野生でもお嬢様は育ちますか?

石堂雅藍

お嬢様の我儘

 私とプロイさんは今、とても輝いていることでしょう。
 何故ならば6人の聴衆を前にして鉄錆スライムについて喜々として語り合っているからです。プロイさんは鉄錆スライム好きとしての長年の研究成果を、私は鉄錆スライムの愛らしさと所感からの生態の考察などを語りました。この間、とても濃密で充実した時を過ごしたと言っても過言ではないでしょう。ただやはりミウイちゃん、パメラさん、マーサさんの三人は少しつまらなそうにしていて、ペリト君は只々苦笑いをしていました。ふふん、良いのですよー。徐々に興味を持ってもらえば!私とプロイさんの熱の入ったプレゼン、もとい演説を聞いていたゴルデさんに至っては何の心境の変化か、私のいう事に一切の批判はせずに諸手を挙げ執拗に褒め称えるという変わりっぷりでした。

 なんだか少し恐かったですが、ゴルデさんにもスラちゃんの愛らしさを理解して頂けた様ですし、もう先程の事はきれいさっぱり忘れて無かった事にしてあげる方が良さそうですね。チルちゃんに至っては座りながら寝てしまっていますし…。チルちゃんにも是非お話を聞いてもらいたかったのですが、寝顔が凄く可愛いので良しとしましょう。

「あら、もうこの様な時間なのですね」

 あたりは夕闇に染まりつつあり、ひぐらしと思しき生き物の鳴き声が響いています。

「おや本当ですね。積もる話もありますが語り合いはこのあたりにするとしましょう。時期に暗くなりますから。ツユコさん今日は有意義なお話が出来て良かったです。また、スライムについて多くを語るとしましょう!」

「ええ!私達は同志ですもの!もっと大勢の方々に鉄錆スライムについて知ってもらいたいです!」

 お互いにふふふと怪しい笑みを浮かべてガッチリと握手を交わす私とプロイさん。
 そんな私達の手にゴルデさんも手を重ねてきます。その瞳はキラキラと輝いていて自分の事も忘れるなと言わんばかりでした。

「おーい。露子ーチルチルやー!何処におるのじゃー?」

 今後の野望について固い握手を交わしていると私の名前を呼ぶ声が聞こえてきました。
 この声はきっとタルフェさんです!

「タルフェさーん!此処です!此処にいます!」

 遠くに見える人影に向かって思い切り手を振ると、彼方も気が付いたのか手を振り返して私たちの方へ歩いてきます。

「おお、此処におったか!おや?おぬし達はたしか……」
「賢狼様!お久しぶりです!ゴルデです!それとこちらが私の妻のパメラです」
「お久しぶりです!プロイです!と、妻のマーサです。本日は集会に参加できず申し訳ありませんでした」

 ゴルデさんプロイさんが膝を折り挨拶をし、続いてその妻のパメラさんとマーサさんが一歩後方で同じように挨拶をする。

「あはは、よいよい!そんなに畏まらんでも!」
「いえしかし……そんなわけには……」
「そうです!賢狼様は村に無くてはならない大事なお方ですので!」
「本当に良いのじゃ。今も昔もワタシは皆の良き隣人でありたいのでの!それに露子とチルチルの面倒も見てくれていた様じゃしの。世話になった。」

 ゴルデさんが畏まりながら言えば、プロイさんが力いっぱいタルフェさんがこの村で如何に重要なのかを説きます。

「本当に良いのにのぉ……して露子とチルチルはおぬし達に迷惑を掛けておらなんだか?」
「とんでもない!ツユコはとても優しい子で娘に欲しい位ですよ!寧ろうちの娘が迷惑を掛けて無かったかが心配なくらいですぜ!」
「なにそれっ!お父さんたらっ!」
「ええ!ツユコさんは素晴らしく利発で聡明な方ですよ!ぜひうちの子にしたいです!なんならうちの息子がツユコさんに喧嘩を吹っ掛けたみたいで申し訳ないです」
「と、父さん!?それは言わない約束だろ!」
「言わない訳にいきますか!タルフェ様の所の方に喧嘩を売るなんて身の程を弁えないからだ!」
「ほほう!ペリトが露子に喧嘩をか……で、露子はどうしたのじゃ?」

 タルフェさんがニヤリと私を見て返答を待ちます。

「そ、その~……返り討ちにして差し上げました」

 私がもじもじと恥ずかしそうに答えるのを聞くとアッハッハッハ!と、タルフェさんは大笑いをしていました。それにつられて大人たちは皆一様にして笑い、私達子供組は顔を真っ赤にして俯くしかありません。1人を除いて。

