野生でもお嬢様は育ちますか?

石堂雅藍

お嬢様と村の悩み

「はぁ……マーサさんって本当にきれいな方ですね……」

「どうしたの?ツユコちゃん」


 私がうっとりとしながら取り留めのない事を言うと、ミウイちゃんが疑問を返します。


「いえ、マーサさんは貴族でもないのに御淑やかで、あのような雰囲気を村で育っただけの方が出せるようなものなのでしょうか?もしかしてどこかの貴族の御令嬢だったとかその様な過去があったりしませんか?」

「ああ~、確かにマーサさんは女の憧れだよね!でも過去か~。普通だと思うよ!確かお母さんと幼馴染だった筈だから聞いてみようか?お母さーん!」


 女の憧れ、まさにその通りです。ああでも、憧れと言うのであればタルフェさんの方が私にとって憧れの存在ですね。聡明で美しく、気高くて強い女性……私もああなりたいです。私が理想の女性像を妄想しているとパメラさんがやってきました。


「どうしたんだい?」


 私はパメラさんに、かくかくしかじかと先程のマーサさんに対する疑問をぶつけました。


「貴族?令嬢?アッハッハ!やだようこの子ったら!マーサにそんな過去はないよ!プハッ!ククク……アッハハハハ!そんな事を疑問に思ったのかい?ツユコちゃん!プッ…可笑しいったらありゃしないよ!」

「?」


 パメラさんは盛大に吹き出しているけれど、私にはなぜ笑っているのか皆目見当も付きませんでした。


「お母さん酷いよ!ツユコちゃんが真剣に聞いてるのに!」

「いや、ごめんねツユコちゃん。決してツユコちゃんを馬鹿にした訳じゃないのよ!そうさね。村の子供達や男どもは、皆言うんだよ。マーサの事を憧れや理想ってさ!でもね、幼馴染の私から言わせて貰えば、マーサはただ単にポヤポヤしてて世間離れしているだけなのさ!それでいてかなりの面倒くさがり屋でもある。ああ、でも昔からカンが良いというかスジが良いというか。天才肌ってやつかねぇ、そんな子だったよ」


 ポヤポヤしてて面倒くさがりで天才肌ですか……オマケに美人……う~ん、これって


「それって、嫉妬とかした事ないですか?」

「嫉妬かい?美人で努力しなくても何でも出来るマーサに?うーん、どうだろうね。子供の頃はしてたかもねぇ。でも、今も昔も親友だからね!マーサはマーサで私は私だからあんまり気にした事ないかもねぇ」

「ごめんなさい!今私、とても失礼な事を申しました!」


 私は自分の言い放った言葉にハッとしすぐに謝罪しました。ただ純粋な疑問で聞いただけですが、そういう意図が無いにしろ言葉は時に暴力になる事を思い出し後悔します。


「ハッハッハ!良いんだよ!子供はそんなこと気にしなくて!」


 気にしなくて良いと笑うパメラさんはまさに明朗快活で竹を割ったような人、私の理想とする女性像リストに登録された瞬間でした。パメラさんかっこいい!


「あっ、ツユコちゃん!さっき私が言ったことはマーサには内緒だよ!」


 そう言ってウィンクするパメラさんとゴルデさんは似たもの夫婦なのだと思いました。やはり夫婦というものは似てくるのですねと感慨に耽っていると、マーサさんがこちらにやってきました。


「なになに~?三人で何を話しているのかしら?私も入れて~」


 うわぁ不思議です。ポヤポヤしているとパメラさんに聞いてから改めてマーサさんを見ると、これは……確かにポヤポヤしています!


「マーサがボケっとしてるって話をしてたのよ!」

「ちょっ!お母さん!」

「なにそれ!?面白そうね!私も混ぜて〜」


 マーサさんを加えて女子四人、女三人寄れば姦しいとは言うけれど女四人だとやかましいでしょうか?では、チルちゃんも入れて五人なら?そんなどうでも良いことを考えながらふと、チルちゃんの姿がどこにもない事に気付きミウイちゃんに尋ねます。


「あれ?チルちゃんはどこに行ったんでしょう?」

「ん?チルチル様?そういえばどこだろう?」


 私とミウイちゃんでチルちゃんの姿を探すと、畑の隅っこにムスッとした顔で膝を抱え丸くなっていました。私はすぐさまチルちゃんの下へ駆け寄り話しかけます。


「チルちゃん、どうしたのですか?皆の所にいきましょ?楽しいですよ!」

「……チルね、難しい話解らないんだよ…なのにお姉ちゃん達はみんなで楽しくお話ししてさ!チルだけ仲間外れなんだもん!もういや!」


 目を赤くしたチルちゃんはそう言うなり、そっぽを向いてしまいました。


 あら…もしかしていじけてしまいました?でもこれはチルちゃんが悪い訳ではありませんね。ほったらかしにして、このような思いをさせてしまった私の責任ですよね。1人だけ会話に入れない事がどれだけつまらないかなんて誰にでも解るほど明白です。ここは素直に自分の非を認めて謝らなければ……


「チルちゃん……ごめんなさい。これからはチルちゃんでも楽しくおしゃべりが出来るような話をしますので皆の所に行きませんか?」

「……本当?……チルも仲間に入れてくれるなら……行く」


 私はチルちゃんの手を引きながらみんなが集まっている場所まで歩きます。


「あら~チルチル様!そうやってツユコちゃんに手を引かれている姿は、本当の姉妹の様に見えるわね!」

「あら本当!二人とも可愛らしいわ!」

「そうなの!ムフー!お姉ちゃんはチルのお姉ちゃんなの!とっても優しいの!」


 パメラさんとマーサさんナイスフォローです!二人が手を繋いで歩く私達を姉妹の様だと絶賛し、その言葉に気分を良くしたのかチルちゃんもなんだかとても嬉しそうで、チルちゃんの繋いだ手が少しだけ暖かくなりました。


