野生でもお嬢様は育ちますか?

石堂雅藍

お嬢様争奪戦

 どうやらミウイちゃんとペリト君のご両親は、私が人間だから警戒していた訳では無い様でした。そもそもこのアイガットには客人が来る事自体珍しく、定期的に来訪するのは獣人の行商人以外ほぼ無いとの事で、自分達が客人の来訪を把握してなかったが為に身構えたそうです。確かに、もし知らない方が清華院家の敷地内をウロウロしていれば私も警戒すると思います。


 あれ?でも村の入り口にはあんなに沢山の人が集まっていましたし、知らなかったなんて事あるんでしょうか?村長さんがようこそと言っていた様子からも私が今日来る事は分かっていたんじゃ?え?まさか、嘘を付いているんでしょうか……やっぱり私が人間だから……


 これは私の酷い思い込みかもしれないですが、もしそうだとしたらと思うとシュンとしてしまいます。


「あ~~!お父さん達がツユコちゃんをいじめたぁ!」


 ミウイちゃんがお父さん達を咎める言葉を発します。そこで漸くミウイちゃんのお父さんとペリト君のお父さんが、シュンとしている私に気が付き慌てて訂正の言葉を述べます。


「あ、いや違うんだ!村長から人間が来ると聞いてはいたんだが、俺達の知っている人間ってのはよ……その…武装した兵士とかでな……まさか嬢ちゃんみたいなのが来るとは思ってなかったんだ!だからよ、そんな悲しそうな顔すんなって!」

「そうですよ。村長もこんな可愛らしい子が来るなら最初から言うべきなんです!私達、アイガットの住民はツユコさんを歓迎しますよ」

「私ここに居ても迷惑じゃないですか?」


 私みたいな容姿も考え方も違う者が、村に交じってしまって良いのだろうかという不安に押し潰されそうになりながらミウイちゃんとペリト君のご両親を見つめます。


「くぅぅぅぅ~!なんて健気なんだ!パメラ!俺はツユコをうちの子にするぞ!いいなっ!」

「バッ、あんた!そんなこと出来る訳ないじゃないかい!それにうちにはもうミウイがいるだろう!」

「そんな……パメラ見損なったぞ!ミウイ!ミウイも妹がほしいだろっ!どうだ?」

「ええ~!あたしもツユコちゃんみたいな妹なら欲しいけどさ~。うちの家計にもう一人養うような余裕ないよ?」

「そうだよ!あんたは馬鹿なこと言っている暇があったらもっと稼ぎを良くすることだね!まったく、ミウイの方がよっぽど家の事を考えてくれてるよ!」

「あ、あの~……」

「なら、マーサ。この可憐で儚げな華を私たちの家に迎えてはどうだろうか?ツユコさん、どうか私たちの家に……」

「あなたまで……うちにもそんな余裕はありませんよ」

「父ちゃん、母ちゃん……」

「あの~…」

「ほうれ見ろい!パメラ!プロイの奴だってツユコを欲しがってるぞ!そうだプロイ!なんなら俺らで、ツユコが嫁に行くまで面倒を見ようじゃないか!」

「ほほう、ゴルデにしてはまともな事を言うじゃないか!その案乗った!」

「あなた……絶対に駄目ですよ!」

「はぁ…これだから男共は……マーサ、やっぱり私達がしっかりしておかないとね!」

「ええ、パメラ」

「すみませんが~……」

「かぁ~!女共はツユコが可哀そうじゃないってのかっ!ひどい奴らだっ!プロイよ、村の端に俺らでこっそりと家をもう一軒建てちまうか!ガハハハッ!」

「血も涙もないんでしょうかね。おお!ゴルデ、その案に私も一つ乗りましょうかね!ハハハハ!」

「おじさん達!駄目だよ!お姉ちゃんはチルのお姉ちゃんなの!絶対にあげないもん!」

「なにぃ!?ここでチルチル様もツユコ争奪戦に参加かっ!チッ、めんどくせい!こうなったらチルチル様もうちの子になるかっ?」

「あのっ!私の話を聞いてくださいっ!」


 お父さんズとお母さんズ、そしてチルちゃんという三つ巴の私争奪戦なるものが白熱の色合いを帯びてきてしまいました。といいますか、ツユコ争奪戦ってなんですか?

