野生でもお嬢様は育ちますか?

石堂雅藍

露子、ゴブリンの村デビュー

あの後、泣きながら着替えをしていたチルちゃんを手伝うと、文字通り泣いて喜ばれました。
そして今はタルフェさんに手を引かれ、大自然の中を村へと向かって歩いています。

因みにチルちゃんは、泣きつかれたのかタルフェさんの背中で寝てしまっています。先程、お昼寝したはずでは……まだヒックヒック聞こえてきます。

深呼吸をすると鼻から入ってくる若草の香り、時折森の中から鳥や虫達の声がし、近くに流れているのか川のせせらぎが聞こえてきます。このような広大な自然は前世の日本でも滅多に見たことがないと心弾ませながらキョロキョロしていると、タルフェさんが神妙な面持ちで話しかけてきました。

「そうであった。露子に伝えておく事があるのじゃがよいか?」
「あ、はい!なんでしょう?」
「ワタシとチルチルは魔物という話をしたと思うのじゃが、改めて聞いてよいかの?露子はワタシ達をどう思う?露子は人間でワタシ達は魔物。他種族というのは恐ろしくはないのか?」
「恐ろしいですか?いえ、全然!それどころか嬉しいです!これからどんな種族の方たちと出会えるのか。きっとこの先、他種族の方と出会って悲しい思いをする事があるかも知れません。ですが、それよりも多くの喜びがあると思うんです。ですので、私はタルフェさんとチルちゃんに出会えたことがすごく嬉しいですし、お二人のことが大好きです!」
「大好き……か、そうかそうか!はははは!ワタシの杞憂だったかの!」
「はい!杞憂です!でもどうして急にそんな事を聞くのです?」
「ああ、単純に興味があったっていうのと、これから行く村の住人について話そうと思っての」
「村の方達のことですか?」
「うむ、今から行く村は、ゴブリンの村なのじゃ」
「ゴブリンとは、あの緑色の肌の魔物ですか?」
「大体あっているが、一つ間違いがある。ゴブリンは魔物ではなく、亜人じゃ」
「え?そうなんですか?私が昔読んだ本では魔物と分類されていたのですが……」
「む、すごいのぉ!本とはかなり珍しい物なのに露子は読む事も出来るのか!?通りで話し方が大人びている訳だ!その年頃にしては礼儀もしっかりしておるし、今何歳になったのじゃ?」
「い、今ですか!?え、え~と、確か四歳?です……」

本当は十七歳なんですけどーーー!!!

「四歳!?それはやはり凄いのぉ!天才ってやつじゃな!」

て……天才ではないと思います。本だって日本語で書かれた物でしたし、そもそも日本は初等教育から進んでいてある程度の年齢になれば本を読むことは出来ます。むしろ読めない人の方が珍しい部類に入ると思います。といいますか、こちらでは本というのは珍しい物なんですね。確かに前世でも最初の紙本が出来たのは15世紀頃だったと思いますし、そもそもこの世界で紙の本というのは存在しているのでしょうか?紙以前だと羊皮紙という動物の皮を使用した物だったはずです。それにこの世界の文字は日本語ではないですよね?日本語もしくは英語でなければ絶対に読めなさそうです。あれ?でも、言葉が通じているところを見ると実は日本語だったりします?うーん分かりません。

「いえいえ、天才だなんて……あっ!ところで、先程のゴブリンは亜人というお話なんですが」
「おお!そうであった。ゴブリンは魔物と言い始めたのは人間でな。魔物も他の亜人たちも皆ゴブリン達が亜人だと言うことを知っておる。露子みたいな子供でも魔物と思い込んでいるとは、これも迫害の歴史なのかのぉ……」

話のすり替えには成功しましたけど、少し重い話になってしまいました。私が読んだ本の中でも魔物と書かれていた事については、前世ではゴブリンはフィクションな存在であったし、描かれている姿は魔物と言われれば頷ける見た目をしていました。醜悪な姿をした子鬼。これが私の知るゴブリンなのですが、この世界では違うのでしょうか?タルフェさんの話からして違うのでしょうね。俄然、ゴブリンさんたちに会いたくなってきました。

「まぁ、これからゴブリン達に会うわけなのじゃが、ありのままの彼等を見てやってほしいんじゃ!」
「はい!」

それから私はタルフェさんから色々なことを教えてもらいました。道中の草花の名前と、どれが可食で不可食なのかという所から始まり、この世界と大陸の事。

この世界には4つの大陸が存在していて、東の【ナーベリスト大陸】、西の【ゴルクス大陸】、南の【アローネ大陸】、北の【バルデッド大陸】があり、この4大陸が十字を模した様に存在しているそうです。大陸と大陸の間には広大な海が広がっていて大陸同士を分断するかの様に【クログレス大瀑布】という海の裂目があり、大陸間の移動は困難で大型の船であっても二回に一回は難破してしまうそうです。
今、私が居るこの場所はバルデッド大陸の東に位置するウベスク森という所で、バルデッド大陸には南西の方角に人間の国【レムリス王国】があり、レムリス王国領とウベスク森の間には広大な【ニルベスク平原】が広がっていて、私が倒れていた場所こそがニルベスク平原という場所のようです。
レムリス王国の現王はユーリン・コルド・レムリス13世という人物で、現国王が即位してから亜人への迫害が苛烈を極めるようになり、亜人狩りが盛んに行われるようになったそうです。
レムリス王国は他の3大陸と貿易をしていて、主な貿易品として乾物と亜人奴隷の輸出をしていて、どうやってクログレス大瀑布を安全に渡っているのかは不明らしいです。考えたくはないのですけれど、奴隷となった人の命が二分の一の確率で失われることなど歯牙にもかけていないのでしょうか。

