元旅人の王宮騎士
13
そろそろ触れた方が良いんだろうな。でも怖いから触れたくないんだけど・・・。
「王子、さっきから黙ってますけど、何考えてます?」
「ん?ああ、いや、大したことは考えてないよ」
「その考え、言葉にして下さい」
「ニースをどうやって処ぶ、いや副団長という立場から下ろすか。な、大した事なかったろ?」
すみません、聞き逃しませんでした。あんた副団長をどう処分するかって怖すぎるだろ!ていうか処分って表現が・・・いやこれ言葉のままか。
これは放っておくと色々な意味でまずい事態になる事が確定してしまったので、今日中に国王にも話しておく事を決めた。
「とりあえず、考えるだけにして下さい。動かないで下さい。俺が先に動くので、何も変わらなかった時はお願いします。いいですか?」
「いや、僕の妹の事なんだ。ユーゼンに任せる訳には」
「いいですね?」
「・・・分かった」
これで何とか時間は稼げるだろう。早急に何とかせねば。
などと思考に夢中になってしまったせいで、王族を脅すようにして黙らせたという事実に、この時は気が付かなかった。
なお黙らされた本人及びその妹は、そんな扱いを受けるのが新鮮で驚きと同時に、なんだかんだ言いながら対等に居てくれる事を嬉しく思ったそうだ。
「話の腰を折って悪かった。他には何かあるか?」
「えーっと・・・」
コンコン
「王宮騎士団副団長ニース。ただ今戻りました」
「・・・はぁ、入りなさい」
「失礼します」
態度の違いがすごい。雰囲気の変わりようもすごい。
あの、帰っていいですか?今すぐにでもこの場から立ち去りたいんですけど。
「団長に確認を取ってきた。忌々しいが、本当の事らしいな。貴様、王女に何かしたら承知せんぞ」
「・・・は」
それはこっちのセリフです。とかあんたにだけは言われたくない。とか何様のつもりだ。とか色々浮かんだが、全部抑えた。
余計な波風立て無ければ、それだけ早くこいつはここから消える。
だから我慢だ。いつものことだろ。
「それでは、私は失礼します。此奴が何かしましたら、私にお知らせください。即座に助けに参ります」
わざとか?いや、無意識か。何でそう神経を逆撫でするような事ばっかり言うんだよ。いい加減我慢も限界だぞ。あんた王子に感謝しろよ?
王子が限界だったので、それを抑えるのに必死だった。具体的に何かをした訳では無いが、少しだけ王子と副団長の間に身体を被せて捨て台詞から出ていくまでの間、王子に視線で我慢するように訴え続けた。
「ユーゼン、やっぱりあいつ、ころ「ダメです」
最後までは言わせねーよ?
「アリシア様、終わりました。如何でしょうか」
タイミングが良いのか悪いのか、メイドが髪のセットを終えた。
その発言に導かれるように王子と同時にアリシアに視線を向けた。そして、2人してしばらく時が止まった。
男2人がフリーズしてる間にもアリシアとメイドのやり取りは続いて、しばらくするとメイドが部屋から出ていった。
先に時が動き始めたのは、王子だった。
「随分と雰囲気が変わったね、アリシア。とても良く似合っているよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
歯が浮くようなセリフも、王子が言えば普通に聞こえる。いや、聞く人によっては魅惑の一言に変わる。
それに普通に答えるアリシアは、そういう言葉に慣れているのだろう。
「ユーゼンもそうは思わないか?」
「え、ああ、そうですね。さっきとは雲泥の差です。慣れたつもりだったけど、久しぶりに見惚れました」
「あ、ありがとう」
なんでアリシアは顔を赤くしてるんだ?
「ふむ。ユーゼン、君は罪な男だね」
「よく分かんないですけど、王子にだけは言われたくないです」
それにしても見事だ。アリシアの可愛らしさを残して、美しく綺麗な仕上がりになっている。
あとでさっきのメイドにお礼をしなければ。
「さて、アリシア。さっき言いかけた事は何だい?」
「え、ああ、もう良いの。2人とも目の当たりにしたと思うから」
「「あれか・・・」」
目に浮かぶさっきの言動。いやほんとに気持ち悪くて吐き気が。
そもそもあれは何だ?アリシアを自分のものと信じて疑ってない感じだったぞ。しかもナチュラルにあの言動だろ?なんかもう、なんていうか、言葉で表現しにくい色々な何かが混ざり合った感じだった。
醸し出す雰囲気のせいかな?態度は見たまんまだし、何考えてるか分かんないし。
「やっぱり、あれはころ「ダメですってば」
「どうしてだい?」
「あんなでも王宮騎士団の副団長なんですよ?それになにより、公爵家の次期当主なんですから」
「つくづく忌々しい生まれだね。ユーゼンと逆なら良かったのに」
「そしたらあの人、きっとここには居ませんよ」
「ははは、違いないね。何処かで野垂れ死ぬのが精々だ」
「さっきからお兄ちゃんにしてはかなり辛辣だね」
あ、それ突っ込む?