 このままでは収集が着かなくなりそうだったので無理やり間に割って入ります。


「私は今タルフェさんの所でお世話になっていますので、皆さんの所へはいけません!でも皆さん、ふふふ、本当にありがとうございます。お誘いとても嬉しかったです」

「ツユコちゃん、本当にごめんね。お父さん達、可愛いもの見るとすぐ暴走しちゃうの!」

「父ちゃん達が本当にすまねぇ…」


 ミウイちゃんとペリト君が申し訳なさそうに頭を下げました。


 謝るようなことでは無いような気がします。本当に良いお父さんとお母さんで寧ろ羨ましいくらいです。ああ、私のお父様は元気にしていらっしゃるでしょうか……あのような別れ方をしてしまって親不孝な私にお怒りになっているかもしれません。そんなことを考えると少しセンチメンタルな気持ちになってしまいます。


「さっきはすまんな!ガハハハッ!少し熱くなっちまった」

「いえいえ。あっ!そういえば、まだちゃんと自己紹介していませんでしたね!私、清華院露子と申します。以後お見知りおきを」


 私は、大人を相手にするときのように清華院家の令嬢として丁寧な所作で挨拶します。


「おお!ご丁寧にすまねぇな!つか、まるでお姫様の様じゃねえか!なぁ!」

「ええ、その年で大人相手にこれだけ出来るのは大したものですよ」


 お父さんズがべた褒めしてくれるので、なんだか恥ずかしくなってきてしまい、両手で顔を隠しながら地面を見つめます。私の顔赤くなっていませんよね?耳は……先程から少し熱いのできっと真っ赤っかでしょうけど。


「ふむ、ますますうちの子にしたくなってきたぜ!ガハハハッ!っといけねぇ、今度は俺の番だな!俺の名はゴルデだ!ミウイの父ちゃんだ!気軽にお父ちゃんと呼んでくれていいぞ!むしろ呼んでくれ!よろしくなツユコ!」

「また、あんたはっ!ごめんねぇツユコちゃん。こいつがミウイの父ちゃんなら私は母ちゃんだね。パメラよ、よろしくね!」


 お二人はミウイちゃんのお父さんとお母さん、ゴルデさんとパメラさん!覚えました!お二人とも私の目線に合わせるように屈んで話をしてくれています。なんてお優しいんでしょう!ゴルデさんがお父ちゃんと呼んでくれ~と私の顔に頬ずりをしてきますが、正直お鬚がくすぐったいです。そんな姿を見かねたのかパメラさんが私をゴルデさんの太い腕の中から奪い取ります。パメラさんはとてもふくよかな女性で、その豊満な胸は凄まじい包容力を兼ねそろえていました。小声で大丈夫かいと心配してくれましたが、その胸は凶器になりえると伝えた方がよろしいでしょうか?……息が…くるしいです。私は必至にパメラさんの腕をタップしました。


「あんたっ!その髭モジャがツユコちゃんに移ったらどうしてくれるんだい!ツユコちゃんごめんね~」

「お母さんツユコちゃんが!ツユコちゃんが死んじゃう!」

「あらやだ私ったら!ごめんねツユコちゃん!オホホ……」

「ぷはっ!!……いえいえ、その、お気になさらず……」

「ツユコちゃん?その……私はこっちなんだけど、本当に大丈夫かい?」


 どうやら脳への酸素が不足して軽くブラックアウトしまい、私は明後日の方向に話しかけていたようです。といいますか、ブラックアウトって地味に命の危機ですよね。恐るべしパメラさんの胸……


