野生でもお嬢様は育ちますか?

石堂雅藍

お嬢様と山男

話し始めて暫く経った頃に漸く私達3人は村の案内中だったことを思い出します。今はもう、お日様も傾き始めてあと数時間もすれば夕方というところまで来ていました。


「やっべ、そういえば村を案内する約束だった!このまま案内してないのがバレたら長に怒られるぞ!」

「うわーほんとだ!すっかり忘れてたよ!しかもペリトに至っては、ツユコちゃんを虐めようとしてたしね!ほんとごめんねツユコちゃん!」

「うわぁ、それは言うな!マジで反省してるんだからよ!ツユコ、本当にマジでゴメン!」

「だいじょうぶですよ。私は別に気にしてませんから。それより、村長さんに叱られる前に早く終わらせてしまいましょう!」

「……あはは、なんというか、ツユコちゃんて逞しいよね!」

「……ぷくく、だな!」


私のあっけらかんとした返答に、ミウイちゃんとペリト君は顔を見合わせ二人して笑います。


「よし!それじゃあ出発!まずは、あたしの家から寄ろう!」

「おう!」


ミウイちゃんが起立して出発の号令を掛け、それに応えるようにペリト君も立ち上がりました。私も二人の後を追うべく立ち上がろうとした時に、そういえば先程からチルちゃんが静か過ぎると思い、自分の膝に目をやります。


まぁ、なんといいますか……チルちゃんが静かな時点で予想できていたことですが、案の定、私の膝の上で幸せそうに寝息を立てていました。……鼻に丸めた布切れを詰めたままで。余りにも幸せそうな顔で寝ているので、ここで起こしてしまっては可哀そうかなと思い二人を呼び止めました。


「ペリト君、ミウイちゃん待ってください!チルちゃんが……」

「ん?チルチル様がどうしたの?」

「その…寝てしまっていてどうしたら良いのか……」


私の声に振り返った二人が、あ~またかといった感じに駆け寄ってきます。

そして、ミウイちゃんが徐に腕を振りかぶって……


「あのぉ……え?ちょ、ちょっと!?」


バチーンと思いっきりチルちゃんのおでこを叩きました!

うそでしょ!?すごくいい音がしましたけど……


「いったぁぁぁぁぁぁい!」


チルちゃんが赤く腫らしたおでこを抑えながら蹲ります。すかさず私は両手を広げてチルちゃんの前に立ち塞がりました。


「な、な、な、なにしてるんですか!?いきなりこんな!」


ミウイちゃんがいきなりチルちゃんを叩くものだから、私は咄嗟に反応が出来ませんでした。ペリト君の時は反応できましたのに。


「え?あぁ~大丈夫大丈夫!いつもの事だから!」

「へ?」


いつもの事?これが?ミウイちゃんが何を言っているのか解りません。


「そうだな。チルチル様は気に入った場所を見つけるとすぐ寝ちまうんだよ!しかも、いくら声を掛けても起きやしねぇんだ!だから俺らはこういう時、一発叩いて起こせって賢狼様から言われてんだよ!」

「そ、そうなのですか?」


この行為自体はタルフェさん公認だというペリト君。それならいいのかな?


「お~い、チルチル様起きましたか~?」

「はい!起きました!」


涙目で答えるチルちゃんは赤くなったおでこを擦っていました。いえ!やはりタルフェさん公認だといってもこんなに可愛らしいおでこを叩くなんて!


「ツユコちゃんの膝の上はどうでしたか?」

「とっても気持ちよかったです!」

「うわぁ……」


ミウイちゃんの問いに、まんざらでもないといった顔で真剣に答えるチルちゃんに、私は複雑な気持ちを覚えミウイちゃんを見ます。


「ね?」


にっこりと笑うミウイちゃん。なにが、ね?何でしょうか?あまり深くは突っ込まない方が良さそうです。






ミウイちゃんとペリト君に案内されるがまま、テクテクと村の中を四人で進んでいると一軒の家の前に止まりました。


「ここがあたしの家だよ!ちょっと待ってて!お母さーん、お父さーん!」


ミウイちゃんがお家の中に入って暫く、収穫無しといった表情で戻ってきました。


「お父さんもお母さんも居なかった……」

「長の所に行ってるんじゃねーの?」

「ううん、今日は家に居るって言ってたもん!ツユコちゃんを紹介したかったのにどこ行ったのかしら?」


どうやらミウイちゃんは私を親御さんに紹介してくれようとしていたらしいです。ですが、どちらもお家には居らず当てが外れた感じになっていました。


「そうか~、なら俺んちに行ってみるか!」


そう言って、ペリト君がミウイちゃんのお家の隣の家に入っていきました。あっ、お隣さん同士だったんですね。これはまごう事なき真の幼馴染ってやつですね!もしかして、二人は親同士が認めた許嫁同士だったりするんでしょうか?キャー、凄くロマンチックですね!私の家は敷地が広すぎてお隣さんが1キロ以上先だったので、もし同い年の男の子が居たとしても気軽に遊べる間柄にはなれなさそうです。こういうのも憧れちゃいます!学校帰りとか、じゃあねバイバイと二人同時に家に入って、後でお前ん家いくわ!とか勉強する約束とかしちゃったりして!わーキャーキャー!私がそんなことを妄想して一人で盛り上がっているとペリト君が戻ってきました。