気持ちがわかるからあえて言わなかったのに。
「当然さ。大事な妹に被害が及んでいるからね。それに、僕だってあれの事が嫌いなんだ」
幾らか後半の割合が強い気がするが、まあそれは突っ込まないでおこう。
それにしても、あーもう、せっかく吐き出させた愚痴の意味が無くなったじゃないか!なんならさっきより怒ってるんですけど!?
「だからって、短絡的な行動は控えてくださいよ?それで立場が悪くなるのは王子の方なんですから」
「分かってるさ。頭ではね」
「身体と口にもしっかり言い聞かせといて下さい」
「善処するよ。さて、散々愚痴も言ったしそろそろ責務に戻ることにするよ」
「頑張ってね、お兄ちゃん」
「お疲れ様です。ほどほどに切り上げて休んでくださいね」
「ああ、じゃあね」
後ろ手にひらりと手を振って去っていく姿は、やはり絵になる光景だった。
これはお見合いどころじゃ無いな、あの人。まあどうせ、なんだかんだ要領良くこなしてしまうんだろうけど。
「・・・あの、ごめんね」
「なにが?」
「その、半日も耐えられなかったから。迷惑、かけちゃった」
「全然平気。むしろ、珍しく我慢せず人に頼ってくれたから嬉しいよ」
「む、ユーゼンは私を何だと思ってるのよ!?」
「頑固で押しの強いお姫様」
「もう!ユーゼン!」
「でも、本当は気弱で気遣い症で、優しくて可愛い女の子」
「・・・ずるいなぁもう」
「アリシアには言われたく無い。それに、今の言い方は王子の真似だから本当にズルいのは王子だ。ああ、もちろん言った内容は全部本音だぞ」
「やっぱりずるいじゃん」
「ん、なに?なんか言ったか?」
「何でもない」
何か言った気がしたんだけどな。声が小さくて分かんなかった。まあ何でもないって言うくらいだし、大した内容じゃ無かったんだろ。
「しかし、俺が王子の言い方真似ても様にならないな」
「え、そう?そんな事なかったと思うけど」
「いやいや、あのイケメンが言うのと俺が言うのとじゃ天と地ほどの差があるよ」
「ユーゼンって、客観的目線で見た自分の容姿ちゃんと把握出来てないよね」
「そんなもん分かるわけないだろ」
「だよね、ユーゼンだもんね」
「おっと、どう言う意味かな?」
「ふふ、そのままだよ」
「よし、やっと笑ったな」
「え?」
「アリシアも王子も、ずっと笑わないんだもんな。特にアリシア。いつもは楽しそうに笑ってるだろ?」
それが今日はどうだ。副団長がいる時は声のトーンが一段下がるし、いつもの優しげな雰囲気が険悪な感じになるし、もちろん表情もいつものそれじゃない。
良くも悪くも、王女って感じの身の振り方だったよな。外に出てるならともかく、自室ではそんな事しないのに。
とにかく、それほど酷い状況だったという事だ。
「むぅ、いつもそんなに笑ってないよ」
「嘘つけ。一緒にいる時いつも笑ってるじゃん」
「それはユーゼンが一緒にいるからで、常に笑ってるわけじゃないもん」
「そうか?でも今日は酷かったと思うぞ」
「まあ、そだね。今日はダメだった・・・明日どうしよう」
「ごめん。団長に期待しよう、としか言えない」
「分かってる。もし明日、あの人に戻っても今日よりは頑張る」
うーん、それはそれで心配になるな。って国王とグレンさんの事過保護だって思ってたけど、これじゃ人のこと言えないな。
分かっててもやっぱり、過保護になるんだけど。
「無理はするなよ?昨日の約束は明日に回して、ちゃんと会いに来るから」
「ほんと?」
「もちろん」
「やった。頑張るね」
「ほどほどにな。ダメそうなら、今日みたいに呼んでくれ」
「うん。ありがとう」
いい笑顔だ。やっぱりアリシアにはこれが似合う。
「王子、さっきから黙ってますけど、何考えてます?」
「ん?ああ、いや、大したことは考えてないよ」
「その考え、言葉にして下さい」
「ニースをどうやって処ぶ、いや副団長という立場から下ろすか。な、大した事なかったろ?」
すみません、聞き逃しませんでした。あんた副団長をどう処分するかって怖すぎるだろ!ていうか処分って表現が・・・いやこれ言葉のままか。
これは放っておくと色々な意味でまずい事態になる事が確定してしまったので、今日中に国王にも話しておく事を決めた。
