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ノベルバユーザー207199

【ゆずぽん:異世界で出会った美少女を仲間にしました】

 ちょっと僕の話を聞いてほしい……

 昨日の夜、密かに想いを寄せていた女性に彼氏がいることを知った……失恋した僕は会社を辞めることを決意して、1年振りくらいにMMORPG【フェアリア・オンライン】をプレイした。そのあと自宅のベッドで眠った……
 そして目が覚めたら【フェアリア・オンライン】そっくりの世界だったんだ!

 状況を整理しようと思って、自分で自分に説明してみたけど……うーん、さっぱり分からない。



「とりあえず周囲を探索するしかないか……」
 もしここが【フェアリア・オンライン】と同じような世界なら、街エリア以外のフィールドにはNPCモンスターがいるはずだ……ジャージしか装備してない僕が、モンスターと戦うのは危険すぎる。
 街道に立って左右を見てみると、右には森、左には街がある。
「ここは左だな。街へ向かおう」
 こんな場所にいても仕方がない……僕は街に向かって歩き始めた。



「やっと着いた。思ってたより遠かったな」
 街の中に入ると、路面に商品を並べて売ってる商人達がいた。
「すいません。この街の名前って何でしたっけ?」
 ひとりの商人に声をかける。
「アマルテアだ。変な奴だな……」
「そうですか。ありがとうございました」

 …やっぱり【フェアリア・オンライン】の世界にいると考えて間違いなさそうだな。
 アマルテアは何度も訪れた街だ。フェアリアにある大きな街のひとつ……序盤のメインシナリオを進める時はここから旅立つことが多かった気がする。
 ここは大都市なのに、街の中に自然の多いことが特徴だ。路面は芝で覆われてるし、綺麗な小川も流れている。小川沿いには水車もあって、のどかな雰囲気の街だ。街の人は、RPGによくある西洋風の服を着ている。

「すごいクオリティだな……ほんとにゲームの中にいるみたいだ」
 街を歩くと【フェアリア・オンライン】で見慣れた街並みなのに、とてもリアルに感じる。美味しそうな匂いが漂ってくるし、そよ風が気持ちいい……これはゲームじゃない、現実なんだ! そう思うと胸が高鳴る。

 ワクワクしながら周囲を見て歩いていると、何やら声が聞こえてきた。
「お兄さーんっ! 前見て歩かないと危ないよー!」
 女の子の声だ。やっぱりアマルテアは活気があっていいな……
「ねぇ聞いてる? もしもしー!」
「うわぁ!」
 周りを見るのに夢中になっていた僕の前に少女が立っていた。
「うわぁ……じゃなくて、ごめんなさいは?」
 なんか……怒ってる?むすっとした顔で僕を見上げてくる。
「ご、ごめん。周りを見るのが楽しくて気づかなかった……」
「ふふんっ! 許してあげようー!」
 えっへんと言いながら少女は笑顔になった。とりあえず機嫌を直してくれてよかった。
「お兄さん、レベル1なんだ。私と一緒だねっ!」
 僕はレベル1らしい……ん? どうやってそんなこと分かったんだ? ゲームみたいにステータス表示されてる様子はないけど……
「どうして分かったの?」
「ん? アナリシスの魔法だよ? 私の潜在能力!」
 アナリシス…? そんな魔法は【フェアリア・オンライン】になかったような……それに潜在能力って?
「もしかしてお兄さん、冒険者の登録って済ませてない?」
「多分……」
「じゃあ、ついてってあげる! こっちに来て!」
 冒険者登録? そんなイベントあったかな?
 とにかく少しでも情報がほしい……そう思って僕は少女の後を追った。



「ここは……」
 案内してくれた少女と僕は木造2階建ての大きな建物の前に立っていた。この建物は、確かジョブチェンジする時に訪れる職業同盟だった気がする。
【フェアリア・オンライン】ではジョブチェンジシステムが採用されていて、プレイヤーは好きなタイミングで好きなジョブに変更できる。その時に訪れるのが職業同盟だ。ちなみに各ジョブごとにレベル上げが必要だから、新しいジョブを始める時はレベル1からになる。一度でもレベルを上げてしまえば、その後は何回ジョブチェンジしてもレベル1には戻らず、自分が上げたレベルから再スタートになる……って感じだ。ジョブの種類も豊富で、戦闘系ジョブ以外に生産系ジョブがある。

「ここって、職業同盟じゃない?」
「あれっ? 知ってたの?」
 僕の質問に少女が首をかしげる。なんだか動きが動物っぽくて可愛いな。
「よし! 突入だーっ!」
 そう言いながら、少女は僕の背中を押した。
「ここで待ってるねっ」
 にこにこ笑いながら僕に向かって手を振っている。とりあえず中に入るとするか……


 中に入ると10人くらいの人達が座っていた。それを見て、空いている席に僕も座る。
「では、冒険者登録を始めます」
 これまた見慣れた女性NPCが僕の前に立って説明を始めた。名前は…覚えてないけど。
 というかこの場合、NPCという呼び方は正しくない。NPCと言えば、何度話しかけても同じことしか言わないキャラクターのことだ。でもこの世界はゲームとは違う。僕と同じ人間なんだ。今後はNPCと呼ばず、職業同盟のお姉さんと呼ぼう……