「そうかそうか。ぷっ、アハハハハ!ペリトやおぬし女の子に負けてしもうたのか!」
「くぅ~~~、賢狼様!それを言わないでください!本当にツユコは強かったんですよ!今まで見たこともない技で投げ飛ばされたんですからっ!」
「そうそうタルフェ様!ツユコちゃんったら本当に凄かったんだからっ!私なんてその技見て鳥肌立ちましたもん!教えてもらう約束もしたしね!ねー?ツユコちゃん!」
「ねー!」

 私とミウイちゃんは二人して手を繋ぎピョンピョン飛び跳ねました。

「まぁなんにせよじゃ、子供同士の事は子供同士で解決するものじゃし、仲も良さそうじゃから大丈夫じゃろうて!ゴルデもプロイもそう気にすることはないぞ!」

 ゴルデさんもプロイさんもその言葉を聞き気が楽になったのか。そうですね!とにこやかに答えていました。

「おや?ところで露子や」
「はい、なんでしょう?」
「チルはどうしたのじゃ?先程から静かなのじゃが?」
「あ~、チルちゃんは……こちらです」

 私がぐっすり寝てしまっているチルちゃんを指させば、タルフェさんはまたかと言わんばかりにため息をつき、そっと優しく抱きかかえました。その姿を見てやっぱり母の存在って良いなと少しばかりの羨ましさと寂しさを覚えました。

「さてと露子や、チルもこの通りじゃしワタシ達も帰るかの」
「えっ!?お話し合いはもう良いのですか?」
「うむ、一通り今後の方針を話し合っただけじゃからの!もう終わったぞ」
「そうですか……」

 そうですか……もう終わってしまったのですね。今日は本当に楽しかったので残念…です。

「どうしたのじゃ露子?」

 俯く私を見てタルフェさんが心配そうに尋ねます。

「その…もう終わっちゃうんだなって思ってしまって、チルちゃんやペリト君、ミウイちゃんと遊べたのがすごく楽しくて……グスッ……それでもっと遊びたいなって……」

 あれ… 涙が止まりません

「いやしかしのぉ。これから日も沈んで真っ暗になってしまうでの」

 わかっているんです。我儘を言ってはいけないって。でも、何故だか止まりません。
 我儘を言う私の姿をみて、タルフェさんも困ってしまっています。いえ、もしかしたら呆れてしまっているのかも。

「ツユコちゃん!我儘言っちゃ駄目だよ!夜は寝て朝早く起きるんでしょ!」
「ミウイちゃん……」
「そうだぜ!俺たちにアイキドウってやつを教えてくれるんだろ!明日もこれからも!」
「そうだよ!今日は楽しかった!でも、明日からも楽しい事いっぱいできるんだから!ね?今日はお家に帰って沢山寝て、また明日遊ぼうよ!」

 そう…そうですよね。何も今日が最後でこれっきりって訳ではないんですよね。私はあの悪魔のような神様にこの世界に落とされて、年齢はまだ4歳の子供で……もう元の世界に戻れないのであれば、これからの人生をこの世界で生きていかなくてはならないのですよね。この世界で私が死ぬまでの人生で辛いことや楽しいことはまだまだ続く。今日はほんの始まりに過ぎない。
 私は自分にそう言い聞かせ顔を上げると、いつの間にか涙も止まっていました。

「わかりました!またね!ミウイちゃん!ペリト君!」
「うん!またねツユコちゃん!」
「おう!また明日な!」

 私がまたねというと、ミウイちゃんの両手が私の手を握ってぶんぶんと大きく振りまわし、ペリト君は顔の横に手を挙げおどけた様に別れの挨拶をし、二人とも朗らかに笑っていました。

「おいおい!なんだかミウイとペリトの奴、急に大人になりやがったなぁ!」
「ですね。やはり妹や弟がいると成長できるのですねぇ」
「ああ~、やっぱりツユコをうちの子にできねぇかな?」
「それは絶対に駄目ですよ!ゴルデの家にやるくらいならうちの娘にします!」
「あぁん?何だとプロイ!もういっぺん言ってみろや!」
「なんです?私の家に来た方がツユコさんは幸せだと言っているんですが聞こえませんでしたか?頭の中まで筋肉で出来ているんですか?」

 今まさに娘と息子の成長を目の当たりにした親同士が子供のような喧嘩を始めて、パメラさんとマーサさんはどっちが子供なんだかわかりゃしないと呆れていました。その痴態を見ていた私たちも呆れずにはいれません。

「お父さんのバカ…」
「父さん…恥ずかしいからやめてくれー!」

 これは……親の心ならぬ ”子の心、親知らず” でしょうか……

「おっ!そうじゃったそうじゃった!話し合いで決まったんじゃが露子や!今日からおぬしはワタシの娘になったからの!よろしくの!」

 その一言にその場にいた皆がキョトンとした顔でタルフェさんを見ます。

 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!

 こうしてゴブリンの住まうアイガットの村での初日は幕を下ろし長い夜は更けていきました。



















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