「誰も居なかったわ!マジでどこ行ったんだ親父たち」

「そうねー、あ、もしかして畑に居るんじゃない?」

「あ、確かに居そうだな!行ってみるか!」


そうして、私達4人は再び歩き出しました。アイガット村はそんなに広くはなく入り口が二か所設けてあり、村を囲むように柵が設置してありました。家の数は二十軒程しかなく外装も木だけで作られたような物ばかりでとても裕福とは言えません。村の中心を流れるように用水路が引かれていて洗濯はそこでしているそうです。畑も有るには有るのですが、作物が生っている場所は殆どありませんでした。もう、収穫した後なのでしょうか?すれ違うゴブリンさん達に挨拶しながらミウイちゃんとペリト君の親御さんが持っているという畑まで足を進めます。私のこの村に対する第一印象は寂しい村でした。いえ、確かに村自体は寂しい雰囲気なのですが、村に住む人達は私の目に凄く明るく幸せそうに映りました。


暫くして村の端まで歩くと大きな畑が目の前に現れ、そこには4人の大人が何やら深刻そうな顔で話し合っている姿がありました。


「お父さーんお母さーん!」


ミウイちゃんが大きな声で叫び、走り出しました。その声を聞いた大人達が振り返ります。女性が二人

に男性が三人。女性は恰幅の良いTHE肝っ玉母さんといった感じの人と金髪のスレンダーな女性で男性の方は筋肉モリモリの金髪でお鬚モッサモサの見た目山男といった方と栗毛の優男にそれに短髪栗毛のこれまた細マッチョな人。ああこれは優男と金髪美女がミウイちゃんの父さんお母さんで、短髪栗毛と肝玉母ちゃんがペリト君のお父さんお母さんだなと私は一瞬で見抜きました!


ふふふ、私実は見る目には自信があるんです!んふー!


私は自分の審美眼に一切の疑いも持たず、ミウイちゃんの向かう先を見つめます。そうしてミウイちゃんは私の予想とは裏腹に山男の胸に飛び込んでいきました。


「!?」

「お姉ちゃん?どうしたの?」

「そんな……馬鹿な……です」

「???」


まさかあんな筋肉モリモリマッチョの山男から、ゆるふわ金髪美少女のミウイちゃんが生まれたなんて……。はっ!私は今、とても失礼なことを思ってしまいました。お父さんが山男でもお母さんが金髪美女なら!そうですよ!ミウイちゃんは、お母さん似に違いありま……


「あらミウイ!どうしたんだい?」

「えへへ!ミウイお母さん達を探してたんだー!」


ええええええ!!!


肝っ玉母さんがミウイちゃんを山男から引き剥がしました!山男と肝っ玉母さんからミウイちゃんが生まれる……遺伝子の不思議……と大変失礼なことを思考し、ならばペリト君のご両親はと見やると、金髪美女と優男の下へペリト君が走っていきました。その瞬間、私の審美眼が完全敗北する鐘の音が聞こえてきました。短髪栗毛のおじさん!あなたはいったい何者なの!?


「お父さんお母さん、紹介したい子がいるから連れてきたんだよ!あの子はね、タルフェ様の所にいるツユコちゃんっていうの!人間の子よ!」


ミウイちゃんが放ったその一言で大人たちの目つきが変わります。ああ、これは先程すれ違った村人たちと同じ目です。なんだか警戒しているような……そんな目。


「ミウイ、どけ!」


山男さんがミウイちゃんを押しのけ私の下へやってきます。これは、もしかしたらと思い私はぎゅっと目を瞑り歯を食いしばります。


「お父さん!待って!」


ミウイちゃんの必死な声が聞こえてきました。私は殴られると思いさらにきつく歯を食いしばります。すると、体がふわりと中に浮き上がりました。


「ワハハ!見ろミウイ!なんだこの可愛らしい生き物は!」


その豪快な笑い声を聞き、私が目を開けると目の前には大きな山男の顔があり、私の顔を覗き込んでいました。


「おう?この眼帯はチルチル様とおそろいか?ワハハ!かっこいいじゃねえか!」

「おじさん!チルもだっこー!」

「おう?チルチル様もか!?参ったな!両手に花じゃねぇか!ワハハハハ!」


ミウイちゃんのおじさんがまたも豪快に笑うと、肝っ玉母さんがこれまた豪快におじさんの後頭部を叩きます。しかし、バシンと鈍い音がしても山男はビクともしませんでした。


「うちの主人がごめんね。ツユコちゃんだったかい?ほらあんた!ツユコちゃんが怖がってるだろっ!あんたの顔は怖いんだから早く下ろしてやんな!」

「お、おう、すまねえ!」


おじさんが謝りながら私を地面へと下ろし、ゴツゴツした手でグシャグシャと頭を撫でます。そして、小声で母ちゃんの方が怖えよなとウィンクをしてくるおじさんに、私は何と答えたら良いか解らず苦笑いを浮かべるのが精一杯でした。



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