「始めに、冒険者になる方達にお話しすることがあります。それは……」
 内容は聞いたことのある話だった。この星、フェアリアに危機が迫っている……魔王ネルガルが世界を破滅させようとしていて、それを冒険者達の手で倒してほしい……RPGにありがちなシナリオだ。それにシナリオは【フェアリア・オンライン】と同じらしい。ネルガルは最初に実装された最難関レイドボスで、多くのプレイヤーがクリアするのに苦労したメインシナリオのラスボスだ。

 そんなことを思い出していると話が終わった。今から一人ずつ登録の手続きをするらしい。
「そこの変わった格好の方……こちらへ」
 お姉さんが呼んでいるのはジャージ姿の僕だ。そのまま案内されて別の部屋に入る。
「それでは……お名前をどうぞ」
 お姉さんにそう聞かれて反射的に「冴島さえじま つとむ」と言いかけて、やめた……ここはフェアリアだ! この世界での僕の名前は決まってる!
「ゆずぽんです」
「ゆずぽん様ですね。それではジョブを選択してください」
 お姉さんが羊皮紙を広げて僕に見せる。

【フェアリア・オンライン】での僕のメインジョブは星天騎士せいてんきしパラディンだ。ただ…パラディンは上位職だから最初は選べない。
【フェアリア・オンライン】では基本職と上位職の2種類のジョブがある。上位職になるには、特定の2つ以上の基本職をレベル最大まで上げないとなれない。しかもパラディンになる条件は、全ての戦闘系ジョブをレベル最大にすることだ。
 この際だ…無難なところから始めよう。
「じゃあ……剣士でお願いします」
「かしこまりました。では最後に、冒険に役立つ永続魔法を差し上げますので、目を閉じてください」
 言われた通り目を閉じる。するとお姉さんが僕の手を取り、小声で呪文を唱え始めた。

「はい……もう大丈夫ですよ」
 目を開けると視界が変化していた。視界の片隅にメニューバーがある……
「これって…?」
 思わず声が出る。【フェアリア・オンライン】のメニューバーだ。
「差し上げた魔法の名はポテンシャルです……効果は潜在能力の解放。冒険者登録の際に、全員に差し上げている魔法です。永続魔法ですので如何いかなる時も効果が切れることはありません」
 潜在能力の解放……この世界で僕の潜在能力はメニューバーが使えることなのか?
 とにかくメニュー画面を開いてみよう……そう思った瞬間、すでにメニュー画面が視界に広がっていた。
 アイテムリスト、装備品、所持金、称号リスト……それぞれ中を見ると、僕のプレイしたデータと同じものが入っていた。
「こんなレベル1の冒険者って……チートだろ」
 持っている装備の中には、ネルガルを倒した時にもらえる装備品もあった……無茶苦茶すぎる。
「どうかされましたか?」
「な…なんでもないです」
 ボケっと突っ立てる僕を心配そうにお姉さんが見ている。とりあえず外へ出て、中に入っているアイテムや装備が使えるか確かめてみよう。



「ありがとうございました!」
 お礼を言って外に出ると、さっきの少女が猫のような小動物と戯れている。尻尾が3本ある子猫……キトゥンだ。愛くるしい見た目で人に懐きやすいモンスター……危険はないから街エリアの中でもよく見かける。
「キトゥンだね、その子」
「ふんふん、キトゥンっていうんだ……物知りだね!」
 少女はキトゥンを抱っこしながら笑っている。
「この子可愛いーっ! 飼っちゃだめかな?」
「誰の許可も必要ないと思うよ。懐いたら勝手について来るし」
 僕の言葉を聞いた途端、少女が満面の笑顔でこう叫んだ。
「スルメ! 今日から君の名前はスルメだっ!」
 ニャーンとキトゥンが満足そうに答える。おいおい……ネーミングセンスなさすぎだろ。

「で……物知りなお兄さん! お名前は?」
「僕? 僕はゆずぽん。君は?」
「私はアイル! 15歳だよ! 好きな食べ物はスルメ!」
 キトゥンに好きな食べ物の名前をつけたのか。僕もゆずポン酢が好きで、ゆずぽんって名前にしたから人のこと言えないけど……

 いつの間にか僕は、笑いながらキトゥンと遊んでいるアイルに見とれていた……
 薄いグレーのロングヘアーに、髪色より少し濃い目のグレーの瞳。透き通る白い肌にうっすら赤みの差した頬。身長は僕より少し低めだと思う。幼い顔立ちだけど、少しふくらみのある胸が大人っぽさを感じさせる。体つきがわかるようなタイトで白い薄手の服を着ていて、無邪気な笑顔が可愛らしい15歳の少女だった……
 それに、今まで気づかなかったけど、アイルの着てる服は回復ジョブ「治療士」の衣装だった気がする……

「なあ……アイル。僕と一緒に旅をしないか?」
 僕が選んだ剣士は、前衛で味方を守りながら敵と戦うタンクだ。ヒーラーのアイルが仲間にいると頼もしい。何より可愛いし……
「いいよっ! 私もゆずぽんに仲間になってって言うつもりだったの。お揃いだね!」
 僕を見上げながら笑顔でそう言ったアイルは、本当に可愛かった。
「これからよろしくな、アイル。それにスルメも」
「うんっ! よろしくね、ゆずぽん!」
フニャーン、スルメが鳴き声を上げた。

 レベル1からだけど、この世界でも最速クリア目指して頑張ろう……アイルと一緒に!
 そう思いながら僕はアイルと共に、アマルテアの街に繰り出した。

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