沢山お話しをしながら歩いていると目の前にやっと村が見えてきました。タルフェさんは、もっと知りたければ、また次回にでも教えてくれると約束してくれました。




「おぉー賢狼様!ようこそおいで下さいました!」

そう言いながら、緑色の肌をした身長140センチ程の初老の男性が両手を広げ歓迎しますと言った風に話しかけてきました。続くように、集まった沢山の緑色の人々が歓迎の言葉を口にします。

この方達がゴブリンさんでしょうか。全体的に人々の身長は低く肌は緑色、確かに私が知っているゴブリンの風体をしています。けれど、身長と肌以外は普通ですね。顔つきもい醜い訳ではなく不潔な要素もないです。寧ろ、身長が低い分普通の人間より可愛らしさが爆発しています。緑色のホビットと言われた方が分かり易いくらいです。この方々が迫害にあっているなんて……人間はなんと愚かなんでしょう。

「村長、連れてきたぞ。この子が露子じゃ。露子や挨拶せい」
「あ、はい!たった今ご紹介に与りました、清華院露子と申します。タルフェさんの家で暮らすことになりましたので、皆様どうぞよろしくお願いします!」

私は、丁寧に頭を下げました。

「ほほう、お聞きしていた通り随分と礼儀正しい子ですな。儂は、このアイガット村の村長をしておるグワイと申します。御嬢さんのことは、なんとお呼びすれば良いですかな?」
「私のことは露子とお呼びください!」

村長のグワイさんがジーっと私の目を見つめてきます。私、もう何かしでかしたのでしょうか?急に不安になって、タルフェさんを見ると小声で心配ないと微笑んでくれました。

「ふむ。ではツユコ殿、村を案内しよう。ペリト!ミウイ!露子殿を案内してあげなさい!」
「は~い!」
「え~!ちぇっ、なんで俺まで……」

私がオロオロしていたからか、村長さんはニッコリ笑うと二人の少年少女を指名しました。
元気よく返事をした少女がミウイちゃんというらしい。お日様色の金髪ゆるふわがとっても似合う可愛らしい女の子です。瞳は燃え盛る火の様に真っ赤でキラキラ輝いています。今の私よりも背が高いのでお姉さんでしょうか。男の子の方はペリト君。少し面倒くさそうにしていて、短く切りそろえた栗色の頭を掻いています。こちらも瞳は赤く、周りの人を見てみると瞳の色が赤い色をしています。ゴブリンさん達は皆、瞳が赤いんですね。もちろんの事ですが、肌は緑色です。

この世界に来て初めての歳の近いゴブリンさん、お友達になれるでしょうか。不安と緊張で固まっていると、急にミウイちゃんが手を握ってきました。

「わっ!え、ええと……」
「あたしミウイっていうの!で、こっちの不貞腐れてるのがペリト!ツユコちゃんだっけ?よろしくね!でさ、ツユコちゃんて人間なんでしょ!私、聞きたい事いっぱいあるの!えと、まずはね~、お料理とか好きかな?あとねー……」
「お、おい!ミウイ!」
「お、お料理ですか!?」
「あ、ごめんね!いきなり驚くよね!」

出会って五秒もしないうちにミウイちゃんのマシンガントークがさく裂しました。

「これから村を案内するから、歩きながら話そうよ!」
「はい、宜しくお願いします」

ミウイちゃんはおっとりとした美少女という見た目だけど、話始めるとおっとり感があまりなく天真爛漫という感じで、ミウイちゃんとは良いお友達になれそうです!

「露子や、さっそく友が出来たのか。良いことじゃ。あと、ワタシは村長と話があるのでチルも連れて行ってはくれぬか?ミウイにペリトや露子とチルをよろしくな」

タルフェさんが、背中からまだ寝ているチルちゃんを降ろすと首筋から銀色に輝く糸が引いていました。私はタルフェさんに、びしょびしょになった肩口を見るようジェスチャーを送ります。

「うおっ!?はぁ……チルのやつ、また涎を垂れよって……まぁよい、チルよ起きんか!村に着いたぞ!お~い、チルや~い!」
「んん……ママ……もうごはん……」
「こやつは何を言っておるんじゃ…。村じゃ、む・ら!着いたぞ!」
「むら?村!お姉ちゃんは!?」
「チルちゃん。こっちにいますよ!」

私がそう呼びかけるとチルちゃんがすごい勢いで振り向きました。

「お姉ちゃん!!!あっ!ペリト君にミウイちゃんもいる!」
「やっほ~」
「お、おう」

そういえばこの三人は知り合いでしたね。

「では、ワタシ達大人は村長のところで話し合いをして来るから、子供達は子供同士で遊んでおれ。あまり遠くに行くではないぞ!」

そう言い残し、大人たちは皆話し合いとやらに行ってしまい、残された私たちは村の案内がてら遊ぶことになったのでした。



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