 少し機嫌直りました?それなら良いのですが


 この後は機嫌を直したチルちゃんを入れて、五人で楽しくおしゃべりをしました。途中、ミウイちゃんがうっかり口を滑らせて、ペリト君の私襲撃事件の話しをしてしまい、あのポヤポヤマーサさんとゴルデさんが烈火の如く大激怒するハプニングがありました。







「うぅ~……えらい目にあったぜ。ミウイ覚えてろよ……」

「ペリト、ほんっとごめん!」


 この二人を見ていると本当に仲が良いのだなと思います。お互いの事をよく解っているというか、やっぱり幼馴染って素敵な絆で結ばれているからなのでしょうね。


「そういえば、ゴルデさん達は何故ここにいるのですか?村の方達は皆、村長の家に集まると言っていましたけど」

「え!!あぁ……えっとですねぇ。なんと説明したら良いのか……」

「ん?ククク…あぁ~、俺らは良いんだ。長に断りは入れてあるからな。ここにいる理由か……そうだな。ツユコ!此処はうちとプロイの奴の持ってる畑なんだけどよ。こいつを見てどう思う?」

「え!?ど、どうといわれましても普通の畑にしか……」


 私の急な質問にプロイさんが困惑し、その姿を見たゴルデさんが必死に笑いを堪えています。


 ゴルデさんの質問の意図は一体何なのでしょうか?何かのひっかけ問題とかですかね?どう見ても目の前にあるのは畑で……あぁでも、土が少し乾燥しているかも?うーん、よくよく見てみると少し荒れているようにも見えますね。作物がない畑とはこの様な状態が普通なのでしょうか?全く分かりません!もう見たままを言いましょう!


「そうですね……あえて言うならば作物がないってことでしょうか?」

「お?正解だ!って見ればわかるか!ガハハハッ!」


 どうやらゴルデさんの欲しかった答えの様で大笑いされてしまいました。なぜ?


「ゴルデ、笑い事じゃないですよ」

「ああ~すまんすまん。確かに笑えねえな」


 そういうと、ゴルデさんの顔つきが急に真面目になりました。今まで散々大笑いしていた人が急に真面目な顔をするとビックリしてなんだか緊張してしまいます。今から何を言われるのか、私はゴルデさんと視線を交わしゴクリと喉を鳴らせます。


「ツユコ。今日初めて村に来たお前にこんなことを言うのもなんなんだが、今アイガットは凶作ってやつに見まわれてるんだ。解るか?凶作って」

「はい。ええと、確か作物がなんだかの原因でしっかり育たなくて不作の状態という事ですよね?」


 ゴルデさんの問いかけにハキハキと答えると、ゴルデさんとプロイさんは顔を見合わせます。


「これは驚きました。その歳で凶作の意味が解っているのですね」

「だな!ますますツユコをうちの娘にしたくなってきたぜ!」

「いえ…これくらいの事でしたら」

「それだけ解っていれば十分だ!そうだ。今、村のあちこちで不作が続いている。俺らの畑も年々収穫量こそ落ちていたんだがプロイの奴のおかげで何とかもっていたんだが遂に……な。まぁだが、幸い野菜が無くても周りはこの通り豊かな森だ!食べる物には事欠かないんだが、定期でやってくる商隊に売る物がない状態なんだ。それにこのままにしておく訳にもいかねえしな……」


 そう言いながら、困った顔で頭を掻くゴルデさん。

 ゴルデさん曰く、アイガットでは商隊に野菜を売って生活必需品と交換しているそうで、あまりにも不作が続くと非常に困ったことになるらしいです。そして話を聞いていると、どうやら獣人達はあまり作物を育てることがなく、狩猟に特化した人達だという事も分かりました。


「ツユコさん、こちらへ。」


 そう言い、そっと私の手を引くプロイさんが畑を見るよう言います。


「この土を見てください。この土地の土は非常に良いんです。ほら」


 プロイさんが指さす方を見てみると、土の中で何やらもぞもぞ動いています。


「あれは……なんですか?ミミズですか?それともモグラです?」

「ふむ。ミミズというものが何かは解りませんがモグラではありませんよ」


 どうやらミミズは伝わらなかったようです。もしかしてこの世界にはいないんでしょうか?ミミズは見た目が苦手なのでいないのならいないで少し嬉しいのですが……ああでも!決して絶滅してくれと言っている訳ではないですよ!できれば目の届かない範囲でスクスク育っていって頂ければと!


「ツユコさん、あれは魔物です」

「成程まもっ……魔物ですか!?」

「はい魔物です」

「という事はあの魔物が悪さして不作に?」

「いえいえ、とんでもない!むしろコレのおかげで土地が豊かなのですよ」


 プロイさんが徐に土の中に手を入れ、むんずとソレを引っ張り出します。


「ひゃ~、なんですかこれ!」

「鉄錆スライムという魔物です」


 プロイさんの掌には直径15センチほどのなんとも不思議な動きをしている生き物が乗っていて、色は少し赤茶けた土色で表面はプルプルして中心に核のような物が薄っすらと透けて見えます。そして、うにょんうにょんと元気に動くソレはまさしくスライムなのだと分かりました。

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