「とりあえず、考えるだけにして下さい。動かないで下さい。俺が先に動くので、何も変わらなかった時はお願いします。いいですか?」
「いや、僕の妹の事なんだ。ユーゼンに任せる訳には」
「いいですね?」
「・・・分かった」
これで何とか時間は稼げるだろう。早急に何とかせねば。
などと思考に夢中になってしまったせいで、王族を脅すようにして黙らせたという事実に、この時は気が付かなかった。
なお黙らされた本人及びその妹は、そんな扱いを受けるのが新鮮で驚きと同時に、なんだかんだ言いながら対等に居てくれる事を嬉しく思ったそうだ。
「話の腰を折って悪かった。他には何かあるか?」
「えーっと・・・」
コンコン
「王宮騎士団副団長ニース。ただ今戻りました」
「・・・はぁ、入りなさい」
「失礼します」
態度の違いがすごい。雰囲気の変わりようもすごい。
あの、帰っていいですか?今すぐにでもこの場から立ち去りたいんですけど。
「団長に確認を取ってきた。忌々しいが、本当の事らしいな。貴様、王女に何かしたら承知せんぞ」
「・・・は」
それはこっちのセリフです。とかあんたにだけは言われたくない。とか何様のつもりだ。とか色々浮かんだが、全部抑えた。
余計な波風立て無ければ、それだけ早くこいつはここから消える。
だから我慢だ。いつものことだろ。
「それでは、私は失礼します。此奴が何かしましたら、私にお知らせください。即座に助けに参ります」
わざとか?いや、無意識か。何でそう神経を逆撫でするような事ばっかり言うんだよ。いい加減我慢も限界だぞ。あんた王子に感謝しろよ?
王子が限界だったので、それを抑えるのに必死だった。具体的に何かをした訳では無いが、少しだけ王子と副団長の間に身体を被せて捨て台詞から出ていくまでの間、王子に視線で我慢するように訴え続けた。
「ユーゼン、やっぱりあいつ、ころ「ダメです」
最後までは言わせねーよ?
「アリシア様、終わりました。如何でしょうか」
タイミングが良いのか悪いのか、メイドが髪のセットを終えた。
その発言に導かれるように王子と同時にアリシアに視線を向けた。そして、2人してしばらく時が止まった。
男2人がフリーズしてる間にもアリシアとメイドのやり取りは続いて、しばらくするとメイドが部屋から出ていった。
先に時が動き始めたのは、王子だった。
「随分と雰囲気が変わったね、アリシア。とても良く似合っているよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
歯が浮くようなセリフも、王子が言えば普通に聞こえる。いや、聞く人によっては魅惑の一言に変わる。
それに普通に答えるアリシアは、そういう言葉に慣れているのだろう。
「ユーゼンもそうは思わないか?」
「え、ああ、そうですね。さっきとは雲泥の差です。慣れたつもりだったけど、久しぶりに見惚れました」
「あ、ありがとう」
なんでアリシアは顔を赤くしてるんだ?
「ふむ。ユーゼン、君は罪な男だね」
「よく分かんないですけど、王子にだけは言われたくないです」
それにしても見事だ。アリシアの可愛らしさを残して、美しく綺麗な仕上がりになっている。
あとでさっきのメイドにお礼をしなければ。
「さて、アリシア。さっき言いかけた事は何だい?」
「え、ああ、もう良いの。2人とも目の当たりにしたと思うから」
「「あれか・・・」」
目に浮かぶさっきの言動。いやほんとに気持ち悪くて吐き気が。
そもそもあれは何だ?アリシアを自分のものと信じて疑ってない感じだったぞ。しかもナチュラルにあの言動だろ?なんかもう、なんていうか、言葉で表現しにくい色々な何かが混ざり合った感じだった。
醸し出す雰囲気のせいかな?態度は見たまんまだし、何考えてるか分かんないし。
「やっぱり、あれはころ「ダメですってば」
「どうしてだい?」
「あんなでも王宮騎士団の副団長なんですよ?それになにより、公爵家の次期当主なんですから」
「つくづく忌々しい生まれだね。ユーゼンと逆なら良かったのに」
「そしたらあの人、きっとここには居ませんよ」
「ははは、違いないね。何処かで野垂れ死ぬのが精々だ」
「さっきからお兄ちゃんにしてはかなり辛辣だね」
あ、それ突っ込む?
