ヒーロー・メダル

佐藤次郎

救い

作戦会議の翌日、討伐隊は出撃の準備に取り掛かっていた。

リーダーの二人は田舎で揃えた貧相な武装とは打って変わって、一般兵士クラスの装備を整えていた。

弟のアルスは鋼鉄のブロードソードに鋼鉄のプレートアーマーとやや高価な盾といった装備だ。

姉のネルラは魔法で強化された緑色の厚手のローブに金属製の柄に純度の高い緑色の宝石を嵌め込んだスタッフといった装備だ。
通常スタッフは柄が木製というのが基本だが、彼女自身の戦法を考慮した結果こうなったのだ。

「やっぱり革の物より重いな。」
「そうね、こうしてみるとあの人バイルの装備と身のこなしは流石としか言いようが無いわね。」

アルスが不機嫌な顔を見せる。
「うるせーなあの人あの人って。俺もいつかはあれよりでかくなって、あれより強くなってやるんだからな。」
「あれより強くなっても、あれを越えるのは不可能ね。」
小馬鹿にするような口振りで姉は答える。

それも無理は無い。

二人共身長の差は殆ど無く、身長の高めな女性程の背丈をしている。
それに対し、王国騎士団長・バイルは成人男性の平均身長を遥かに凌駕している。
その圧倒的な差を見れば、どんな奇跡が起こってもその差を覆す事が出来ないと確信出来る。

「うるせーよこのメスゴリラ。お前の顔はただの飾りかよ。」
弟は飾り気の無い、自然な美しさを持つ彼女の顔とその腕っぷしを皮肉するように言い放つ 。

「あぁ?何だとこの軟弱チンパンジーが。女にすら勝てねぇ奴がよくもそこまででしゃばれたもんだなぁ?」
姉は本性を露にし、自分に腕っぷしでも勝てない弟に対する皮肉で対抗する。

姉弟喧嘩に火が点き始めると思いきや、その火は程なくして消える。

「は、はいはい、二人とも。け、喧嘩はやめて。作戦について、は、話しておきたい事があるから、つ、詰所まで来てくれる、かな。」
引きつってはいるが、その優しげな口調と柔らかな声は紛れもなくジーナスの物だった。
当のジーナスは声と同様、二人の本気の貶し合いを見て驚愕を隠せず、引きつった笑顔を見せている。

「は、はい!」 
二人は同時に声を出した。
弟は府に落ちていない気持ちを、姉は見苦しい所を見せてしまったという思いを抱えながら、 三人は詰所へと入る。



「部隊は総勢500名。その内150名が重装騎士アーマーナイト、125名が戦士。4級魔導士が僕含め25名で5級魔導士が100名。
残りの100名は弓兵アーチャーというのは知っているよね。」
「おう。」

「まず、重装騎士アーマーナイト全員でナクラ鞍部に誘導する。
そして、鞍部に隣接した崖の片方に魔導士隊、もう片方に弓兵アーチャー隊を配置し、その両隊で総攻撃を仕掛ける。
余った敵は戦士隊が全て片付ける。
この時、マーチが〈防音サウンド・インサレーション〉をかけておくから、ある程度派手にやっても良し。」

「そうだな。」
「けど、そんな事をするだけでは物足りなくはないかな。」

何が物足りないのかがさっぱり分からない。

「その心は?」
「つまり、降伏する物には慈悲を与えるのさ。」
そのままジーナスは続ける。
「例えば、僕達の戦闘訓練の相手になって貰ったり、物資の搬入を手伝って貰ったりしたらより充実した隊になると思うんだ。それに、無駄な殺生は嫌いだとする人もいると思うから、そちらの方が隊にとって利益になるんじゃないかな。」

確かに素晴らしい考えだ。しかしそれには一点不安がある。

「もし裏切られたりしたらどうするんだよ?」
「それに関しては心配無いよ。イルダが体に爆弾を設置する魔法が使えるからね。」

その答えに対し、ネルラは謎を覚える。
そんな魔法は聞いた事が無いからだ。
「あの、本当にそんな魔法があるんですか?」
「勿論。4級魔導士になる為にはオリジナルの魔法を一つ開発する必要があるからね。その魔法も彼が開発したんだ。名前はとても僕には言えないよ。」
とても唱えるのが恥ずかしい名前だと悟ったネルラはそれ以上聞かなかった。

「それで、僕の意見に乗ってくれるかな?」
「乗った。」
「乗ります。」
その言葉には確かな意思が込められていた。

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