《異世界魔法図書館へようこそ!》

とりりんご

13…非情

奈良井ありさは、同級生に殺された。

レイの放ったその一言で、僕らのまわりの空気は、凍りついている。

「どういうこと?」

珍しく水見さんがくってかかると、レイは、
ゆっくりと、しかし力を込めて話しはじめた。



奈良井ありさは、僕らと同じように集められた、去年の姫川高校の1年生だ。

もし生きていれば、現在は2年生になっているはずだった。

「この魔法に携わる人間の育成は、今回でまだたったの2度目だ。つまり、君たち8人は2期生ということになる。1期生は、奈良井ありさを含む4人を集めた。」


「4人?」

水見さんが聞き返す

「なんで8人じゃなくて、4人なの?それとも、私たちが8人集められたことの方がイレギュラーってことなの?」

「その4人は天才だったが故に、4人で十分だったんだ。」


去年の姫川高校で集められた新1年生4名。

レイが言うには、
もっとも素質のある4人が集まっているということで、姫川高校が選ばれたらしい。

奈良井さんも、その1人だった。

「当時はまだ、新人材の育成も試験段階だった上に、その4人の飲み込みが早いこともあり、周囲を欺く魔法として[二重の魔法]の他にも、もう1つだけ教えた…」

「なんの魔法なの?」

何人かが口々に聞くと、レイが無数の本棚のある方向に向かって、パチンと指を鳴らした。

すると、同じ色をした8冊の本が、それぞれの手元へと飛んできた。


表紙に、[記憶の魔法]と書かれている。

「記憶?」

自然と口に出てしまう。

「去年、彼らに追加で教えたこの[記憶の魔法]も
比較的単純なもので、簡単な記憶削除だけを教えたつもりだった。」

「つもりだった?」
今村さんが、レイをちらっと見ながら言った。

レイがつづけた。
「私たちの、彼らに対する事前調査が足りていなかった。奈良井ありさはまともな人間だったが、残りの3人は…少しばかり違った。魔法を手に入れたことから万能感に酔いしれて、自分をコントロール出来なくなったように思える。
夏休みを終える頃にはついに、教えた魔法を使って犯罪行為を働くようになってしまった。」

「それは…例えば万引きとか?」

氷川が聞くと、レイは、それに止まらなかったと答えた。

万能感か…

たしかに、こんな力を与えられれば理解できないでもないが、3人がそろいもそろって…

「仮に、その奈良井を殺害した3人を、A、B、C
としよう。そして…」

「おい待てよ」

氷川がレイの話を遮った。

「仮に、A、B、Cってなんだよ…おい、まさか…」



「そのまさかだ。3人についての私の記憶は、ほとんど存在しないと言ってもいい。」


8人全体に、どよめきが走った。

レイが言う。

「君たち8人の使命は、魔法を学び、かつ彼らからその事を悟られず、かつ彼らを探すこと。2年生に潜む3人の魔法使いは、この世界にとって非常に危険な存在になりつつある。彼らを平日に図書館へと招く私たちのような管理人がいなくなったとはいえ、未だに土日にはきているはずだ。パラレルだから、私たちとはち会うことは無いが、まったく同じ施設が整っていると言っていい。」

「レイちゃんは、その人たちの先生をしてたんでしょ?生徒に魔法かけられたの?」

ヒロが少しバカにしたように言うと、レイが怖い顔をして言った。

「本当に、うかつだった。奈良井を襲撃したのがその3人かもしれないと分かった時、私はとても動揺してしまった。それが、やつらに隙を与えてしまった。」

そうなれば僕らの役割は、その3人を2年生の中から探し出して、何らかの行動を起こすと言う事だろう。

逮捕?

そんな生ぬるい対処でどうにかなるのだろうか。

レイは、最後にこう言った。

「今回の招集が8人なのも、これが影響している。本来ならば、全国から素質がある者の多い高校を選ぶはずだったが、それでは問題の姫川高校の3人に対処しずらい。そこで、今年は同校から多めに選出し、魔法の教育を施すことになった。」

まだ、状況が飲み込めていない。

ヒロが、僕たちの魔法を学ぶ目的を明らかにしようとして分かったことだが、目的そのものが過酷すぎる。

仮にも、殺人犯を追いかけろだって?

返り討ちにされるかもしれないのに?

みんなは、なにを考えているのだろうか。


シンとした中、水見さんがいきなり立ち上がり、本棚へと向かった。

そして、手当たり次第に腕の中へと本を積み上げていく。

「おいおいおい、何してんの?」

氷川が声を出したが、水見さんは無視して本を取り出しつづけている。

一通り本を取り出し終えると、水見さんが口を開いた。

「[記憶の魔法]、命令文のところ、白紙になってた。」

レイが言う。
「去年のこともあって、教えることはできない。だが、その手に持っているものは、持ち出し自由だ。おおいに励め。」

そうだ…

もう、これは始まってしまったことだ。

何を言っても、ここからは逃げられない。


僕たちはもう既に、何かから逃げてここにいる。

その上にまたここからも逃げ出すなんて、
かっこ悪すぎる。

僕は本棚へと向かい、本を数冊引っ張り出した。

そして、中村さんも、氷川もヒロも…

みんな、それぞれ本を手に取った。


レイが、最後にこう言った。

「…ありがとう。」

その瞬間、図書館が光に包まれ、観覧車の時計が動き始めた。

気がつくと僕は、
教室でおにぎりを前にして座っていた。














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