 気を取り直して、なんとミウイちゃんはパメラさんが15歳の時に産んだ子らしいのです。はぁ~、世界が違うと出産も早くなるのでしょうか?前世の日本だと考えられません。いやでも、昔の日本もそんな時代があったような……子供を早く生むのには、その時代のいろいろな事情があるという事なのでしょうね。ん?という事はですよ。パメラさんは現在22歳という事ですか!?私の実年齢と5歳しか変わらない……そう考えるととても不思議です。そして、ゴルデさんは24歳の……ってまだ青年という歳じゃないですか!?この筋肉……この髭モジャ……大変に失礼な事を申し上げますと、正直24歳には見えないです。ゴルデさんは普段農夫として働いているそうですが狩りに行くこともあれば、村の防衛をする警備隊の団長さんでもあるらしいのです。団長さん……かっこいいです。私がキラキラした目で見つめると顔に似合わず、よせやい!と照れていました。


「さて、次は私の番かな?私はプロイと申します。ペリトの父です。ツユコさんよろしくお願いしますね」


 そう言いながら、プロイさんは胸に手を当て恭しく英国紳士のようにお辞儀をしました。


「ブハッ!ガハハハッ!おいプロイ!何の真似だそりゃ!ヒィ~!腹がいてぇや!」

「いえ、ツユコさんが私たちに礼を尽くしてくれたのですから、こちらもそれ相応にしなければとね。まぁしかし、私は貴族でも何でもないのであしからず」

「では、私も。マーサと申します。ペリトの母です。うふふ、よろしくねツユコちゃん」


 マーサさんもスカートの端をつまみ、膝を折って挨拶をしてくださいました。その振る舞い、細々とした所作にまで洗練された気品が行き届いています。なんて素敵なご婦人なのでしょうか!マーサさんは22歳という若さで驚くほど落ち着いていて、しかも美人!理想の女性像を体現されたような人です。この方が14歳でペリト君を生んだとは思えません。プロイさんは27歳でゴルデさんと同じ農夫だそうです。作物も育てていますが主に土壌の開発が専門らしく、これまた警備隊の副団長さんらしいです。団長であるゴルデさんの参謀をしていらっしゃってすごく聡明な方の様です。確かにこのように気品のある農夫はそうそういませんでしょうし納得です。


 一人で得心がいったとばかりにウンウン頷いていると、マーサさんがふわりと私を抱き寄せました。


「わわっ!ど、どうなさったのですか?」

「うふふ、ごめんなさいね。私もツユコちゃんを抱いてみたくて、ああ、本当に可愛い。フワフワしてて温かいわ。ペリトにもこんな小さい時があったのだけれど、最近はぎゅうっとさせてくれないのよ!」


 すみません。暖かいのは子供特有の体温もあるかもしれませんが、今私相当恥ずかしい事になっているので、それで体温が上がっているのかもしれないです。ほら見てください!ペリト君もミウイちゃんもニマニマした顔でこっちを見ていますよ!ああ、恥ずかしい!チルちゃんに至っては、羨ましそうに指を咥えていますし!お願い!誰かマーサさんを止めてください!あっ、チルちゃん口の端からまた涎が垂れちゃってます。あんなに可愛いのに、少しおバカに見えるのであとで注意しておかなくては!


「母ちゃん……ほらその辺で…」


 チルちゃんへの注意を真剣に考えているとペリト君からまさかの助け舟が!この好機(仕返しの)、絶対に逃がしません!


「マーサさん…マーサさん!」

「なあにツユコちゃん?」

「多分なのですが、ペリト君も恥ずかしがっているだけでまだまだ甘えたい年ごろではないかと思うんですよ!きっと意地を張っているだけです!だからその…離してぇぇぇ!」

「えっ!そう……だったのね。ペリトったら、もっと母さんに甘えてもいいのに!さぁ、ペリト!こっちにおいで!」


 私の言葉に知らなかったといった風に驚き、マーサさんは嫌がるペリト君を無理やり抱き寄せます。


「ツ、ツユコてめぇ!助けてやろうとした俺を売りやがったなぁ!うわぁ、母さんやめろぉぉぉ!」


 南無。こうしてペリト君とマーサさんは抱擁という形で熱い親子愛を築いたのでした。勿論、このあとチルちゃんには口を開けっ放しにしてはいけませんと注意をしました。

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