ちいさな世界で、僕は

ういまる。

プロローグ『時紋 灯』

  「…なんというか。こうやって文章にしようとすると、僕は自分が何をしたいのかわからなくなってしまう。
 いや、もちろん、目的はある。
 僕は書きたい。教えたい。

 大学生活、4年間。
 たった4年間。けれど、特に大した目標も夢もない僕にはあまりに長すぎる時間。
 何も無かったのなら、ただ揺蕩うようにのんびりと過ごし、何にもなれないまま卒業していくまでの予備期間となるはずだった時間。
 その間に僕が経験した話を、僕が出会った彼女たちの話を、僕は教えたいと思ったんだ。

 だけど、それは文章にしたら、途端に色褪せる。
 鼻をつく鉄の匂いも、梅雨の墓地で見た、あの小さな蒼い花をつたった雫のつめたさも。
 歩道橋の上で眺めた雑多な街の景色も。
 それらはすべて、体験しないとわからない物だ。

 それらをどうやって伝えればいい。
 ……まあ、わからないからこんなよく分からないことを書いている。
 だけど、どうか。どうか……。



 ……あ、ああ。そうだ。そういえばまだ名乗っていなかったな。
 僕は灯(トモシビ)。時紋灯だ。…ええと、苗字はじもん、と読む。…変わった名前?そうかな?普通だと思うけれど。

 …。悪い。僕は口下手だから、きっと貴方は混乱しているのだろうけど。
でもせめて、これを読む貴方に、少しでも僕の気持ちが伝わることを祈っている。

 じゃあ、また────────

コメント

  • ういまる。

    ありがとうございます!
    そう言ってもらえるとありがたいです!

    0
  • デコポッジスペシャル

    めっちゃ面白かったです。

    1
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