あなたと

山吹美咲

4話

待ち合わせに行くと、既に桐谷漸の姿があった。

「思ったより早かったね」
「あなたが来いって言ったんでしょ」
「まあ、それもそうなんだけど。
とりあえずちょっと話をしようか」

そう言って、近くにあったカフェに入った。
オシャレな雰囲気のお店で殺人の話なんて不似合いだと感じたが、言うこともできなかった。
桐谷漸は、店員さんを呼ぶとホットコーヒーとアイスコーヒー1つずつ頼んだ。

「さて、話に入ろうか。
まず、彼は恨みを買うようなことはしてた?」
「私の記憶の中にはそんなことしてる和人は、浮かばない」
「うーん、僕もそう思ってたけど……。
神崎ちゃんが言うなら、ほぼ確実かなー……。
それじゃ、浮気をしてた様子は?」
「浮気!?
和人は、そんな事しない!」
「うーん、浮気もなしかー。
目的なしに殺されたのかなー」
「目的なしって……!?」
「いや、ほらたまにあるじゃん?
むしゃくしゃしてたから、殺したみたいな」

可能性としては、十分にあった。
私の中での和人は、そんな恨まれるようなことをしてないし、むしろ人気だった。
人気者の和人と付き合ってる私を殺すならまだしも……。
どうゆうこと?

「あ、そうだ。
彼について、もう1回確認していい?」
「いいけど……」
「九条和人、21歳。
君と同い年だよね、彼」
「そうだけど……」

なんでそんなこと、知ってるの?

「まあ、僕について気になるのはわかるけど後でね。
そして、バイト先は三丁目の居酒屋。
現在一人暮らしをしていて、神崎ちゃんとの同棲を考えていた」
「は?」

バイト先は知っていたけど、同棲の話は聞いたことがなかった。
和人の家には何度か行ったことはあったけど、それらしい話をされた覚えもない。

「あ、同棲の話知らなかった?
彼、神崎ちゃんと同棲しようと考えていたときに殺されたんだよ」
「そんな……」
「……で、死因は背中を一刺しされたことによる出血死。
僕が彼を見つけたときには、意識はなく、ダイニングメッセージもなし。
これだけじゃ探すのは、大変だねー」
「そんなこともわかるの?」
「まあね、僕頭いいからさ」

そう桐谷漸が言ったとき、アイスコーヒーとホットコーヒーが運ばれてきた。
桐谷漸は、店員さんに
『あ、僕がホットコーヒーです』
なんて軽い口調で話し始める。
店員さんは、言われた通りに私の前にアイスコーヒーを置いた。

「神崎ちゃんは、アイスコーヒー派でしょ?」
「なんでそんなことまで……」
「ただの勘だよ、勘」

コーヒーにミルクと砂糖をいれながら言う。
私は、この男について全くわからなかった。

「ねぇ、なんであなたは私の事をそんなに知っているの?」
「言ったじゃん、君の彼氏を殺そうとしてたって。
だから、近くにいる人間も調べたから知ってるだけだよ」

桐谷漸は、何を当たり前なことを聞いているんだとでも言いた気な表情だった。
理由を聞いた後でも私は納得できなかった。

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