気持ちがわかるからあえて言わなかったのに。
「当然さ。大事な妹に被害が及んでいるからね。それに、僕だってあれの事が嫌いなんだ」
幾らか後半の割合が強い気がするが、まあそれは突っ込まないでおこう。
それにしても、あーもう、せっかく吐き出させた愚痴の意味が無くなったじゃないか!なんならさっきより怒ってるんですけど!?
「だからって、短絡的な行動は控えてくださいよ?それで立場が悪くなるのは王子の方なんですから」
「分かってるさ。頭ではね」
「身体と口にもしっかり言い聞かせといて下さい」
「善処するよ。さて、散々愚痴も言ったしそろそろ責務に戻ることにするよ」
「頑張ってね、お兄ちゃん」
「お疲れ様です。ほどほどに切り上げて休んでくださいね」
「ああ、じゃあね」
後ろ手にひらりと手を振って去っていく姿は、やはり絵になる光景だった。
これはお見合いどころじゃ無いな、あの人。まあどうせ、なんだかんだ要領良くこなしてしまうんだろうけど。
「・・・あの、ごめんね」
「なにが?」
「その、半日も耐えられなかったから。迷惑、かけちゃった」
「全然平気。むしろ、珍しく我慢せず人に頼ってくれたから嬉しいよ」
「む、ユーゼンは私を何だと思ってるのよ!?」
「頑固で押しの強いお姫様」
「もう!ユーゼン!」
「でも、本当は気弱で気遣い症で、優しくて可愛い女の子」
「・・・ずるいなぁもう」
「アリシアには言われたく無い。それに、今の言い方は王子の真似だから本当にズルいのは王子だ。ああ、もちろん言った内容は全部本音だぞ」
「やっぱりずるいじゃん」
「ん、なに?なんか言ったか?」
「何でもない」
何か言った気がしたんだけどな。声が小さくて分かんなかった。まあ何でもないって言うくらいだし、大した内容じゃ無かったんだろ。
「しかし、俺が王子の言い方真似ても様にならないな」
「え、そう?そんな事なかったと思うけど」
「いやいや、あのイケメンが言うのと俺が言うのとじゃ天と地ほどの差があるよ」
「ユーゼンって、客観的目線で見た自分の容姿ちゃんと把握出来てないよね」
「そんなもん分かるわけないだろ」
「だよね、ユーゼンだもんね」
「おっと、どう言う意味かな?」
「ふふ、そのままだよ」
「よし、やっと笑ったな」
「え?」
「アリシアも王子も、ずっと笑わないんだもんな。特にアリシア。いつもは楽しそうに笑ってるだろ?」
それが今日はどうだ。副団長がいる時は声のトーンが一段下がるし、いつもの優しげな雰囲気が険悪な感じになるし、もちろん表情もいつものそれじゃない。
良くも悪くも、王女って感じの身の振り方だったよな。外に出てるならともかく、自室ではそんな事しないのに。
とにかく、それほど酷い状況だったという事だ。
「むぅ、いつもそんなに笑ってないよ」
「嘘つけ。一緒にいる時いつも笑ってるじゃん」
「それはユーゼンが一緒にいるからで、常に笑ってるわけじゃないもん」
「そうか?でも今日は酷かったと思うぞ」
「まあ、そだね。今日はダメだった・・・明日どうしよう」
「ごめん。団長に期待しよう、としか言えない」
「分かってる。もし明日、あの人に戻っても今日よりは頑張る」
うーん、それはそれで心配になるな。って国王とグレンさんの事過保護だって思ってたけど、これじゃ人のこと言えないな。
分かっててもやっぱり、過保護になるんだけど。
「無理はするなよ?昨日の約束は明日に回して、ちゃんと会いに来るから」
「ほんと?」
「もちろん」
「やった。頑張るね」
「ほどほどにな。ダメそうなら、今日みたいに呼んでくれ」
「うん。ありがとう」
いい笑顔だ。やっぱりアリシアにはこれが似合う。
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