人殺しなのに飼われるだなんてありえない!

小豆しおん

第8話

「は?御坊ちゃま…?」
ソリッドの間が抜けた声が響く。
「ナーシュ御坊ちゃま…よくぞお元気で…」
彼女は、僕の目の前で泣き始めた。
「ソリッド、悪い。少し彼女と話をしてくるよ」
「お、おう…」
僕はソリッドと子供を残して女性と外に出た。

「全く…未だに僕を探していたのか?」
目の前の女性、サナに呆れたように言った。
「もちろんでございます。旦那様もずっと気にかけておりましたゆえ…」
「嘘はやめてよ。アイツが僕を気にするはずがないだろう」
そう言ってすぐ、自虐的に笑った。
「あぁ、アイツにとって僕はいい金ヅルだったもんな」
「御坊ちゃま…!」
「だってそうだろう?僕はアイツにヒットマンとして仕込まれた。そしてアイツは、僕に殺しの仕事をさせておいて金は全部自分で使っていた」
あぁ、サナが悲しそうな顔をしている。彼女は僕が産まれた時から家に使えているから。アイツ、つまりは僕の父親にも忠誠を誓っているもんな。
「それで、今更僕を探し出してどうする気だい?僕はあの家を出たんだけど?」
「旦那様は、もう一度御坊ちゃまに戻って来てほしい、と…」
「まぁあれだけブクブク太れば、昔のように殺しの仕事は出来ないだろうしね。僕にまた金を稼いできてほしいんだろ?」
「そんなことは…」
「そんなことがあるんだよ、サナ」
ため息を吐いて、珈琲を飲む。
「残念だけど僕は家に戻る気はない。悪いけど、アイツにもそう言っておいてくれ」
「…御坊ちゃまがそうお望みであるなら」
「ここまで探しに来てもらったのに悪いね、サナ」
「いえ、サナは、御坊ちゃまがお元気でいるのを目に出来てとても嬉しゅうございます」
サナの目に、涙がにじむ。全く、よく泣くのは昔から変わっていない。
「ところで、一緒にいた方はご友人ですか?」
「ん?あぁ、まぁ、そんなところかな…」
まさかご主人様だとは死んでも言えない。
「左様でございますか。ナーシュ御坊ちゃまがお一人でないのなら、安心です」
いつ食われてもおかしくない状況だけどね、という言葉を飲み込んで、僕は微笑んだ。

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